出撃
今回は、海面を滑走する水上型機甲神骸の出撃シーンを描いています。お楽しみいただけましたら幸いです。
わだつみの機甲神骸用滑走路は、一本のみだ。早ヶ瀬隊長機であるA-14Sから出撃し、勇名の六式、その他のパイロットのA-8Sが後に続く。
まだ若く階級も高くない早ヶ瀬三尉が機甲神骸部隊隊長になっているのは、最近の人事異動の影響だ。八洲から出向で来ていたパイロットが何人も引き上げ、その後に新人パイロット数名が配属された。それにより、人数も練度も一気に下がった。
それが今回の事件の伏線だったようにも思えるが、長い平和の期間中では珍しいというほどでもない人事であった。むしろ、今回のような非常事態が考慮されていなかっただけにも思えた。
早ヶ瀬機は、カタパルトに乗り、一気に滑走していく。まずは空中で加速し、ゆっくり着水して海面での滑走を始めるのだ。
早ヶ瀬機に続いた六式も、カタパルトに両脚を乗せる。低い姿勢をとり、エリクシウムジェットエンジンを起動する。
勇名は改めて各種計器と滑走路の安全を確認し、管制塔に連絡する。
「羽佐間機、滑空準備よろし」
「管制塔Cより羽佐間機、滑空を許可する」
「羽佐間機、出ます!」
エリクシウムジェットエンジンが本格稼働すると同時に、カタパルトが蒸気を吐き出しながら六式を前進させる。加速に伴う強いGが勇名を襲うが、鎮痛剤の影響で傷口は痛まない。
タイミングをみて六式の脚を伸ばすと、ノイズキャンセリングで消しきれない風切り音が勇名の耳に入る。最大出力での加速が、身体だけでなく意識にも圧力をかける。
訓練通り視線を遠い水平線にやり、空と海の間を眺める。水平線が高くなると同時に、高度計が下がっていく。全球モニターの下部に水飛沫が見えたところで、エンジン出力を下げていく。
勇名は改めて各種計器を確認して、管制塔に呼びかける。
「羽佐間機、着水成功」
「ご武運を」
六式が波を切って水上を滑走する。周回して待っていた早ヶ瀬機が右手に現れる。
「Aリーダーより羽佐間機、2機で先行して交戦する」
「羽佐間機了解」
「早ヶ瀬機より各機、残り全員の着水が終わるまで周回して合流しろ」
ダニエル機を始め、残り5人のメンバーから返信が入る。
右手に見える早ヶ瀬機に合わせて、加速していく。最大戦速に近づくと、地面効果*により機体はほとんど浮いた状態になり、時折ブレードが海水を叩くだけになる。
「お兄ちゃん、もうすぐミサイルの射程距離に入るよ。訓練通りにやって、生き残ろう」
「ああ。生き残ろう、永遠」
「早ヶ瀬機より羽佐間機、各個に攻撃を許可する。散開」
「羽佐間機了解」
水上型機甲神骸同士の戦闘は、大体が戦闘機同士と同じで背後の取り合い、いわゆるドッグファイトになる。
散開するなり、勇名は早速レーダーに映る敵機をロックオンしていく。六式の場合、レーダーの索敵範囲が他の機甲神骸と比較して広大なため、ミサイルの航続距離を考えてもほとんどの場合、先制攻撃が可能になる。
「食らえ、テロリストども!」
六式の背部ミサイルランチャーから八つの|対水上型機甲神骸ミサイル(ASAM*)「ブレット」が飛び立つ。
その上で、敵の逃げ方をレーダーで確認して一番戦闘経験の足りなさそうな相手の背後をつく作戦だ。
「イタチ散開まで5秒、4、3、2……」
敵に近づくと4本の小型ミサイルに分裂するのは、ブレットミサイルの特徴のひとつだ。さらに、その小型ミサイルは最大六回の軌道修正が出来る。八洲とヴェリテリア共同開発のASAMで、わだつみでも制式採用されている。
「イタチ、散開」
永遠の声と同時に、ブレットが4本の小型ミサイルに分かれた。レーダーを見る限り、敵は散開してブレットから逃げているようだ。
「お兄ちゃん、接敵まで10秒、9、8、7……」
水平線に微小な点のように見え始めた敵影が、みるみるうちに大きくなっていく。レーダーを見ると、敵に便宜的に番号が振られていく。
「永遠、Enm-12のケツを取るぞ」
「了解」
最大戦速から速度をやや落としつつ、六式の身体を傾けて12番の敵を追いかける動きをする。
敵は全てが八洲のA-8Sのようだ。ドッグファイトでは、敏捷性に優れた六式に分がある。
Enm-12はブレットの小型ミサイルから逃げるため、すでにチャフやフレアを使い切っている様子で、最後の小型ミサイルは対空機関砲で落としていた。
「永遠、12番を携行型無反動砲でロックオンしろ」
「了解。……ロックオン」
「撃て!」
六式の右手で携行されている無反動砲が火を噴く。
*地面効果……翼形状の物体が地面(水面)近くでより大きな揚力(浮き上がる力)を得る現象。
*ASAM……エーサム。Anti-Surface-Armyth Missileの略で、対水上型機甲神骸ミサイルのこと。
今回もお楽しみいただけましたでしょうか。次回は、本格的な戦闘シーンが続きます。
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今後とも、「海流のE」をよろしくお願いいたします。