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翌朝、少年は帰ってこなかった。あのままフェデリコ夫妻の家に泊まりに行ったらしい。
「正式に引き取られることになったよ。」
ルクスから告げられると、アレスとセーアは以外にも反応は薄かった。
「ふぅーん。」
呆気ないもので、それだけだった。
「もっと残念がるかと思った。」
「しかたないよ。だって、僕たちとは違う世界に住んでるんだもん。やっと“普通”の生活ができるんだから。」
表情から見ても、特に我慢しているようには見えない。セーアが説得したのか、昨日の時点で割り切っていたのだろうか。
客室にはフェデリコ夫妻と少年が待っていた。ルクスに深々と頭を下げ、感謝している。
「本当にお世話になりました。ルクス様には感謝してもしきれません。」
「これは運命なんです。ですから頭を上げて下さい。」
ルクスはアレスとセーアを前に押しやる。少年は恥ずかしげにアレスとセーアの手を取った。
「僕ね、ノアって言うんだ。」
「ノア……。」
少年……ノアは照れくさそうに笑う。
「ルクス様、僕を保護してくれてありがとうございます。アレス、セーア、また遊ぼうね。」
「……しかたないから遊んであげる。」
ノアは手を振りながら町へ降りていった。アレスも手を振り返す。
今はもう、あの不快感はない。きっとあの子とはもう会わない。人間の学校に行って、友達が出来て、きっと僕のことを忘れる。だったら僕も忘れよう。
それは寂しさからの考えではなかった。ただ自然と気持ちが冷めてしまったからだった。
「いっちゃった。ねぇ、アレス。」
「なに?」
「変わりに私が剣術の稽古について行こっか?」
「何で知ってるの!?」
「知らなーい。」
笑いながら走って行く双子は、普段と変わらない様子で遊び始めるのだった。
ネロは自室で銃の手入れをしていた。港で見せた物とは別の銃だ。だが、オイルが切れたらしく軽く舌打ちをする。棚から新しいオイルを取り出すと、窓の外からアレスとセーアが走っているのが見えた。何を考えているのか。双子を見下ろす表情は冷たいものだった。