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神の守護騎士  作者: 月岡
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2

 港では乗客の持ち物を確認する検問が行われていた。王宮騎士団とは違う格好をしている。おそらくあれが教会騎士団なのだろう。

 拘束した男たちを教会騎士団に引き渡しつつ、ルクスたちも検問を受ける。


「ルクス様、毎回で申し訳ないのですが、ルクス様はなさらなくてもよいのですが……。」

「いえいえ、規則ですから。」


 困り顔の騎士に首輪の入った鞄を押し付ける。


「これをエテルに渡して下さい。決してエテル以外に渡さないように。私からと言えばわかります。」

「かしこまりました!」


 次にネロが鞄を差し出す。ルクスの本にコイン、そして銃弾が乱雑に入っている。服に隠れて見えなかったが、腰から銃も出して見せていた。


(銃……初めて見た。)


 この世界で銃を使う人はあまりいない。比較的最近出てきたもので、職人が少ないためか出回る数が少ない。そして銃弾にも費用がかかるため、使用者が少ないのだ。

 ネロは武器を携帯するのに必要な許可証のプレートを見せ、ゾグの番になった。しかし鞄の中にはコインくらいしかなく、呆気なく終わった。


 教会まで専用の馬車で移動をした。道中特に会話もなく、あるとすれば少年の話に付き合うことくらいだった。


 教会の総本山だけあって、町には沢山の人、そして人間以外の種族がいた。プルエとは違う賑わいに、少年ではなくゾグの方が目が輝いていた。

 やはり他の町にある教会とは違い、建物が大きく立派だ。大勢の神官や教会騎士団に出迎えられ、ゾグと少年は尻込みする。

 扉を開けると、ルクスの体に衝撃が走った。


「お帰りなさい!」

「早かったね!」


 ルクスに抱きついていたのは、双子の男女の子供だった。横髪からは小さく尖った耳が見えている。


「ただいま。」


 双子はゾグをちらりと見ると、少年に声をかけた。


「子供だ。」

「あたしの方が背が高いわ。」

「僕たちの部屋に行こう。」


 興味津々に話しかけ、少年の手を取りあっという間に走って行ってしまった。


「本当、嵐みたいなやつらだな。」

「私たちはこっちです。」


 中庭を抜けると、教会に仕えている人たちが住む住民区になっている。そこの一室に入ると、2人の男が待っていた。1人は初老、1人は壮年に見える。

 席に座り、ルクスが2人を紹介する。


「こちらはウベルト神官長、そしてエテル聖騎士団長です。」


 初老の男……ウベルトがゾグを睨み、威厳のある声で続く。


「君のことはこちらで調べさせてもらった。しかし、直接君の口から聞きたくてね。」


 ネロが小さく、相変わらず怖ぇ……と呟く。ウベルトは聞こえない振りをした。ゾグはその気迫に気圧され気味に、静かに語り始めた。


「僕は王都にある研究所で働いてました。そこで、外灯などに使われている集魔石(しゅうませき)に魔力を注いだり、集魔石の代わりになるエネルギーを研究していたんです。

でも集魔石も消耗品です。もし壊れたら入手困難です。そしてある時同僚が、妖精の魔力を利用したらどうだろうと、提案してきたんです。」


 そこにいるネロ以外が眉をしかめたのがわかる。


「妖精が見える僕は、そこかしこにいる妖精が当たり前だと思ってた。こんなにいるんだから、少しくらい利用しても問題ない、と。でも納得の行くデータも取れず悩んでいたとき同僚が言ったんです。精霊はどうだ?と。」

「なんと愚かなことを……。」


 ウベルトは怒りの籠もった声で言った。ゾグはその重圧に耐えながら語る。


「そんなとき、同僚が何かに襲われる所を目撃しました。同僚の身体の殆どが無くなってて……僕も襲われそうになって、必死に逃げて、崖から落ちて……後は知っての通りです。」


 しばしの沈黙が続いた。

 ルクスは考え込んだ後、ゾグに問う。


「その研究所、集魔石ってありましたか?」

「……はい、まぁ研究用に集魔石の原石を。」


 その言葉を聞いて、その場の全員が納得していた。訳がわからず、ゾグは黙り込む。


「集魔石は魔力を集める石だが、それは加工されたものの話だ。」


 エテルが見覚えのある首輪を取り出し、机に放り投げた。少年が付けていた首輪だ。


「原石の場合、魔物を集める石の意味での集魔石になる。」

「そんな……!?じゃあ同僚は……。」

「最近じゃ結界も弱まってきているし、運がなかったんだろう。」


 ゾグは青ざめた。同僚は集魔石の原石があったがために、魔物に襲われ死んでしまったのか、と。


「ですがその研究、続いているみたいですね。」

「続いてる……?」

「プルエでの事件、覚えていますね?」


 忘れるはずがなかった。記憶喪失だったとはいえ、2度も人の死体をみているのだから。


「どうやらプルエの神官が、妖精を捕まえてどこかに流していたらしいのです。」


 ゾグは思い出していた。プルエの教会に初めて行ったとき、妖精が見えなかった違和感を。おそらく神官に危険を感じて、妖精が近付かなかったのだろう。


「私たちは妖精の件を聞くために訪ねたのですが、あの事件がありました。神官もショックを受けていたので、良い薬になるだろうと思い、何も言いませんでした。」


 だが、ゾグの耳には聞こえていないようで、下を向いたまま微動だにしない。世の中の生活をよくするためにやって来たことが、全て裏目に出ている。これまでやってきたことが全て、無駄になった。

 ゾグは声を出さず、静かに泣くのだった。

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