皇太女の戦い
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硝煙の匂いが漂う中、勇名は自分の身体を弾丸が貫いた感触に混乱した。
目の前にいる覆面の男は、立て続けに二発目を撃とうとしているようだった。
勇名はとっさに右足を伸ばし、相手の拳銃を蹴り上げる。意表をつくことができたのか、相手の拳銃が床に落ちて大きな音を立てた。
慌てて拳銃を拾おうとする相手の頭部を、勇名は右足で蹴る。しゃがみ込む途中だった相手は、大きくバランスを崩して壁に身体をぶつける。勇名は上体を起こして、拳銃を相手の頭部に突きつける。
「ここまでだ」
相手の動きが止まる。
「羽佐間殿!」
遠くから螢の声が響く。
勇名は注意しながら相手の覆面をずらす。
「お前……」
顔を上げた相手を見て、勇名が拳銃を持つ手が震える。
「ボネ中尉か」
エデュアール=セラの部下で、事故を装いわだつみに潜入した三人の内の一人だった。
「羽佐間殿、これは……!」
「侵入者だ。緊急逮捕を頼む」
「はい」
返事をした螢が、普段から持っているテグスを使い、手際よくボネ中尉を後ろ手に縛る。
ほっとして立ち上がろうとした勇名は、急に腹の傷の痛みを思い出す。そういえば、撃たれた場所からすると、かなりの重傷のはずだった。
無理して立ち上がるのをやめて、ゆっくり身体を寝かせ、自分で傷口を抑える。
「勇名ー! 大丈夫か?」
機甲神骸科の仲間達が次々に駆けつけてくる。
「螢、警務隊の次は救急車呼んでくれ」
「いいえ。救急車が先です」
心配そうに自分を取り囲む仲間達の顔を見ながら、勇名の意識は遠のいていった。
◆◇◆◇◆
気を失った勇名と、足など数カ所を拘束したボネ中尉を整備班の同級生達に任せ、鈴と螢は機甲神骸基地に急いだ。
ボネ中尉も勇名も、第一甲板までエレベーターで移動し、そこでそれぞれ警務隊の車と救急車に乗り込むだろう。
基地につくと、パイロットスーツに着替えた早ヶ瀬二尉が待ち受けており、鈴がスパイの件と勇名の容体を報告する。
「そうか。ご苦労だった。羽佐間がその状況なら、お前達は俺の小隊で出撃してくれ。先に出ているから、支度が出来次第合流しろ」
「はい」
鈴は、平然を装う早ヶ瀬二尉の内心が分かり、複雑な気分になる。部下であり、担任している生徒でもある勇名のことが心配で仕方ないのか、隠しきれない焦燥感が表情に出ていた。
急ぎ身体を洗い、パイロットスーツに着がえる。先に待っていた螢と目を合わせると、それぞれの乗機に乗り込む。
先に螢のA-8Sがカタパルトに乗り、出撃する。近距離戦を苦手とする鈴のA-15Cの出撃直後を狙われないためだ。
A-15C用のホバークラフトがカタパルトに接続され、その上に乗る。カタパルトが制限重量ギリギリのA-15Cを載せて、重そうに蒸気を吹き出す。ゆっくり動き始めるも、ぐんぐん加速していく。
ホバークラフトの出力を全開にして、タイミングをはかり飛び出す。ホバークラフトが着水すると同時に体勢を変え、速度を緩める。
「A-15Cより管制塔C、着水成功しました」
「管制塔C了解。ご武運を」
勇名の65式と同様の高精度広域レーダーが水面の様子をあぶり出す。敵は潜航型機甲神骸のため、ソナーで得られた情報を総合した海中の様子も、視覚化してモニターに映し出される。
視覚的に薄い靄のようになっているのが、まだ音を拾えていない領域になっている。これを潰すようにソノブイを設置したり、吊下式ソナーを出させたりしていくのを、鈴が指示していくことになる。
対潜哨戒ヘリコプター部隊に、細かく指示を出していく。
「H-11、200m先にソノブイ投下。H-24、500m先で滞空して吊下式ソナー」
まずはソナーで動きを追える範囲を円状に展開し、その中の薄い靄が消えていく。
「追い詰めた!」
鈴は自分もまた海中の音に注意しながら、勝利を確信した。
「来た!」
包囲されているのが分かったのか、わだつみの下から大きなモーター音が聞こえる。
「逃がすものか。対潜魚雷撃てぇ」
回転翼も含めた対潜哨戒機や機甲神骸からミサイル状の魚雷が次々に撃ち込まれる。
「絶対逃がさないからな」
鈴は、敵潜航型機甲神骸の動きを予測して、先に回り込むように動く。通常なら避けきれない量の魚雷を撃ったが、相手が万が一逃げきったときのための備えだ。
「よくも勇名に怪我をさせたな。チェックメイト! 予測通りに動くから……」
鈴はミサイルポッドに積んである全ての対潜魚雷を発射する。
「これでさようなら!」
垂直に打ち上がったミサイルが、角度をつけて海面に向かう。海面近くなると、ひとつのミサイルが四つの小型魚雷になり、海面を破って海中に入っていく。
鈴は頭の中でカウントダウンを始める。
――5、4、3、2、1……。
鈴の頭の中でも、ソナーから作った画像でも、両方で魚雷と潜航型がエンゲージする。
爆音と共に、大きな水飛沫が上がった。
「私だって、やれたわよ、勇名」
鈴は手応えを感じて右手を握りしめた。
今回もお読みいただき、ありがとうございました。
白河鈴殿下の活躍が目立ちましたね。これから先もっと活躍していく予定です。
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