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「王がルクスの訪問を拒否したのも、研究所が襲われたからだろうな。」
エテルは落ち込むゾグに構わず続ける。
「隠蔽か、研究の事を知ったのか、どちらにしろ王が関わってくる。そして、王都教会もな。」
「調べさせよう。」
ウベルトとエテルが話し合うなか、ルクスがゾグに問いかける。
「王都に戻ったとして、研究所はどうなっていると思いますか?」
「……たぶん、王宮が介入するなら、いままでの研究員は総入れ替えされると思います。」
「そうでしょうね。自分たちの都合のいいようにするはず。」
何を言いたいのかと、ゾグは聞く。
「ゾグさん、教会騎士団に入りませんか?」
ウベルトとエテルは話を止め、ネロは机を叩き立ち上がる。音に驚くよりも、ルクスの発言にゾグは驚いていた。
ゾグが言葉にするよりも先に、ウベルトが堰を切ったように叫ぶ。
「私は反対だ!!」
「俺も反対。いくらルクスの言うことでも、こんな怪しいやつを側に置くなんて嫌だ!」
ネロの意見も最もである。
「でもこのまま王都に戻っても、彼の居場所はありませんよ。それに怪しいと言うなら、側で見張っていればいいじゃないですか。」
その言葉に言い返せず、2人は黙り込む。言い出したら聞かないのを知っているのか、エテルは半ば諦めたようにため息をついた。
話についていけないゾグは、しばらく呆けていたが、意を決した顔をるす。
「ここまでの道のりで話を聞いて、世界の実情を知って凄くショックでした。償いと言うわけじゃないけど、僕も精霊や妖精のために何かしたいです。」
それは真っ直ぐとした瞳だった。ゾグは死んでしまった島が脳裏から離れないでいた。もし研究所が襲われず、変わらずに妖精を使い続けていたら。精霊を使ってしまっていたら。そう思うと、心底恐怖が込み上げてきた。
ゾグは、こんなことをしたかったんじゃない、皆の生活がよくなればいいと、そう思いながら研究を続けてきた。だが、妖精を犠牲にしたら生活どころじゃなくなる。
ルクスはゾグに笑みを向ける。
「では、来週の入団試験、頑張って下さい。」
「えっ……?」
試験があるなんて聞いてない。ゾグは再び呆然とするのだった。
ウベルトとエテルは中庭を歩いている。
「まったく。ルクス様にも困ったものだ。自分の意思があるのは成長したと言いたいが、こちらとしては喜ぶべきかどうか。」
ウベルトは眉間に皺を寄せる。彼の悩みは尽きないが、解消されない悩みほどストレスになるものはない。
「少なくともあいつにとっては喜ばしいことだ。ただ、今回の件はそうじゃないだろうがな。」
エテルはそう言うと、本来の職務に戻っていった。
「ネロは本当に心配性だね。」
ネロの部屋だろうか、部屋は意外と綺麗に片付かれており、どちらかというと何もない。ネロはルクスにお茶を淹れている。しかしネロは少々元気がない。
「……ルクスは俺だけの神様なんだ。あいつらはルクスなんて見てないのに。」
ネロは顔をしかめる。ルクスはお茶を一口飲む。
「でも、騎士団は人手不足で各地を回るの大変だから、人が増えるのは良いことだよ。」
「そう言うことじゃない。」
「……わかってるよ。私にも、ネロだけなんだから。」
ルクスは手を差し出すと、ネロは跪き手の甲にキスをする。
これは契約でも誓いでもない。ルクスの側にいる。それこそが、ネロの人生での役割なのだ。