国際観艦式
いつもお読みいただき、ありがとうございます。
今回は、物語が大きく動き始めます。お楽しみに!
開放歴865年8月15日、第二次全洋大戦終結二十周年、学園要塞艦わだつみにおいて、国際観艦式が開幕した。
行進曲「軍艦」*の勇ましいメロディーが流れる中、わだつみ学徒隊の将兵が行進をしている。
「かしーらー、右っ」
台上の八洲大皇国女皇陛下に対する、部隊毎の頭右の敬礼が行われている。
機甲神骸大隊のパイロット特別候補生である羽佐間勇名一等学兵もまた、高い集中力が必要な行進の列の中にいる。
同級生である白河鈴皇太女殿下は来賓席にいる。いつものお転婆ぶりからは信じがたい、威厳があり、かつ柔和な笑顔で学徒隊員達に手を振っている。
その列の端、クバナ革命の女神、リリアン=フロイデもまた愛嬌のある笑顔で学徒隊員達に手を振る。
来賓の列を目の端に捉えつつ、勇名は行進に伴う身体の動きひとつひとつに神経を使う。
グラウンドを1周し、所定の位置で停止する。この後の偉いさんの長話は嫌だな、と思いつつ、顔色ひとつ変えずにピクリとも動かずひたすら待つ。
軍隊では指揮系統のもと、多くの人間が一糸乱れず自分の役割を果たすことが求められるのであり、行進ひとつにその徹底具合が現れるとされる。
勇名が見る限り、わだつみ学徒隊の練度は高く、各国首脳にもそれが分かればいいなと思うのであった。
行進が終わり、様々な立場の人達がそれぞれに好きなことを言い終わったところで、わだつみ学徒隊は駆け足でそれぞれの任務に向かう。
勇名は白河鈴に呼び出されているため、約束の艦橋左舷側外階段に向かう。直属の上官である(クラス担任でもある)早ヶ瀬三等学尉にも事前に連絡してあるため、問題になることはない。
階段の下につくと、それぞれに世間話をしながら歩く来賓達の列が近くを通り過ぎる。鈴はその中から自然な動作で抜け、勇名に手を振る。
「お待たせ。来てくれて、ありがとね」
「熱でもあるのか? 顔も赤いぞ」
「……。熱はないわ。少し暑いだけよ」
「用事って、なんだ?」
「それは、ちょっと上に行ってからね」
そう言った鈴は、階段下の警備兵に一言声をかけて、外階段を上っていく。勇名は黙って、それについていく。
「この辺で充分かな」
「で、要件は?」
「まぁ、ちょっと待ちなさいよ」
鈴がそう言い終わると同時に、再び行進曲「軍艦」が大音量で演奏される。勇名がその音にピンと来て振り向くと、八洲自衛艦隊の主力、第1護衛隊群が一列縦隊でわだつみ艦橋前に差し掛かりつつあった。
「勇名にこれを見せてあげたくて」
「すげぇ、ここ、穴場なんだな。遮るものがなんにもない!」
「そうなの。忙しいと思うけど、八洲艦隊位は見られると思うわ」
八洲自衛艦隊旗艦である揚陸指揮艦「みうら」を先頭にした第1護衛隊群がみるみる近づいてくる。
「みうら、でけぇ! その後ろは新鋭NS艦*のしらかみだ」
「普段はなかなかじっくり見ることないと思うから、見せてあげたいと思ってたの」
「鈴、ありがとう!」
「喜んでくれて嬉しいわ。で、本題なんだけど、ね」
「うん」
「その、えーと、まぁ。私達って、幼馴染みみたいなものじゃない?」
「うん」
「その、それは直接は関係ない――けど、つまり、勇名が嫌でなければ、国父*になるみ……な将来がね、その、皇配*ともいう――けどね、嫌じゃなきゃ、そういう将来も考えてくれない……ってことであって……」
「うん」
「え? 嫌じゃないかな?」
「え!? すまん、ちょっとよく聞こえてなかった」
「……」
「見ろよ、3隻目は軽空母いなばだ! 軽ってつくけど、充分にデカいよな」
「う、うん、そうね」
「あの戦闘機って、リヴァルノと共同開発したメテオールだろ? もうあんなに配備されてるんだ」
「うん。いなばの艦載機は全部そうだよ」
「てことは、18機か。もうそんなに揃えたんだな」
「うん。八洲も頑張ってるんだよ」
勇名と鈴が話している間に、第1護衛隊群の先頭を行くみうらは、わだつみ艦橋を通り過ぎ、続くしらかみが艦橋の目の前に来ている。
勇名の目の前に、急に永遠が現れる。そして、しらかみの方を指さす。
「永遠? 急にどうした?」
勇名が無意識に永遠が指さす方に目をやると、しらかみ艦橋前にある62口径5インチ単装砲が動き、こちらに砲塔を向ける。
「は!?」
勇名は本能的に鈴をかばって抱きつく。発射音が聞こえたとほぼ同時に、聞いたこともないような強烈な爆音が耳を捉える。
勇名は落ちてくるコンクリート片やガラス片から鈴を守りつつ、爆音の元に目をやる。
「な……艦橋が……」
「お母様ー!」
*行進曲「軍艦」……軍艦マーチという呼び方でも親しまれている、旧日本海軍から受け継がれる行進曲。演奏例→https://youtu.be/wAuWUvC8b2w
*NS艦……ネプチューンシステム艦のこと。高感度広域レーダーとネットワークをいかして防空・対潜作戦を有利に進めるためのシステム。八洲自衛隊では、ヴェリテリア帝国の技術を購入している。
*国父、皇配……ここでは、将来女皇になった鈴の夫のこと。
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