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外は晴天だ。牧歌的、と言う言葉が似合う。村人は時間に追われることなく、子供は元気に駆け回り、大人は伸び伸びと働いている。男は羨ましいとさえ思った。
神官と男は村の入口へやって来た。そこには2人、1人は男性女性どちらともとれる容姿をしている。何か圧倒されるような雰囲気があった。その隣に立つ男もまた、背筋が凍るような寒気がする。見た目は若く、笑顔なのだが何を考えているのかわからない。
神官が男を呼ぶ。
「はじめまして。私はルクス。彼はネロ。」
声を聞いても性別がはっきりしない。男は2人に頭を下げた。若そうに見えるが、神官や2人の存在に気付いた村人たちが有難そうにしている様子から、それなりの地位にいるのだろうか。
「話は聞きました。私たちは明日までいるので、まずはその身なりを整えて身体を休めてくださいね。」
そう言われ、男はハッとした。介抱され、記憶もなく混乱しとにかく今の自分の状況を知りたかったため、自分の姿がどの様になっているのかなど気にもしていなかった。
ネロと紹介された男が視界に入る。
「さっきまで森で倒れてたのに、タフだよなぁ。ウケる。」
男は苦笑いした。
ルクスとネロは記憶喪失の男を宿屋の主人に任せ、教会へと向かう。
「正体もわからない者なのに押し付けてしまい申し訳ありません。」
神官は2人に謝る。
「いいんですよ。それに、魔力を持つ者ですからすぐにわかると思います。」
「ありがとうございます。」
それをネロは面白くなさそうに聞いていた。
「せっかくルクスと2人で回れると思ったのになぁ。」
「彼にあまり突っかからないようにね。それより……。」
本題と言わんばかりにルクスは神官を見据える。
「はい。ついにこんな小さな村にまで被害が出まして……。」
この世界には様々な種族が住んでいる。中でも魔物は人を襲う。しかし魔物はあまり人里には現れない。しっかりと棲み分けがされているからだ。魔物より獣の方が、畑を荒らしたり人を襲う。しかしいつの頃からか、人が何者かに殺される事件が多くなった。しかしその死体は明らかに人間の仕業ではなく、獣か魔物に食い散らかされている無惨な姿なのだ。
本来なら王に仕える騎士団が各地を回るはずなのだが、どこで事件が起こるかも不明で殆どが人の多い街だったため、こんな小さな村には騎士団が来る余裕がないのだ。
「王宮騎士団の連中、俺たちが首突っ込むと怒るからな。」
ネロは教会の椅子に座る。ルクスは精霊を象った像に向かい祈りを捧げた。村とその周辺に、結界が張られた。
「村から出るときは決して1人で出ないように。」
「ありがとうございます。」
神官は深々と頭を下げ、2人は再び外へと出た。