父と母
翌朝、ウベルトはルクスを探していた。しかしルクスは神出鬼没らしく、毎回探すのに苦労している。礼拝時間も差し迫り、後回しにしようと思い教会へ向かった。
教会には多くの人が礼拝に来る。教会全体の人数は50人前後しかいなく、各地の教会に1、2人配属されると神官は片手で数える程しか残らない。残りは教会騎士団員になるが、それも巡回などで人手が出払ってしまうと、教会本部には数十人残るか残らないかで、自然と一人ひとりの負担が大きくなっていく。そもそも魔力を持った人間が少ないため仕方がない。
ウベルトも例に漏れず多忙で、物事がうまく行かず苛つくことが多くなっている。
教会本部にある像は、他の教会とは異なり神を象ったものだ。ウベルトは教会で準備をしていると、探していたルクスとネロが入ってきた。
「おはようございます。」
「おはようございます。今日も良い朝ですね。」
ようやく見つけたルクスに手短に要件を伝える。
「例の件ですが、やはりわかりませんでした。おそらく誘拐か捨てられたか……。」
「そうですか。」
ルクスは残念そうにした。
「それで、フェデリコ夫妻が良いのではないですか?」
「フェデリコですか、彼らなら安心ですね。」
「では、話を進めておきます。」
ウベルトはそう言うと、忙しそうに準備を再開し始めた。
「何の話?」
「養子の話。両親がいないとあの子のためにならないからね。」
ルクスは神像に祈りを捧げると、ウベルトに声をかけ教会から出ていった。
子供たちは住民区を走り回っている。昨夜少年は、生まれて初めて固くないベッドで眠った。まるで雲の上にいるような居心地で、双子に挟まれ川の字になりながらだったので暖かく、深く眠りにつくことができたのだった。
「今日はママの所に行きましょう。」
「パパ今日出かける日かな?」
少年は不思議に思った。てっきりこの双子も親がいないものだと勝手に信じ込んでいたからだ。それを感じ取ったのか、2人は説明した。
「昨日一緒に来たでしょ。ルクス様のことよ。」
「でも……女じゃないって。」
「育ててくれる人は女の人のでしょ?じゃあママじゃない。」
「でも女の人には胸があるだろ。でもないんだから男!パパ!」
「これだから男の子って嫌よねぇ。胸、胸って。サイテー。」
少年を挟んで言い争いをする双子だが、矛先が自分にくる前に話を逸らす。
「2人は、精霊様に会ったことあるの?」
その問いに、2人は得意気に答える。
「ない!!」
「ないわ!!」
何故そんなに自信あり気に答えるのか。
「でも妖精ならそこいらにいるし、もっと凄いのに会ってるじゃない。」
「え?」
「パパ……神様だよ。」
少年は驚いた。からかわれているのかとも思った。船で出会ったときは聖人様なのだと思っていたが、確かに不思議なことが起こった。だが神様に救われたのだと思えば、この幸福も本物なのだと思える。
「それはちょっと違うよ、子供たち。」
どこからともなく声がする。振り向くと姿はなく、探していると上から声がした。声の主はどうやら建物の2階から話しかけてきたらしい。本当に教会の人間なのだろうかと疑うくらい、耳や顔にピアスが付いていて痛々しい。
「ジュリアンだ。」
ジュリアンと呼ばれた青年は、2階の窓から子供たちのいる地上に飛び降りてきた。
「ルクス様は厳密に言えば神様じゃないよ、少年。」
「げんみつ?」
「そう。ルクス様は……。」
その時だった。
「ジュリアン!時間だぞ、早くしないか!!」
エテルの怒号が木霊する。ヤバイと言った顔をして、ジュリアンはエテルの元へ走って行く。
少年は途中で話が途切れてしまい、モヤモヤするのだった。