警告
「気が付けばあたり一面荒野となっていた。賢者が先に異変に気付いて、付近の人たちを守ってはいたが……。」
ゾグは言葉が出ず、聞いているしかなかった。
「体の異変に気付いたのは数年経ったときだ。皆歳を取るのに、自分は何の変化もない。賢者によると、神の力の一部が残ったからだと言っていた。……呪われているんだよ、この体は。」
壮絶な人生だったんですね。などとゾグに言う勇気はなかった。そんな一言で済む話ではないと、どう返すのが正解なのか思考を巡らせていた。エテルはそんなゾグを見かねてか話題を変えた。
「……そう言えば、知り合いには会えたか?」
「ぅえっ?」
不意に振られた話題に、ゾグは思わず間抜けな声を出す。
「あ、い、いえ……会わないようにしていたって言うか、そんな状況じゃなかったって言うか。」
ゾグはほとんど研究所に籠もっていた。友と呼べるのも研究員の数人だけで、今はもういない存在だ。時々行く買い物で店員と会話もするが、あくまで客の1人。お得意様でもない。
「ルクスさんは、多分気を使ってくれたんだとおもいます。」
「……そういう方だからな。」
少し呆れたような口ぶりでエテルは答えた。だが、その表情は柔らかい。
「エテル団長は、何故教会に?」
「さぁ、忘れてしまったよ。」
神の器にされ、挙げ句自ら呪いと言う体になり、それでも教会に固執する理由はなんなのか。ゾグはルクスなのかとも思ったが、どこまで踏み込んで聞いていいのかもわからず、口を閉じる。
エテルは切り上げるのか、おもむろに立ち上がる。
「そろそろ失礼するよ。きみもあまり遅くならないように。」
「はい。」
「それと……。」
エテルは小さな声でゾグに囁く。
「調べ物も程々に。」
今までに聞いたことのない冷たい声に、ゾグは背筋が凍るのだった。
ネロは普段にも増して苛ついていた。町に出れば物陰からの視線。さすがに関係者しか立ち入れない場所には来れないが、視線の主に苛立ちを隠せない。
「もう話しかけちゃえば?」
ジュリアンが他人事のようにネロに言う。
「ルクスが放っておけって言うんだよ。」
「絶対面白がってるよ、それ。」
不服そうな顔をするネロに、ジュリアンは少し同情した。しかしダロスト国へ行く前にどうにかしたい。ルクスに放っておけと言われたが、やはり苛立ちの方が勝るため、ネロは任務が始まる前に苛立ちの原因の下へと向かった。
ブロウに頼まれルクスとネロを監視していたクリスだが、教会関係者の住民区には立ち入ることができないため、ほとんど町に来ないルクスたちを監視することが難しくなっている。どうしたものかと周囲を調べるも、解決策は未だ見つかっていない。
「どうしたものか……。」
「直接訪ねてくればよかっただろ。」
独り言に返事がしたため驚き振り向くと、監視対象のネロが睨みつけ立っていた。
「ネロ……何故!?」
「はぁ……バレバレなんだよ。」
頭を抱え呆れるネロをよそに、クリスは監視がバレて慌てふためく。
「お前、俺がここで話しかけたことに感謝するんだな。」
クリスは理解していない顔だ。話しかけるなと言ったことだろうか?とシニスで別れた時のことを思い出していたが、どうやら違うようだ。ネロの呆れた様子は変わらない。
「俺たちはこれからダロスト国へ向かう。お前は何も考えず着いてくる気だったんだろ。」
「そりゃあ……。」
ネロはため息をつくしかない。
「他国で、他国の騎士が、監視で尾行!そこで俺が騒げば、お前はスパイだと思われて捕まる可能性もあるだろ?」
「……はっ!?」
もちろん今現在、ネロ次第でクリスを捕らえることも可能だ。ネロはそうしたいだろう。だが捕らえないのはルクスがそれを望んでいないからだ。
「これは警告だ。さっさと失敗しましたって報告に帰るんだな。」
冷たくあしらうネロに、クリスはしがみつく。
「おいっ!」
「俺は!!……俺はお前やルクス様が王を殺した犯人だと思いたくないんだ。」
「…………。」
「でも、ブロウ団長は怪しんでいる。無実だと確信させてくれ。」
ネロは王宮騎士団にいたときの事を思い出した。捨てられた仔犬のような、助けを求めるような表情。虫酸が走るようだ。
「監視したところで時間の無駄だ。それに、お前の監視がいないとも限らないし、戻れば他の適任者に変わるんじゃないか?バレバレな尾行をするポンコツなんだから。」
しがみつくクリスを蹴り飛ばし、ネロは中指を立てその場を後にした。




