双子と少年
ぬいぐるみやおもちゃなど、子供らしい部屋で、双子に連れられた少年は困惑していた。
「君、名前は?僕はアレス!」
「あたしはセーア!」
「ぼ……ぼくは……。」
アレスとセーアに押され気味で、少年は引くしかなかった。それにイライラしたのか、セーアはさらに質問をする。
「何歳?どこから来たの?親はいないの?」
その質問に、少年は答えられなかった。
「僕……名前ない。」
「え?名前ないの?どうして?」
「わかんない……。」
泣きそうになり俯く少年をよそに、アレスとセーアは気にしていない様子で続けた。
「ふーん。じゃあ小猫ちゃん!」
セーアは少年をそう呼ぶと、部屋の一室を指差した。
「アレスと一緒にお風呂行ってちょうだい。そんなかっこで教会を歩いてほしくないもの。」
セーアはアレスと少年をバスルームへ押しやる。
少年の身体には無数の傷があった。擦り傷、ミミズ腫れ、打撲痕。少年はそれが恥ずかしいのかもじもじしている。しかしアレスは気にしていないようだ。
「ごめんな。セーアってキツイから。」
「大丈夫。気にしてないから。」
少年にとって風呂に入るのは久々のことだった。物心ついたときには奴隷のような扱いだった。親という存在がいると言うのも、最近知ったことだ。それなのに、地獄の日々から今はお風呂にいる。
「僕、セーアに内緒で剣術習ってんだ。」
アレスが得意気に話す。
「内緒なの?」
「うん。だってあいつうるさいんだもん。」
「すごいなぁ。」
「一緒に習おうよ!楽しいよ!」
「僕なんかできないよ。」
湯槽に浸かりながら、2人は楽しそうに話す。少年にとって、心の底から楽しいと思ったのは初めてだった。アレスも、いつも一緒にいるのは双子のセーアで、他に歳の近い子供はいなかったため、とても楽しそうだ。2人にとって、初めての友達とえいる相手なのだった
町は日が沈んでも賑やかだ。用意された宿屋で、ゾグは悩んでいた。どんな試験なのか、今まで一度たりとも騎士の真似事などしたこともなく、喧嘩も弱い。筆記試験なのだろうか。
「不安でしかない。」
その時、部屋の扉が開いた。大きな荷物を背負った青年と、その後ろには眼鏡をかけた少年が立っている。
「あれ、先客だ。」
どうやら同室相手らしい。
「多分、同じ試験を受けるんだよ。」
話を聞く限り、この2人も入団試験を受けるらしく、この部屋は試験受験者用に用意されたものらしい。
ゾグは自分だけが受けるわけではないと知り、少しだけ胸を撫で下ろすのだった。