ノール大陸へ
ルクスの部屋の扉が激しく叩かれた。こういう時は、団員だけではどうにもならないことがある時だ。
「失礼します!」
「どうしました?」
「ノール大陸へ調査に行った隊からの連絡が次々途絶えています。」
ノール大陸は、このスピルス大陸から北の方にある大陸で、一年の殆どが雪に囲まれている。最近妖精が極端に少なくなっているようで、それを調査しに数名の教会騎士団員が出向いていた。しかし連絡が取れなくなり、原因を突き止めるために再び人を送ったのだが、それも連絡が取れなくなったらしい。
「……エテルには?」
「報告済です。ルクス様にご相談を、と言うことでしたので。」
「そうですか。」
魔力が満ちていれば妖精を介して会話ができる。しかし、妖精が少なかったり既に死んでしまった土地では不可能だ。連絡がないと言うことは、前述の通りなのか、それとも連絡が出来ない何かが起きたかだ。しかし、 そういった場合は伝書鳩など、他の手段もあるがそれがないとなると、団員たちに何かあったと考えるのが普通だろう。
各大陸には精霊が必ず存在する。自分の大陸を守護しているのだ。多少の問題は精霊の前ではそよ風程度だが、過度に妖精が減れば話は別だ。
「状況がわからない状態でルクス様を現場に行かせたくはないんだが……申し訳ない。」
「いえ、緊急事態ですから。」
人員が割けないため、エテルとルクス、そしてネロの3人でノール大陸へ向かうことになった。
こうしてルクスが出向くことは珍しくない。人員が少ないというのもそうだが、今回のようにルクスでないと対処出来ないことが多いからだ。エテルだけでもよかったのだが、結界や、もし精霊と対峙した場合、ルクスにしか解決できないのだ。それ程までに世界各地で異変が起きていると言うわけだ。
普段教会騎士団が各地へ行くときは、教会騎士団専用の船を使う。しかしルクスはあえて一般客と同じ船を使っていた。今回は他に寄る暇などないため、専用の船を使うことになった。
「楽しそうだな。」
ルクスの表情は和やかで、ネロはそれを見てつられて微笑む。
「不謹慎だけど、こうやって外の世界に出るのは楽しいんだ。」
「俺も好きだよ。ルクスと出かけるときだけ。」
雪がちらつき始める。ようやく見えたノール大陸には、雪雲なのか死の直前なのか見分けがつかない程、空が黒く淀んでいた。それを見たルクスとエテルは、えも言われぬ表情をし、ネロは2人とは逆に何が起きるのかと楽しそうな表情をするのだった。