降臨祭
今から600年程前、エテルは信仰心の厚い両親の下、何の不自由もなく育った。ただ特別だったのは、人より強い魔力を持って生まれたことだった。そのためか、両親はエテルを神の申し子だと信じて疑わなかった。そんな両親の期待に応えたい自分と、どこか冷ややかな目で見ている自分がいるのに戸惑いがあった。成人したら絶対に降臨祭の依代に選ばれ、失敗続きだったこの儀式も成功し、世界を救う。そう言われ続けていた。
エテルが成人した年、各地から魔力を持つ者たちが集められた。そこから神の器に相応しい人を選ぶ。
「彼はもう少し待ってもらえないかな?」
エテルの肩に手が置かれる。
「賢者様、あなたが口出しなど珍しいですな。ですが、猶予がないのですよ?」
「成功するとも限らない。そうでしょう?」
そう言うと、賢者……ワイスはエテルの手を引きその場から離れた。エテルはわけもわからず着いていくしかなかった。
「すまないね、いきなり。」
「いえ……。」
賢者という存在は知っていた。だが、こうして見るのは初めてだった。想像以上に若く、エテルは本物の賢者なのかと疑っていた。
「私はこの儀式に反対なんだ。君のような人材が犠牲になるのが惜しくてね。」
(犠牲……ね。)
エテルは正直安堵していた。昔から期待され、少なからずそれが重荷になっていたからだ。
「……両親に謝らないと。」
「それは何故?」
「選ばれなかったから……。」
いくら自分が安堵したところで、このまま帰ればきっとガッカリされる。両親に申し訳ない。エテルはそれしか頭になかった。その様子を見かねたワイスは、語り始める。
「この祭りに名前などなかった。ただ神に豊作を祈る……それだけの儀式だった。だが、世界の魔力が乱れ始め土地が枯れ、更に神頼みが加速した結果、遂には人に神を降ろす蛮行に辿り着いたんだ。」
「……何が言いたいんだ。」
降臨祭の歴史などどうでもいいと、エテルは少し苛立ちを見せる。しかしそれを気にせず、ワイスは憐れむような目でエテルを見る。
「君は死ぬ。それでもやるのかい?」
特別驚いた様子はない。過去にも同じようなことが何回かあったのを知っているからだ。しかしすぐ答えられないのは、迷いがあるからだろう。ワイスはそれを見透かしていた。
「他にも沢山候補がいる。君じゃなくていいじゃないか。」
その言葉に、心が軽くなった気がした。
数年経っても世界は良くならなかった。
「本当に、やるのかい?」
魔力は減る一方で、各国は争いを止めない。
「はい。例え神がいなくても、俺は色んな人に迷惑かけてきたし……両親にも……。気休めにしかならないかもしれないけど、やります。」
「……そうか。私に止める権利などないものね。」
(気休めで命を無駄にするのか。)
ワイスは見守るしかなかった。
儀式が始まり、エテルに高濃度の魔力が集まる。耐え難い程の苦しみだ。そして内側から焼かれるような熱さが加わる。
『何も変わっていないな、人間は。』
声が頭の中に響いたと思った瞬間、目の前が真っ白になった。遠くでワイスの叫ぶ声が、微かに聞こえた。




