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羽佐間勇名

本編第三話です。

今回は、主人公のことを知っていただけそうです。

楽しく読んでいただけましたら幸いです。

 誠十郎は、御旗(みはた)学園大学の最上階にある理事室で、高校の校舎の屋上に甥の勇名がいることに気づいた。しばらく見ていると、不思議な光景を目の当たりにする。


「リリアン=フロイデ、ヴァル=キューレに早くも接触か。――なぜ、あいつなのか」


 革命の女神リリアン、永遠(とわ)(つい)であると考えられるヴァル。彼女達は、時代を変える可能性を秘めた特別な存在だと、誠十郎は確信している。


「どうして、勇名、お前なんだ」



◆◇◆◇◆



 十二年前、開放歴853年、機甲神骸(アーミス)基地に遊びに来させていた勇名が突然姿を消したことがあった。


 周辺にいた将兵に頼み、基地中を探して半日、勇名は永遠と遊んでいるところを発見された。


 永遠の身長は幼児のそれになっており、顔立ちも仕草も子供のものだった。しかし、永遠を知る者には、それが確実に永遠だと分かった。艶のある長い白髪、黄金色の瞳は(おの)ずから光を発するかのようによく輝いている。


 永遠は、世界に二体しかないE型神話体の語り()であり、機甲神骸(アーミス)を運用する上で欠かせないOS、オペレーションソフトウェアの役割を果たす存在だ。


 誠十郎が必死で探しても行方(ゆくえ)が知れず、第二次全洋大戦終結以来、八年間も姿を消していた。

 その永遠が子供の姿になり、兄妹のように勇名と遊んでいたのだった。


「永遠、永遠、どこにいたんだ!?」

「……誠十……郎? お久しぶり」


 小さくなった永遠は、悪びれるどころか、心が動いた様子もなく、淡々と誠十郎に接した。記憶を無くした訳でもないのに、誠十郎に対するこだわりを無くしていた。


 永遠はくるりと身を(ひるがえ)すと、勇名の元に駆け寄っていく。


「にいに!」


 永遠が手を伸ばし、勇名がその手をとる。そして、二人は手をつないで楽しそうに歩き始めた。

 次の日になって、永遠はまた姿を消した。永遠は、勇名がいるときだけ姿を現すのだとすぐに分かった。


 永遠が発見されてから一週間しないうちに、誠十郎は勇名を引き取ることを決心する。幸い、娘の(あおい)は勇名と仲が良く、幼いながらに家事をこなせるため、勇名一人の世話くらい任せられるだろうと思った。


 勇名の母だけは反対した。かつては憧れの女性だった義姉を、誠十郎は徹底的に無視した。確かに兄の同意だけとり、(さら)うように勇名を自宅に連れて帰った。


 兄が絶対に反対しないことは分かっていた。結核が見つかり徴兵を逃れた兄の代わりに、誠十郎は出征して兵士となり、左半身不随となって帰った。好きだった少女は義姉になっていた。戦後、兄が誠十郎の頼みを断ったことは一度としてなかった。


 当時5歳だった勇名は、わだつみ、八洲(やしま)、誠十郎らの思惑の中で両親から引き離され、政治的な存在になる。


 誠十郎の元で、六式パイロット候補として、八洲皇女白河(すず)の学友兼護衛として、訓練を受け始めたのだった。


 勇名は周囲の期待に応え、みるみるうちに成長した。10歳の頃には、護衛として必要な体術や銃の使い方を充分に身につけた。もう一人の学友兼護衛である三雲螢(みくもけい)が優秀過ぎるため勇名に自覚はないが、人並みはずれた才能を示している。


 六式パイロットとしても、13歳の初搭乗以来、永遠と息の合った連携を見せて大人達を驚かせている。そして何よりも、機甲神骸(アーミス)搭乗者の宿命である感覚汚染のレベルが極めて低く、長時間の搭乗が可能であることで大人達に認められていった。


 そのように周囲に認められていく勇名を、誠十郎は複雑な思いで見守った。元々ただの歩兵として徴発された自分との境遇の差にひ弱さを覚えたり、永遠と兄妹のように接する馴れ馴れしさに危うさを感じたりする。


 それらの感情の大半が妬みであることをある程度は自覚しつつ、それでも、勇名に対して厳しく接することしか出来ないでいた。


「勇名、お前は、何者なんだ……」



◆◇◆◇◆



 勇名がリリアン=フロイデを案内してから数日後、リリアンは勇名達のクラスの副担任として教壇に立っていた。


「私は皆と歳はひとつしか変わらないけど、もう大学を卒業して教員資格も持っています。わだつみに滞在する間、こちらのクラスで副担任としてお世話になることにしました。よろしくね」


 リリアンはチラリと勇名を見て微笑む。

 学徒隊員ではない男子生徒が挙手をする。御旗学園高校は、高い授業料を負担できるなら、学徒隊員をやらずとも入学可能だ。


 リリアンに指名された生徒は、リリアンではなく正担任の早ヶ瀬に向けて質問を発する。


「このクラスは、ただでさえ八洲大皇国(やしまたいこうこく)皇太女(こうたいじょ)である白河鈴殿下がいるのに、更にテロの標的にされるリスクが高くなるのは納得いきません」


 正担任の早ヶ瀬(はやがせ)は、なだめるように優しい声音で話し始める。


「不安はもっともだが、警備の効率という点ではこの方がリスクが低いんだ。ほら、廊下に三人、リリアンさんの護衛の方が控えているだろ。合わせて、いつも皆と鈴殿下を見守っている八洲皇宮(こうぐう)警察のSPもいるんだ。三雲と羽佐間(はざま)だっている。たかが高校のひとクラスの警備にこんなに人が割かれるなんて普通あり得ない。安心していいと思うぞ」


「……はぁ、しかし」

「大丈夫」


 リリアンは自信ありげな微笑みで生徒と目を合わせる。


「私の護衛の一人は、世界一の傭兵なのよ。このクラスの誰一人として危険な目に合わないよう指示をしてあるの。安心して大丈夫よ」


 勇名はリリアンのいう世界一の傭兵という言葉に反応する。その言葉に相応しい人物は、エイン=ヘリャルしかあり得ない。先日、屋上で会った得体の知れない男がエイン=ヘリャルなのだと、勇名は理解した。


「ねぇ、まだ、不安かなぁ」


 リリアンが男子生徒と目を合わせる。男子生徒は真っ赤になって、主張を取り下げる意思を示して席についた。


「皆も、不安なことや困ったことがあったら教えてね。歳は近くても皆の副担任として頑張るから!」


 男子生徒達は大きく(うなづ)き、女子生徒達はどことなく居心地が悪そうだ。


「で、羽佐間(はざま)勇名君、あとで教えて欲しいことがあるの。放課後、訓練に行く前に少し来てくれるかな?」


 リリアンは、分かりやすく勇名にウインクする。ガタガタッと音がして、生徒達が勇名を見ている。

 男子生徒達は(うらや)ましそうに、女子生徒達は羽佐間、お前もかといった視線だ。


 皇太女白河鈴に至っては、明白に勇名に怒りの感情を向けている。

 勇名は頭を抱えながら、居心地の悪い授業をなんとかやり過ごす他なかった。


お読みいただき、ありがとうございました。

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[良い点] >兄が絶対に反対しないことは分かっていた。結核が見つかり徴兵を逃れた兄の代わりに、誠十郎は出征して兵士となり、左半身不随となって帰った。好きだった少女は義姉になっていた。戦後、兄が誠十郎の…
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