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セーアは良い香りに誘われ匂いを嗅ぐ。しかし柑橘の香りに混じり、腐臭がするため思わず顔をしかめる。その臭いの原因を探ろうと我慢し嗅ぐも、柑橘の香りが邪魔をし辿れず断念した。ルクスはその様子を見て、駄目だったかと納得する。
「立派な果樹園ですね。」
作業をしていた村民が手を止め、深々とお辞儀をする。活き活きとした表情で働いている様子が伺えるが、時々見せる困ったような顔が、ルクスは気になった。臭いの原因が関わっているのは確かだ。
果樹園の奥は森になっている。果樹園自体に原因がないとすれば、周辺を調べるしかない。
「あの森には何かありますか?」
ルクスはスティーグに尋ねる。
「向こう側に使われていない鉱山があります。今は立入禁止になっていますが。」
ルクスは少し考えると、セーアに視線を落とす。恐らく同じ考えなのだろう。森を見て嫌な顔をしている。
「ではそこへ、案内お願いします。」
光の届かないその森は、遠くから見ても異様な雰囲気だ。セーアはルクスの服を不安気に掴む。それを気にも止めず、スティーグを筆頭にルクスたちは果樹園を後にするのだった。
城では珍しい客が訪れていた。ソティリスは皮肉めいたように歓迎する。
「これはこれは賢者殿、てっきり此方のことなど忘れているのかと思っていたぞ?」
ワイスは困ったように笑う。しばらくシニスに滞在すると言う話だったが、どうやら一段落したらしく、各国の王に顔を出しているようだった。
「そう言ってくれるな。でも、君は心配いらないみたいだ。」
「当然だ。何を心配する必要がある?」
自信あり気に答えるも、ワイスの考えていることを見透かすように睨みつける。
「いや何、ノール国王やオリエス国王が崩御した時、君が攻め入るのではないかと思っていてね。」
混乱に乗じ戦争を仕掛けるのは月並だが、ソティリスの考えはどうやら違うようだ。特に今のご時世、次は我が身と怯える人々しかいないのだ。迂闊に手を出す国はない。
「フン。ノールは遠すぎるし、攻めたところであんな何もない国欲しくない。それに、広すぎても管理が行き届かないからな。この国だけで充分だ。」
その言葉を聞き、ワイスはホッとする。信用していないわけではないが、ソティリスはその言動から誤解されやすい。特に前王が崩御したあたりから、ソティリスがどうなるのか陰から見守ってきた。頻繁に訪れても勘のいいソティリスのことだ、余計煙たがられるのが目に見えるため、訪問は控えてきていた。
「それに、今は国取りなどしている場合ではないからな。」
ワイスは感嘆の声を漏らす。少なくとも世界の実情を知っているようだ。だから集魔石を無理に使うことはしないし、宝飾品以外の特産品にも力を入れている。ただ、そのせいで前王を亡き者にしたのはただただ心が痛む。
ワイスにとって国の王は我が子同然だ。幼い頃より、王となるため教育されてきているのを見守ってきた。時代によってはこのようなことは珍しくなかったが、やはり慣れることはない。
しかし政治に口は出さないと決めた以上、私情を持ち出すのも間違っている。ワイスは話題を変えた。
「どうやら君を見くびっていたようだ。シニスの教会にも協力してくれて、立派になったね。」
称賛の声にもソティリスは喜びの様子はなく、悠然と構えている。
「当然のことをしたまでだ。で、オリエス国王には隠し子が大勢いるようだが、実際どうなんだ?」
わかってはいるが、報告にあった話を茶化すように質問を投げかける。
「わかっているだろう?君も意地が悪い。王妃様も吹っ切れたみたいでね、今では宰相と共に政をしているよ。」
「なんだ、つまらん。もう用は済んだだろう、帰ったらどうだ?」
「冷たいね、相変わらず。」
「貴様にだけだ。」
こうして軽口を叩けるのも、ソティリスがまだ若い証拠だ。ワイスがソティリスに一礼し背を向けると、思い出したように声をかける。
「ルクス様には会わないのか?」
ワイスは顔だけ横に向け、少し悩む。
「……私の出る幕ではないからね。」
「そうか。」
気になるくせに。と、ソティリスは聞こえないよう呟くのだった。




