港町へ
翌朝も変わらず空は快晴。男はまとめる荷物もないため、宿屋の主人にお礼を言い、すんなりと旅立つ準備が出来た。その足で教会へ向かうと、ルクスとネロが神官と話をしているところだった。
「……なので、妖精がいなくなったら終わりだと思ってください。」
「充分承知しております。これからも変わらず、精霊様に祈りを捧げます。」
一段落したところで男は声をかけた。
「おはようございます。」
「おはようございます。体調はどうですか?」
「大丈夫です。……あの、お世話になりました。」
男は神官に視線を向けた。
「何か手がかりがあればいいですね。あなたに精霊様の御加護があらんことを。」
男は初めて村を外側から見た。頼りない柵で囲われている。小さな看板にはパーニュ村とあり、これも初めて知ることだった。
足を止めることなく、ルクスが話し始める。
「改めまして、よろしくお願いします。お名前どうしましょうか?」
「お前、ミスターX、ジョン、ネームレス、何がいい?」
「変に名前をつけても、わかったときにややこしくなるね。」
「好きにして下さい……。」
「ではネームレスくん。」
「ジョンがいい。」
「ネームレスくん。」
ネロの抗議も虚しく、ルクスが話を進める。
「今から私たちは港町、プルエに向かいます。」
そこから歩きながらいろいろなことを聞けた。
4つの国があり、それぞれの国に統治している王がいて、世界の中央にある大陸に、教会の本部がある。各国で起こる戦争で自然が破壊され、精霊の力が弱まっている。妖精がそれを補っているが、妖精が消えるのも時間の問題で、精霊の加護が消えれば生き物さえ住めなくなる。教会騎士団は精霊や妖精を助け、再び人が住めるよう力を貸す。
要は人間の荒らした場所を、再び再生するよう各地を回っていると言うことだった。
精霊がこの世界を住めるようにしている。それは理解出来た。しかし男……ネームレスは1つ疑問があった。
「神様が精霊をつくったんですよね?じゃあ神様はいるんですか?おとぎ話じゃなく。」
ルクスは困った顔を、ネロはネームレスを睨んだ。
「神様は精霊を生み出したあと、力を使い果たし眠りについた、と言われてます。」
ネロの様子を伺いながら話を聞くうちに、景色が深い木々から次第に空が開け、海が見える整備された街道に出た。
「さぁ、もうプルエは目の前ですよ。」
「すごい……!」
目の前に広がる景色に、ネームレスは感動するのだった。