白河鈴と三雲螢
今回はヒロイン三人が活躍します。
魅力的に描けているか、ドキドキしています。
どうぞ、お楽しみください!
リリアンに呼び出された勇名は、クラスメイトから痛いほどの視線を浴びながら、教室に残った。まだ好奇心旺盛な生徒達が多く残っている中、リリアンの元に向かう。
「あー、フロイデ先生」
「え? リリアン……リリィでいいんだよ」
「そうですか。えー、リリィ。用事とは何でしょうか」
「勇名は、再来週の月曜日、非番よね」
「まぁ、そうですが」
「汐汲坂フライデーナイツのライブでも見に行かない? 私、日本のアイドルが可愛くて大好きなの」
「……」
勇名は凍りつく。生徒達のざわめきがよく聞こえた。
「だめ?」
「えっと、リリィは俺の副担任なんですよね。生徒を堂々とデートに誘うのって、まずいと思いますよ」
「あら、そうかしら」
「そうです。八洲では明らかにアウトです」
「でも、ここは八洲じゃなくて、学園要塞艦わだつみでしょ。艦内規則に、教師が生徒をデートに誘っちゃダメって書いてあるの?」
「それは、多分ないでしょうけど。でも、艦内規則に定めのないときは八洲大皇国の法律に基づき判断することになってますから」
「へぇ。八洲には教師が生徒をデートに誘っちゃダメって法律があるの?」
「いや、法律はないかもだけど、倫理的に問題が……」
「禁止されてないなら、いいじゃない。私が年増で経験豊富であなたを騙せるような大人の女ならともかく、年齢はひとつしか違わないんだし。ね、行こ!」
「ちょっと待ちなさいよ!」
明らかに苛立っている声が、二人の会話に割り込んでくる。勇名にはそれが白河鈴の声であるとすぐに分かった。
鈴は赤髪のツインテールを揺らしながら、小さな身体のどこから出てるのか不思議な程力強い声でリリィに抗議する。赤い瞳がギラリと輝いている。
「あなたねぇ、さっきから聞いていたら、私の護衛を許可無く連れ出そうなんて図々しいのよ」
「あら、プリンセス。非番の日がズレたら彼の護衛は休みになるはずでしょ」
「なんであなたがそんなこと知ってるのよ」
「あなたの他のSPに確認しておいたの。事前にトラブルを避けるために、そこまでしたのよ。これ以上、あなたが勇名を束縛する権限はないはずよ」
鈴の顔がどんどん真っ赤になっていく。かなり立腹しているようだ。
「ならいいわ。勇名、あなたが決めなさい。私と革命女と、どっちを選ぶか」
「はぁ!? なんでそんなことになんだよ!」
「早く答えなさいよ! このスケコマシ!」
リリィと鈴の視線がまっすぐ勇名に突き刺さる。
「早く選びなさい!」
「勇名、どうするの?」
「……」
勇名は本能で逃げ道を探すが、元々教室に残っていた生徒達に加え、騒ぎを聞きつけたギャラリーで教室も廊下も埋め尽くされていた。
「わかった。言うよ。俺は……、螢がいい」
螢がこちらを見ている。青いショートボブの髪に似合う紫の瞳が、まん丸になってこちらを向いている。女子にしては身長が高く、スレンダーだが胸にボリュームがある。
「へっ!?」
ポカンとした三雲螢の顔がみるみる赤くなっていく。勇名は内心で巻き込んだことに謝りつつ、螢ならあとで事情を話せば許してくれるだろうと考えたのだ。
悲鳴のような歓声が教室にあふれる。勇名が螢の手をとり走り始めると、人垣が割れて、自然に道ができる。
「行くぞ、螢!」
「へぇっ!?」
「凄い! 駆け落ちみたい!」
「素敵!」
ギャラリーの無責任な声があちこちから聞こえてくる。
勇名は廊下を走り抜け、階段を駆け下りる。少し強引に手を引いているが、螢は抜群の運動神経でついて来てくれる。
ようやく少し静かな場所で足を止め、勇名は螢にハンカチを渡す。突然走ったのがいけなかったのか、螢が鼻血を出していたからだ。
「螢、ごめん! 巻き込んだ。あの場でどっちかを選ぶなんて出来ないから、螢にすがってしまった」
「はぁ、そ、そうですよね。まさか勇名殿が私を本当に選ぶなんてあり得ない……」
「本当にごめん、埋め合わせは必ず!」
「い、いえ、お気になさらず」
螢は勢いを取り戻した鼻血を必死にハンカチで抑えている。
「い、いひゃな殿」
「うん、どうした?」
「手、手を……」
勇名は走ってきたときのまま、螢の手を強く握りしめていた。
「あぁ、ごめん。離すよ」
「あいがとうごじゃいまふ。こえでおちつくとおもいまふ」
「螢、ほんとに助かったよ、ありがとう」
「いえ、こうええでひた」
「?」
勇名は螢の言っていることが分からず不思議そうな顔をするが、螢は赤い顔を逸らすだけで教えてはくれなかった。
◆◇◆◇◆
ギャラリー達は少しずつ減り、やがてリリアンと鈴だけが教室に残った。
先程よりは落ち着いた鈴が、リリアンに話しかける。
「ねぇ、あなた、そんなに勇名が気に入ったの」
リリアンは敢えてなのか目を合わせない。窓の外の景色を見ながら椅子を左右に動かしている。
「あら、皇太女殿下。勇名は幼馴染みでご学友で護衛なんでしょ」
「ええ。そうよ。ずっと、一緒に育ってきたの」
「第二次全洋大戦の英雄、羽佐間誠十郎の甥で、学友や護衛には文句ない身分。でも、殿下の婚約者には到底なれない家柄なんでしょ」
「こ、婚約者って、私と勇名はそんなんじゃ……」
「彼のこと好きなのね」
「ち、ちが……、でも、今の皇室では家柄や血筋なんて……」
「関係あるでしょ。あなたを傅いてる人達が、家柄や血筋を気にしないはずがないわ。悲劇のプリンセスになってまで、彼と付き合いたいの?」
「だだだだだだ、だから、私と勇名はそんなんじゃないの!」
「言質いただいたよ。ちなみに、私は勇名のことが好き。もちろん、将来のパートナーとしても真剣に考えている。それに、私の立場は、血筋なんて気にしなくていいし」
「あっそう。好きにしなさいよ」
鈴は涙がにじむのを見られたくなくて顔を伏せたまま教室を出て行く。
「なんなのよ、あの女」
◆◇◆◇◆
国際観艦式も間近なある日、勇名は鈴に呼び出される。大切な話があるらしく、二人きりで校舎裏の人気のない場所で待ち合わせた。
「勇名、あのね、国際観艦式の日、行進が終わったあと少しだけ時間をもらえない?」
「まぁ、機甲神骸のデモンストレーションは結構終わりの方だからな。分かったよ」
「じゃあ、わだつみ艦橋の左舷側外階段の下で」
「お、おう」
「じゃ、今日はそれだけだから」
「わかった。じゃあな」
二人はそれぞれに教室に戻るのだが、同じ昇降口から上がり、同じ階段を上がり同じ教室の隣り合わせの席に座る。
「なんか、気まずいもんだな」
「そうね」
屈託なく二人で笑いあった。
お読みいただき、ありがとうございます。
ヒロイン達がどうなっていくのか、楽しみにしていただけたら嬉しいです。
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