慣熟訓練
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八洲艦隊無力化による戦闘終了の後、わだつみ艦隊司令代理野辺地学将は八洲自衛官達の救出活動を命じた。
わだつみに積載された無数の救助艇が出動して、自衛官達を救助し、捕虜として身柄を預かっていく。
早くに救出された捕虜のうち、無傷か軽傷の者は、ある程度の数になると視聴覚設備のある部屋に案内され、コーヴァン北極基地で行われた女皇と皇太女の演説を見せられる。
遠征中に放送されたもののため、ほとんどの自衛官がこの演説を初めて観ることになる。
その後、一人ずつ面接室に呼ばれ、わだつみ艦隊への協力を要請される。本人が承諾すれば、わだつみ艦隊に派遣された自衛官として、役割を与えられる。
中等症以上の怪我をした者も、回復すれば最終的には面接を受け、協力要請をされる予定だ。
わだつみ艦隊は、沈まなかった4隻の護衛艦の修復を始め、直り次第、わだつみ艦隊に組み込んでいく。
「達彦、お疲れ」
「おーう、エースの『青い死神』さん」
「茶化すなよ」
達彦は面接の支援要員として駆り出され、1週間ぶりに機甲神骸部隊に復帰したところだった。
「協力要請の様子はどうだった?」
「ああ、思ったより多くの人が要請を受けてたよ。やっぱり、女皇陛下や白河さんのメッセージに衝撃を受けてた感じだな。もちろん、中にはスパイ活動を目的にするやつも混じってるだろうけど」
「リスクも高そうだな」
「ああ。俺はちょっと怖いよ」
勇名と達彦が話していると、六五式の膝部分の点検をしていたヴァルタザールが降りてくる。
「羽佐間三尉、見事な戦いだったな。正に『青い死神』だったよ」
「はい、北極基地での訓練が役に立ちました」
「それは何よりだ。君がそれだけ適応していれば、プリンセス達の初陣も安心して見守れそうだよ」
鈴と螢は、慣熟訓練不足で前回の戦闘には参加していない。もう少し実機訓練を積めば出撃を認められるため、次の戦闘には参加する見込みだ。
「俺は正直、鈴と螢が前線に出るのは反対なんです。やはり、危険すぎるというか」
「君の心配はもっともだ。だが、皇族だからこそ最前線に立つというのも、八洲の伝統なんだろう。女皇陛下も先の大戦では皇太女として羽佐間一佐達と、わだつみで戦ったそうじゃないか」
「叔父から少し話は聞いていますけど……」
「勇名はとにかく二人が心配なんだろ。でも、お前がうまくやれば、二人を守ることはできると思うぜ」
達彦が勇名の肩を叩きながらそう言う。勇名はそれを聞いて笑う。
「お前の無責任な発言で、なぜだか気が楽になるわ」
「おう! なんせビチビチのパイロットスーツ着た三雲さんの胸の部分見たら、パイロットやめさせたいなんて言えないよ」
「相変わらず品がないな」
◆◇◆◇◆
勇名は六五式に乗り、滑走路の状態を見守る。滑走路がクリアになったところで、カタパルトに両脚を乗せる。
直前の点検を全て済まして、出撃する。後には螢のA-11Sと鈴のA-15Sが並んでいる。
全員の出撃が済んだところで、羽佐間隊でのフォーメーション訓練が開始される。
「白河機、もう少し前に。三雲機は六五式と揃えて」
「了解」
三雲機と六五式が前列に並び、少し遅れて白河機がついていくという、逆三角形のフォーメーションが組まれる。
「よし、次はエンゲージ後の隊形だ。散開」
「了解」
「鈴、もっと速度を落とせ。狙われるぞ」
「分かってるわよ。低速操縦って難しいのよ」
「知ってる。だけど、その機体ならもっと減速できるはずだ」
「もー、分かってるってばぁ」
三雲機は既に模擬近接戦闘として、超音波ナイフを振り回している。
「螢も離れすぎないように気をつけてくれ」
「了解です」
「よし、敵前でこの形と砲撃を維持しながら面舵いくぞ」
「了解」
模擬弾で見えない敵を牽制しつつ、右に方向をずらしていく。
「螢、ここで鈴の護衛に行ってくれ」
「了解しました」
A-15Cは、細かな体重移動が苦手なため、ドッグファイトでは後ろに回り込まれやすい。背面攻撃用の装備があるとはいえ、回り込まれないに越したことはない。
A-11Sの近接戦闘能力は、A-15Cの弱点を補って余りある。
「ちょっと、人を足手まとい扱いしないでよ」
「A-15Cが近接戦闘むきでないことは、誰だって知ってる。お前がどうとか一言もいってないだろ」
「だけど……」
「鈴も一流のパイロットなのは知ってるって。だけど、もしお前の身に何かあったらと思うと、苦しくなっちまうんだよ。クセのある特殊な機体なんだし、無理はしてほしくないんだ」
「わ、分かったわよ」
「よし、じゃあ、基本フォーメーションに戻すぞ」
「了解」
◆◇◆◇◆
「鈴も一流のパイロットなのは知ってるって。だけど、もしお前の身に何かあったらと思うと、苦しくなっちまうんだよ。クセのある特殊な機体なんだし、無理はしてほしくないんだ」
わだつみCICの面々が盛り上がる。ヒュー、いいぞ、可愛い、愛だね、といった台詞が飛び交い、少年と若いプリンセスの恋物語に喝采を送っている。
「おい、何を膨れている?」
父の言葉に、葵はキッと強い視線を返す。
「別に膨れてなんかいません」
「そうか。おかめの面みたく見えたが、気のせいか」
「羽佐間副司令代理の見間違いです」
「そうか。なら、非番も休暇もまだ先でいいな」
「……それとこれとは話が違います」
むくれた葵の顔を見て、誠十郎は鼻で笑う。
「じゃあ、勇名を訓練漬けにするか」
――勘づかれている?
葵は咳払いをしてポーカーフェイスを心がける。なんとか、勇名と同じ日に休みたい。
どういえば、父の壁を突破できるか、葵は知恵をめぐらせるのである。
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