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記憶喪失である男は宿屋に用意された部屋でぼんやりとしていた。先程とは違い、服装も新たに用意され小綺麗になっている。
教会の本部とやらへ行けば自分のことがわかる。しかし不安もある。何故森で倒れていたのか、それ以前は何をしていたのか。思い出そうとすると頭が爆発しそうに痛くなる。誰かに追われていたのか、迷ったのか。名前がわかったところで、それらがわかるわけじゃない。
(……あれは?)
ふと外を見ると、ルクスとネロが村人に囲まれている。気分転換に、男も外に出ることにした。
「ルクス様、どうかこの子に精霊様のご加護を。つい先日生まれたばかりなんです。」
「ルクス様、最近腰が痛くて仕事もままならないんです……。」
「ルクスさま!ネロ!あそぼ!!」
2人は身動きが取れないほど村人たちにもみくちゃにされている。それを見て男は声をかけるのを躊躇った。しかしネロがそれに気付き、両脇に子供たちを抱えながら男の元へやって来た。
「大変そう……ですね。」
「これも仕事だからな。」
「あの、ルクス……さんは偉い方なんですか?」
その言葉に、ネロの表情が一瞬変わった気がした。
「まぁ、偉いよ。」
「ネロさんも?」
「どうだろう。教会騎士団所属だけど肩書とか聞かれるとなぁ。」
男が不思議そうな顔をしたのだろう。ネロはやれやれといった様子で説明した。
「騎士団、わかる?王様に仕えてる騎士団が王宮騎士団。教会に仕えてるのが教会騎士団。いろいろあって王様と教会は仲悪いの。」
「わかりました……。」
ネロに嫌われている。そう感じた男はこれ以上聞くのをやめた。
「ありがとうございます、ルクス様!」
歓声があがる。ルクスは女の抱く赤ん坊を優しく撫でた。それを見ていた子供が聞く。
「ルクスさまって女の人だよね?」
「違うよ!前来てくれたとき泥にはまった牛を持ち上げてたんだよ!力持ちなんだから男の人だよ!」
それを見てルクスは笑う。
「こら。セクハラだぞ。」
ネロが子供たちの頭に手を置く。ルクスに目配りをして、少し離れた男を伺った。
「我々は各地を巡回しています。あと数カ所あるので、お手数ですがあなたにも付き合ってもらいます。もしかしたら何か手がかりがあるかもしれないですからね。」
「わからないことがあれば道中きけばいい。」
「明日の朝出発するので、それまでゆっくりしていてください。」
では、とルクスとネロは教会ではなく、村の奥へと消えていった。