賢者
陽が沈む頃、ようやくシニスが見えてきた。しかしルクスはその場で足を止める。
「どうした?」
ネロが問いかけるが、ルクスの表情は険しく青ざめている。
「ルクス様は入らないほうがいいと思いますよ。」
背後からの声に振り向くと、そこには長身で細身の男と、エルフの少年がいた。警戒するゾグをよそに、ルクスたちは顔見知りのようで話しを勧めている。
「ワイスさん……。」
「そもそも人間はお前の管轄だろ!お前がちゃんと見てないからルクスが苦労するんだ!」
話が見えないゾグに、ジュリアンが小声で聞かせる。
「あの人はワイス。賢者って言われてる人で、よく各国の王様に呼ばれて政治の相談とかされてる。」
「私は政治に口は出さないよ。するなら忠告だけさ。」
ワイスと呼ばれる男の見た目は若い。噂によると、創生期から生きている、などといった逸話がある。時々見せる言動が年寄りくさいのが、彼をそう見せているのだろう。しかしその知識は本物で、国王が頼りにしていると言うのも確かなのだ。
「ここではなんだ、私の家でゆっくり話そうじゃないか。」
そう言うとワイスの背後に別の空間が現れる。そこには外ではない、室内が映っている。ゾグは試験の際エテルが言っていた時空に干渉する魔法を思い出した。
「時空魔法……?」
「よく知っているね。でも私のこれは少し違うんだ。聞きたい?」
「師匠、行きますよ。」
隣にいたエルフの少年がワイスの話しを中断させる。
そこはワイスの家に繋がっていた。窓からは緑の木々が生い茂っている。先程までいた場所とは違う場所とすぐわかった。エルフの少年がエテルたちにお茶を出す。
「さて、本題なんだが。」
ワイスが大きなロッキングチェアに座る。
「彼が残した研究……というのは語弊があるかな?まぁ、それが予想以上に進んでいてね。」
ワイスはゾグを見ながら語る。全てお見通しのようだ。
「彼らは妖精ではなく、エルフから魔力を吸い上げているようだね。」
ルクスは驚愕した。そもそもエルフは人里には現れない。だが、全く現れないわけではない。リーヴィオのように変わり者もいるし、友好的なエルフもいる。そのエルフに漬け込んだのだろう。
「私はエルフとも親交があるし、そこにいるアネルの頼みでもあるからね、お仕置きしに来たんだ。」
ワイスの隣にいる少年が一礼する。
「それで、何でルクスは町に入らないほうがいいんだよ。」
ネロは少し苛立ちながら問う。ルクスは落ち着いたようだが、ネロは魔力など感じないため周りより情況が掴めないのだ。
「ルクス様は妖精や精霊よりも実体があり、エルフよりも身近で魔力も無尽蔵。彼らにとっては良い餌だ。」
「あ!?」
「やめなよネロ君。」
餌と言われ頭に血が上るネロを、ジュリアンが制止させる。
「野放しにした責任もある。今回は私がなんとかする。ルクス様はいらぬ感情も感じ取ってしまう。関わらない方がいい。」
ワイスは椅子から立ち上がると、1人消えていった。追いかけようと立ち上がるも、それは既に遅く、ワイスの姿はない。アネルと共に残されたルクスたちは、しばらくあ然としていた。




