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刺身デート

今回もページを開いていただき、ありがとうございます。

まずは、本編をお楽しみください。

「勇名、気分はどう? 落ち着いた?」

「ああ。だいぶ落ち着いたよ」


 勇名はリリィと電話をしている。上陸止めが解除された初日に話をしたことを思い出す。


「リリィのおかげだな」

「それは良かった」

「何か、お礼をさせてくれよ。旨い飯とか……」

「嬉しい! じゃあ、サシミが美味しいお店がいいな」

「刺身か。なら、心当たりがある。明後日の予定は?」

「大丈夫。あいてる」

「よし、楽しみにしててくれ」


 通話を終えた勇名は、スマートフォンの画面を見る。葵の写真を待ち受けにしていた。お互いの想いを確かめ合った日から、堂々と従姉の写真を見やすいところに用意できる。


 ――葵姉、やっぱり可愛いな。


 姉弟のように育ち、情けない姿だってたくさん見せてしまっている葵と付き合えるとは、全く思っていなかった。


「葵姉」


 学園要塞艦の艦長職。どれだけ大変な仕事なのか、想像すらつかない。毎日、艦橋とCICと艦長室を行ったり来たりする毎日らしい。

 その中でも一日に何回かは、メッセージの返信をくれたり、電話をかけてきたりしてくれる。それだけでも、満足しなくてはならないのだろう。


「でも、寂しいよ」


 葵の休暇が待ち遠しい。それも本音だった。



◆◇◆◇◆



 待ち合わせ場所には、すでにリリィが待っていた。エインはまた、少し離れたところで立っている。


「ごめん、待たせた?」

「今来たばっかりだから」

「じゃあ、さっそく散歩がてら行くか」


 リリィが機嫌良さそうに勇名を見ている。


「どうした?」

「副担任と生徒の禁断の恋……」


 勇名は学校での二人の立場を思い出して、まずかったかと焦りを覚える。最近は、勇名もリリィも学校に行く時間が減り、リリィが副担任であることをうっかり失念していたのだ。


「ま、いいか。ところで、リリィはいつまで御旗学園にいられるんだ?」

「本国と連絡は取り合ってるけど、今はまだ、わだつみの支援をしてていいって。まぁ、今の政権にとっては、私がいない方が都合がいいみたいだし」

「大人の事情?」

「そう、大人の事情!」


 そういって、リリィは悪戯っぽい微笑みを見せる。


「嬉しい?」


 質問に、勇名は少しだけ考え込む。


「確かにいてくれると助かるよ。エインさんがいないと潜航型機甲神骸(アーミス)が1機もいなくなってしまうし」

「なにそれ、私よりエインが必要なの?」

「幕僚会議でのリリィの活躍もきいてるけど」

「だから、そういうんじゃなくてね」

「俺、彼女ができたんだ」

「!」


 リリィが驚いた顔になる。勇名はリリィの圧力をかわすために、葵との関係を打ち明けようと考えたのだ。


「誰? ねぇ、誰?」


 勇名の左腕をつかみ、大きな碧い瞳で勇名を見つめる。


「あの、葵姉と……」

「家族じゃん。禁断の恋なの?」

「一応、八洲の法律では従姉同士は結婚もできるけど……」

「それは、クバナも同じだけど。でも、一緒に暮らしてきた家族だし、羽佐間一佐が許すかしら」

「反対されたら、そのときはそのときだよ。もう、この話はいいにしよ」

「んー。従姉のお姉さんとか……分かった」


 リリィは少し難しい顔をしていたが、話していくうちに、また無邪気に笑うようになった。

 そうこう話しているうちに右舷(みぎげん)近くまで到着して、海鮮料理の店にたどり着く。

 到着するなり、リリィは生け簀の中の魚介類をかじりつくように見始めた。


「勇名、ウニがいるわ、ウニが!」


 金髪碧眼の美少女が生きたウニを見てよだれを垂らす様におかしみを感じて、勇名は微笑む。革命の女神と呼ばれていても、こういう表情をみると、自分と同じ年頃の女の子なんだと改めて実感する。


「エインさん、同じ席で食事しましょう」


 少し離れたところで警護を続けるエインに声をかける。


「俺は魚類を食べる趣味はない。構わないから、二人で席に座れ」

「そんなこと言わずに。ほら、リリィもなにか言って」

「え? じゃあ、勇名がせっかくこう言ってくれるんだから、一緒に食べましょ」

「……命令か。わかった」

「大丈夫ですよ、魚以外のメニューもありますから」


 店は昼には少し早い時間とあって空席もあり、すぐに入ることができた。勇名とリリィが向き合い、勇名の斜め前にエインが座る。


「エインさん、このページは肉や豆腐の料理です」

「すまない」

「リリィはウニ好きなら、このメニューとかは?」

「わぁお! イクラウニ丼なんて最高じゃない。でも、魚の刺身も食べたいな」

「じゃあ、盛り合わせを頼んで二人で食おうよ」

「グッドアイディアね、勇名」


 注文を終えると、勇名はチラリとスマートフォンの画面を見る。葵からの連絡がないか期待してのことで、通知がないことに少しがっかりした。


「葵さんから連絡があったの?」

「いや、なかった。ところで、リリィとエインさんはいつ出会ったの」

「一年前かな。外遊が増えた頃。支援者の貴族の人が、エインに私の警護を依頼してくれたの」

「へぇ。じゃあ、雇い主はその貴族の人なんだ。でも、貴族なのに獲真主義の支援をしてるのって、変じゃない?」


「確かに、変な人かも。でも、現体制で利益を得ている人の中にも、理想に憧れて獲真主義を支援してくれる人も少なくないの。もちろん、革命後も生き残りたいって打算もあると思うけど」

「なるほど」


 勇名はエインの方を見る。相変わらず無表情で、何を考えているのか分からない。本当は、コーヴァン基地で潜航型機甲神骸(アーミス)を補充し、パイロットの訓練を始めたという噂について訪ねたかったが、エインが口を割るとは思えなかった。


 料理が届き、新鮮な魚介類を食べて腹が膨れた。ここから散歩でも、と思ったところでスマートフォンを見ると、葵から連絡が入っている。

 短時間だが、家に帰るという。


「リリィ、ごめん。ちょっと急いで帰らなきゃいけなくなった」

「ふふ。葵さんから連絡があったんでしょ。いいよ、遠慮しなくて」

「サンキュー。埋め合わせはするし、ここの支払いも俺が持つよ」

「ご馳走様」

「いま緑茶を入れてくれると思うから、二人はゆっくり出るといいよ」


 支払いを済ませて、小走りに駆け出す。2カ月以上会えていなかった葵に会える。勇名は走るペースをさらに上げた。


お読みいただき、ありがとうございます。

勇名とリリィとエインのデートを楽しんでいただけましたでしょうか?

もし面白ければ、☆評価やブックマーク登録での応援をいただけましたら幸いです。

今後とも、「海流のE」をよろしくお願いします❗

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