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南西へ

今回もページを開いてくださり、ありがとうございます。

第二章の開幕です。

まずは、お楽しみください。

 開放歴865年11月9日、八洲の軽空母いなばが、炎に包まれている。勇名の乗る六五式水上型機甲神骸(アーミス)による飽和攻撃を耐えきれず、対艦ミサイル数発が命中したからだ。


 勇名はコーヴァン北極基地にいる間、シミュレータと実機の慣熟訓練で何度となく、わだつみの兵装の一部を遠隔操作する戦い方を練習してきた。


 六式の兵装を総取っ換えしてできた新しい機体は、戦術リンクに繋がっている全ての味方の装備を使用することができる。

 その機能が、ネプテューヌシステーママークオリジヌ、英語風でネプチューンシステム・マーク・オリジンである。


 六五式が横殴りの雨のように降り注がせるミサイルや砲弾により、コーヴァン北極基地の領域外で待ち伏せしていた八洲艦隊のほとんどの艦が次々に被弾して炎上していく。


 対ミサイル防御にかかりきりの八洲艦隊を、わだつみと六五式の砲が襲いかかり、着実にダメージを与えているのだ。

 さほどの時間も経たないうちに、轟沈3隻、戦闘不能4隻で八洲艦隊は全滅した。


 この虐殺にも近い一方的な勝利をもたらした六五式について、各国マスコミは「青い死神の再来」と報道した。

 学園要塞艦に眠る知識や技術の恐ろしさに、世界は再び戦慄したのである。



◆◇◆◇◆



 (さかのぼ)って開放歴865年11月2日、わだつみ出航を間近に控えたコーヴァン北極基地では、女皇と皇太女による演説が行われていた。


「以上が、わだつみ艦上で起こったことの全てです。国内では、現わだつみ艦隊司令代理達によるクーデターが諸悪の根元とされているようですが、実際にはその前に、獲真主義急進派によるテロが起きており、それが混乱の源であることは明らかです」


 白河鈴皇太女が、血の観艦式の経緯について説明すると、それをうけた形で女皇が言葉を足す。


「現在、八洲自衛隊では獲真主義急進派の勢力が密かに主導権を握っており、その攻撃によって、わだつみ学徒隊の多くの若者達が命を落としています。自衛隊の一部が文民統制シビリアンコントロールから外れ、極端な思想に毒され、国民を守る仕事を疎かにして学園要塞艦を私物化しようと企んでいます。これは先の大戦の反省に基づき、私が決断した国軍の解体や要塞艦学園化計画の精神に逆行するものであり、国際社会に対する裏切りでもあります」


 全身に負った火傷の跡も生々しく、女皇はその自身の姿をさらすことで国民に訴える。


「国民の皆様、状況の把握ができた以上、八洲大皇としてこのまま自衛隊を放置する訳にはいきません。私は学園要塞艦国際基本法149条、いわゆるテロリスト討伐規定に基づき、治安出動を要請しました。御旗(みはた)学園、わだつみ学徒隊の皆様に力を借りて、現在の自衛隊のあり方を正します。それにより、これまでのように多くの血が流れるかもしれません。しかし私は、自衛隊を文民統制シビリアンコントロールの元に復する義務を負っています。どうか国民の皆様も、何が嘘で、何が真実かを、見定めて行動してください。そして20年前に、平和のために生まれ変わった八洲の誇りを、もう一度取り戻しましょう」


 女皇と鈴がそろって深く頭を下げる。

 その映像は、八洲の全てのテレビ局が生中継し、インターネットにも同じ物を拡散させつつある。


 どんなに情報管理をしようとも、報道の自由に守られたマスコミを黙りきらせることはできず、インターネットで拡散された真実を撤回させることもできない。

 女皇と皇太女の声は、確実に八洲国民の元に届くだろう。



◆◇◆◇◆



 翌日、開放歴865年11月3日、勇名は六式改め六五式水上型機甲神骸(アーミス)のシミュレータの中にいる。

 コーヴァン北極基地停泊中に臨時の士官候補生課程を修了した勇名は、三等学尉として新たな士官候補生二人を部下に持つこととなった。


「鈴、螢、無理はしなくていいからな。やられないことを大切についてきてくれ」

「了解」

「了解しました」


 鈴は後方支援用水上型機甲神骸(アーミス)であるA-15Cのシミュレータに入っている。

 超広範囲レーダーと吊下式ソナーを備え、右肩部長距離砲や大型汎用ミサイルポッドを装備した最新型だ。六五式との共同運用が前提の設計であり、ドッグファイトは苦手としている。


 螢のシミュレータは、近接戦闘用水上型機甲神骸の名機であるA-11Sを現代化改修した機体のものであり、ドッグファイトを始め、近距離での戦いに特化している。

 こちらも六五式との共同運用を前提とした機体だ。味方全体の武器を運用する六五式の近接戦をサポートすることを目的としている。


(アクターツー)、疲れてないか?」

「大丈夫。まだまだ行けるわ」

「実戦に出るまではまだ時間がある。体調を崩して長期離脱にならないようにしてくれ。無理するなよ」

「分かってる」


 機甲神骸(アーミス)の操縦をするには、通常、数年に渡る訓練が必要となる。A-11SとA-15Cの運用を始めるにあたり、機甲神骸(アーミス)操縦の基礎訓練を終えているのが、女皇を除くと鈴と螢しかいなかった。そこで二人ともパイロット特別候補生となり曹長に任命されたのだった。


 ――実戦で通用するまでコンビネーションを高めて、俺が二人を守らないと。


(アクターツー)(アクタースリー)、あと5回、行くぞ!」

「了解」

「了解しました」


お読みいただき、ありがとうございます。

第二章の始まり、楽しんで読んでいただけたなら幸いです。

もし面白ければ、☆やブックマーク登録での応援をいただけたら嬉しいです。

今後とも、「海流のE」をよろしくお願いします!

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