刺客
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螢と二人、賢桜学園のバス停で待ちながら、勇名は福永との会話について思い出していた。
もし自分が福永の言う通りに大人のいうことを聞かなくなってしまったら、世界は一気に不安定化してしまう。
六五式と永遠というのはそれだけの力を持った存在であり、勇名が自分の想いだけで動かしていいものではないのだ。
勇名の目を見た福永は、優しそうな微笑みを浮かべ、小さなため息をついた。
「まぁ、私の言うことを『はい、わかりました』なんていう子に、世界の行方を委ねたりしないか。まぁ、頭の片隅において置くくらいでいいのよ」
勇名は頷きつつ、やはり福永の言うようには振る舞えない自分の立場について確認した。
「羽佐間殿、福永殿に悪気はないと思います。でも、あまり思いつめないでください」
勇名は驚いて、螢を見やる。勇名と目が合った途端、真っ赤になって下を向いてしまう。
「は、羽佐間殿が暗い顔をしていると、鈴殿下も心配するので……」
「ありがとう、螢。クレール=セラ大尉のことでも、俺の代わりに怒ってくれて、嬉しかったよ」
「は、羽佐間殿のことは、鈴殿下に頼まれていますので!」
螢はいつでも、鈴のことを一番に気にかけている。そして、鈴の幼馴染みとして育てられた勇名に対しても、鈴に対してと変わらないくらいよく勇名の心配をしている。
勇名は友が隣にいる心強さを感じながら、潜航型機甲神骸で迎えにくる味方とのランデブーポイントへの行き方を頭の中で確認する。
しばらくしてやってきたバスに乗り込むとき、自分を見る視線を感じた勇名は、確認のために螢の目を見る。
視線があった螢は、目だけで頷く。誰かに監視されている。
敵だろうか、とにかくこちらに関心があることは間違いなさそうだ。少なくとも、味方とは感じられない。
相手はバスの中にいる。尾行されているときの鉄則として、気づいたことを悟られないよう、勇名は窓の外を見て、螢はウトウトしたふりをする。
相手は急進派の連中か、それとも、謎の行動をとっているヴェリテリアなのか。相手の姿が見られればヒントがあるかもしれないが、そうもいかない。
表に出してはいけない緊張を感じつつバスでの時間を過ごし、二人は海岸付近のバス停で降りる。後からついて降りてくる乗客はいない。しかしどうやら、このバス停付近にも仲間がいたらしく、変わらず監視されている気配を感じる。
「羽佐間殿、この気配は、恐らく……」
螢が素知らぬ顔で、勇名に話しかけてくる。
「エデュアール=セラです」
「そのままランデブーポイントまでついて来られたらまずいな」
「はい。架空のランデブーポイントを目指しつつ、攻撃の機会を探りましょう」
「いや、それは……事前の指示通り、相手を巻きながら監視の目を振りほどこう。俺たちがセラ大尉の正体を知っている以上、命を取られる心配だってあるんだ」
「それは絶対にさせません。ご安心を」
「心強いよ」
勇名と螢は、降りたバス停から少し歩き、別系統のバス停に立ち、待つふりをする。
「セラ大尉の目的はなんだと思う?」
「……勇名殿の誘拐では?」
勇名は驚いて螢を見る。考えてみれば、勇名自身が、六五式の起動に絶対に必要な鍵なのだ。自分自身のことだけに逆に気づいていなかった勇名は、改めて、螢がいわゆる脳筋ではなく、優れた知性も併せ持っていることに感心する。
そうなると、荒事を避ける訳にもいかなくなるかもしれない。しかし、騒ぎが大きくなると、八洲の憲兵や警察に気づかれてしまうリスクが高くなる。
――最優先は俺の身柄だなんて。叔父さんはそれを分かっていて、敢えて俺を八洲に上陸させたのか……!?
「羽佐間殿、バスが来ました。私が先に上がって車内の安全を確かめます」
「……すまない」
また、女性である螢にリスクの高い役割を負わせることになってしまった。勇名は自分の短慮に歯噛みする。
バスが到着して、螢が先に乗り込む。しかし、すぐに降りてくる。
「羽佐間殿、走って!」
勇名は到着したバスの中に注意しながら、道路を走り始める。すぐに降り立った螢は、スカートの中のホルダーから拳銃を取り出す。
慌ててバスから飛び降りた二人の男に向けて発砲する。命中したらしく、男二人は傷口を抑えてしゃがみ込む。
螢はすごい加速で走り出して、すぐに勇名に追いつく。
「羽佐間殿、こうなったら直接ランデブーポイントに向かいましょう。ランデブーポイントがひとつ潰れることよりも、羽佐間殿の安全の方が優先です」
「……分かった。すまない」
銃声が立て続けに響く。セラ大尉と思われる人物と、バスから降りた手負いの二人の男が発砲したのだ。
「くっ、敵を殺します。すみません」
そう言った螢は、走っていた勢いを一瞬で消し、ピタリと立ち止まって3発の弾丸を放つ。手負いの二人の頭部から血飛沫があがり、エデュアールは体勢を大きく崩して道路に倒れ込む。
勇名が人殺しを避けたいことを知って、手加減をしていたようだった。
勇名もまた、上着の中のホルダーから拳銃を取り出す。エデュアールに向けて何発か撃つも、地面を転がり避けられたようだ。
勇名と螢は、ランデブーポイントである岸壁に走っていく。海面から3m程の高さがあるが、二人とも飛び込み、その勢いをいかして一気に潜水していく。
ここは急激に深さが増す、崖のような地形になっている。勇名と螢は、その深みの暗がりに向けて潜っていく。
海底から赤く光る目玉が現れ、続いて大きなカプセル状の物体が現れる。その扉が開いて、勇名と螢はその中に入り込む。
扉が閉じて排水が始まると、すぐに呼吸が出来るようになる。
「羽佐間殿、お怪我は?」
「俺は大丈夫。螢は?」
「私も大丈夫です」
「よかった……」
エデュアール=セラは明確に敵だった。それを考えると、クレール=セラ三尉のことが気にかかる。
「羽佐間殿、クレール三尉のことを心配してるんですね」
「あぁ……」
勇名は溜息混じりの返事をした。
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