特訓
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赤道海流に乗った島々と合流したあたりで、八洲のテレビ局の電波を受信できるようになった。到着予定は二日後。西進中の八洲列島に後ろから追いつく形となる。
わだつみ本体は八洲後方に位置するリヴァルノ伯爵領の領域内で待機して、八洲の様々な勢力とコンタクトをとる計画だ。
「思ったよりも女皇陛下の言葉を信じる人が多いみたいだな」
ダニエル=ハートマン三尉は不思議そうに言う。
「八洲では、まだまだ女皇陛下の影響力は大きいんですよ。世論を動かす力がある。自衛隊内での不自然な人事異動が指摘されて、元の担当者が帰り咲いているみたいですね」
「もともと官報で人事をチェックしとけば、多くの犠牲を未然に防げたんだがな」
早ヶ瀬二尉は、少し怒気を含んだ口調だ。
「反自衛隊の政党が弱くなりすぎてたのよ」
休憩スペースに来た鈴が、口を挟む。
「小選挙区制の影響で、反戦・反自衛隊を掲げる政党が力をなくして、野党による自衛隊へのチェック機能が働かなくなっているの」
「さすが、プリンセスは時勢に詳しいんだね」
ダニエル三尉が感心したようにいう。目を大きく見開いて驚きをアピールする。
「ええ。皇室は中立性が必要だから、それだけに社会のいろんな意見や変化に敏感なの。常に学び続けなければ、中立の立場なんて守れないもの」
「だけど、今回はすごく踏み込んだ声明だったな」
コーヴァン北極基地での声明は、獲真主際急進派をテロリストだと断定し、国民に真実を知ることを迫る内容だった。
「さすがに今回は、熟考のすえ、学徒隊の若者達を悪者呼ばわりはさせないって、陛下が決意を持って臨んだ声明だからなの」
「そうか、頼もしいな」
勇名は全身に火傷をおった陛下の姿を思い出す。火傷の痕こそ残っているが、すっかり健康を取り戻したことを嬉しく思う。
休憩室のテレビを見ると、先日の陛下と鈴の声明が繰り返し放送されていたり、自衛隊を私物化して動かしていた黒幕の存在に迫る報道などがなされている。
そして、何度も繰り返し使われる映像の中には、勇名の母のなつめ達、報道クルーが自衛隊のミサイルで撃墜された瞬間の映像もある。
勇名は始めこそ、胸が苦しくなり休憩室を抜け出していたが、次第にその苦しさに慣れていった。
「羽佐間班、そろそろ哨戒の時間だ」
早ヶ瀬二尉が時計を見ながらそう言った。
「了解です」
勇名と鈴が立ち上がり、近くに立っていた螢と視線を交わす。
「行ってきます」
◆◇◆◇◆
中村達彦は、六五式の出撃前チェックを行っていた。外装が全て最新型に変えてあるため、点検もやりやすいように工夫されている。
頭部のチェックから階段を下りながら各所の点検ができるようになっているため、非常に効率がいい。
「よし、整備士チェックは終わり。永遠ちゃん、それにしてもこいつの軽量化はすごいな。最大戦速だと空を飛べるんじゃないか?」
六五式の運用思想は、自身は機動性を重視した近〜中距離戦を担い、遠距離用その他、火器の大半は味方の武装を使用するというものだ。
「地面効果翼を広げて超低空飛行ならできるよ」
「そうか、そういや資料にそう書いてあったか。でも、かなりの速さがでるよね」
「海面との摩擦がないからね。でも、現実的にはほとんど飛ぶことはないと思うよ。まっすぐに速くても、狙われちゃうからね」
超低空飛行時の機動性は航空機よりも劣る。確かに、敵からすれば的にしやすい状況だろう。
「あ、お兄ちゃんが来る」
永遠の指差すドアから勇名達が入ってきて、達彦は驚く。
「よく分かるね」
「私は半霊体だから、いつでも三次元と霊次元に同時にいる。霊次元には空間も時間もないから、いつでもお兄ちゃんのそばにいるようなものなの」
「なるほ……いや、その辺は正直よく分からないや」
「達彦の素直なところは、とても好ましいと思うよ」
「ありがと、永遠ちゃん。優しいね」
永遠が屈託なく微笑む。勇名の他には達彦にしか見せない表情だ。
「よお、相棒! 待ってたぜ!」
達彦も、笑顔で勇名達を迎える。
◆◇◆◇◆
勇名、鈴、螢は、それぞれの乗機で哨戒任務についている。六五式、A-8S、A-15Cの3機だ。
A-15Cには、わだつみのレーダーを超える超広範囲レーダーがついており、その情報を六五式やわだつみ、その他艦艇と共有できる。
六五式が味方の装備を使用するときに参考にできるようになっており、支援機としての能力が高い。その変わりに低い機動性を、六五式とA-8Sでサポートする。
そのため、この3機は特にフォーメーションの訓練が必要になる。哨戒任務を行いながら、勇名の指示で様々なフォーメーションを試している。
「次は敵の砲弾を避けながらのフォーメーション変更だ。タッチパネルの訓練フォルダ内、砲弾シミュレーションを押せ」
「了解」
起動した砲弾シミュレーションが、全球型メインモニターに敵影と飛んでくる砲弾を映しだす。
弾道を読み、動きの緩急で砲弾を交わしつつ、フォーメーションを変える。幼少時から機甲神骸の訓練を続ける勇名や、人類を超越した運動神経を誇る螢は、難なく砲弾をかわしていく。
しかし、二人と違い反射神経が速くはなく、まして重量のあるA-15Cに搭乗する鈴にはとても難しい課題となる。
「焦るな、始めは出来なくて当たり前だ」
「だけど、二人はすぐに出来たんでしょ」
「まぁな」
「嫌み〜〜」
「文句ばかり言うなよ」
文句を言いつつ、できるまで何回も挑戦する鈴に付き合って、管制塔Cに哨戒コースの延長を申し出た勇名なのであった。
お読みいただき、ありがとうございます。
哨戒をしながら、特訓をするという欲張りなことをしていました。
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