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慣熟訓練

今回もページを開いてくださり、ありがとうございます。

第二章第2話をお楽しみください。

 八洲艦隊無力化による戦闘終了の後、わだつみ艦隊司令代理野辺地(のへじ)学将は八洲自衛官達の救出活動を命じた。

 わだつみに積載された無数の救助艇が出動して、自衛官達を救助し、捕虜として身柄を預かっていく。


 早くに救出された捕虜のうち、無傷か軽傷の者は、ある程度の数になると視聴覚設備のある部屋に案内され、コーヴァン北極基地で行われた女皇と皇太女の演説を見せられる。


 遠征中に放送されたもののため、ほとんどの自衛官がこの演説を初めて観ることになる。

 その後、一人ずつ面接室に呼ばれ、わだつみ艦隊への協力を要請される。本人が承諾すれば、わだつみ艦隊に派遣された自衛官として、役割を与えられる。


 中等症以上の怪我をした者も、回復すれば最終的には面接を受け、協力要請をされる予定だ。

 わだつみ艦隊は、沈まなかった4隻の護衛艦の修復を始め、直り次第、わだつみ艦隊に組み込んでいく。


「達彦、お疲れ」

「おーう、エースの『青い死神』さん」

「茶化すなよ」


 達彦は面接の支援要員として駆り出され、1週間ぶりに機甲神骸(アーミス)部隊に復帰したところだった。


「協力要請の様子はどうだった?」

「ああ、思ったより多くの人が要請を受けてたよ。やっぱり、女皇陛下や白河さんのメッセージに衝撃を受けてた感じだな。もちろん、中にはスパイ活動を目的にするやつも混じってるだろうけど」

「リスクも高そうだな」

「ああ。俺はちょっと怖いよ」


 勇名と達彦が話していると、六五式の膝部分の点検をしていたヴァルタザールが降りてくる。


「羽佐間三尉、見事な戦いだったな。正に『青い死神』だったよ」

「はい、北極基地での訓練が役に立ちました」

「それは何よりだ。君がそれだけ適応していれば、プリンセス達の初陣も安心して見守れそうだよ」


 鈴と螢は、慣熟(かんじゅく)訓練不足で前回の戦闘には参加していない。もう少し実機訓練を積めば出撃を認められるため、次の戦闘には参加する見込みだ。


「俺は正直、鈴と螢が前線に出るのは反対なんです。やはり、危険すぎるというか」

「君の心配はもっともだ。だが、皇族だからこそ最前線に立つというのも、八洲の伝統なんだろう。女皇陛下も先の大戦では皇太女として羽佐間一佐達と、わだつみで戦ったそうじゃないか」


「叔父から少し話は聞いていますけど……」

「勇名はとにかく二人が心配なんだろ。でも、お前がうまくやれば、二人を守ることはできると思うぜ」


 達彦が勇名の肩を叩きながらそう言う。勇名はそれを聞いて笑う。


「お前の無責任な発言で、なぜだか気が楽になるわ」

「おう! なんせビチビチのパイロットスーツ着た三雲さんの胸の部分見たら、パイロットやめさせたいなんて言えないよ」

「相変わらず品がないな」



◆◇◆◇◆



 勇名は六五式に乗り、滑走路の状態を見守る。滑走路がクリアになったところで、カタパルトに両脚を乗せる。

 直前の点検を全て済まして、出撃する。後には螢のA-11Sと鈴のA-15Sが並んでいる。


 全員の出撃が済んだところで、羽佐間隊(チームアクター)でのフォーメーション訓練が開始される。


白河機(アクターツー)、もう少し前に。三雲機(アクタースリー)は六五式と揃えて」

「了解」


 三雲機(A-11S)と六五式が前列に並び、少し遅れて白河機(A-15C)がついていくという、逆三角形のフォーメーションが組まれる。


「よし、次はエンゲージ後の隊形だ。散開」

「了解」

「鈴、もっと速度を落とせ。狙われるぞ」

「分かってるわよ。低速操縦って難しいのよ」


「知ってる。だけど、その機体ならもっと減速できるはずだ」

「もー、分かってるってばぁ」


 三雲機()は既に模擬近接戦闘として、超音波ナイフを振り回している。


「螢も離れすぎないように気をつけてくれ」

「了解です」

「よし、敵前でこの形と砲撃を維持しながら面舵いくぞ」

「了解」


 模擬弾で見えない敵を牽制しつつ、右に方向をずらしていく。


「螢、ここで鈴の護衛に行ってくれ」

「了解しました」


 A-15Cは、細かな体重移動が苦手なため、ドッグファイトでは後ろに回り込まれやすい。背面攻撃用の装備があるとはいえ、回り込まれないに越したことはない。

 A-11Sの近接戦闘能力は、A-15Cの弱点を補って余りある。


「ちょっと、人を足手まとい扱いしないでよ」

「A-15Cが近接戦闘むきでないことは、誰だって知ってる。お前がどうとか一言もいってないだろ」

「だけど……」


「鈴も一流のパイロットなのは知ってるって。だけど、もしお前の身に何かあったらと思うと、苦しくなっちまうんだよ。クセのある特殊な機体なんだし、無理はしてほしくないんだ」

「わ、分かったわよ」

「よし、じゃあ、基本フォーメーションに戻すぞ」

「了解」



◆◇◆◇◆



「鈴も一流のパイロットなのは知ってるって。だけど、もしお前の身に何かあったらと思うと、苦しくなっちまうんだよ。クセのある特殊な機体なんだし、無理はしてほしくないんだ」


 わだつみCICの面々が盛り上がる。ヒュー、いいぞ、可愛い、愛だね、といった台詞が飛び交い、少年と若いプリンセスの恋物語に喝采を送っている。


「おい、何を膨れている?」


 父の言葉に、葵はキッと強い視線を返す。


「別に膨れてなんかいません」

「そうか。おかめの面みたく見えたが、気のせいか」

「羽佐間副司令代理の見間違いです」

「そうか。なら、非番も休暇もまだ先でいいな」

「……それとこれとは話が違います」


 むくれた葵の顔を見て、誠十郎は鼻で笑う。


「じゃあ、勇名を訓練漬けにするか」


 ――勘づかれている?

 葵は咳払いをしてポーカーフェイスを心がける。なんとか、勇名と同じ日に休みたい。

 どういえば、父の壁を突破できるか、葵は知恵をめぐらせるのである。


お読みいただき、ありがとうございます。

第二章第2話をお楽しみいただけましたか?

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今後とも、「海流のE」をよろしくお願いします!

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