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墜落

今回もページをめくっていただき、ありがとうございます。

まずは、ゆっくりお楽しみください。

 六式による砲撃が、空挺隊員を載せた回転翼機を次々と撃ち落とす。海面を走る揚陸艇も、携行式無反動砲の餌食となり、大きな水柱を上げて爆散する。


機甲神骸(アーミス)戦で負けた時点で、こうなることは分かっていたはずだ。なんで無防備に突っ込ませる!」


 勇名が苛立って大声を出す。制空権と制海権を握られた状態で、八洲海上自衛隊海兵群の活躍の余地などない。無駄に死者を増やすだけだ。


 もし機甲神骸(アーミス)の攻撃を逃れても、その先では今頃、わだつみ陸戦群が防御陣地を固めて待ち構えている。

 もはや、八洲艦隊に目標達成の可能性はほとんどないのだ。


「お兄ちゃん……」

「なんだ」


 全球式メインモニターの一部に、永遠が映し出したと思われるウインドウが表示される。


「ヘリコプターが墜ちる? これがどうしたんだ」

「これ、テレビ局の……」

「テレビ局?」


 勇名はウインドウの画像を注視する。確かに民間のヘリコプター、それが火を上げながら墜ちていき、海面にぶつかり爆発する。


「まさか……永遠、もっと拡大してくれ」

「………………ダメ、お兄ちゃんは絶対見ちゃダメ」


 ウインドウが消される。


「どういうことだよ、永遠。母さんは、母さんはいないんだろ?」

「……」

「嘘だろ? 母さん! 母さん」


 勇名が六式を現場に向かわせようと操作しても、六式は反応しない。


「永遠、I haveだ。I haveだってば!」

「……」

「なんで、なんでだよ永遠。なんで俺は見ちゃいけないんだ? 母さんは軟禁されてたはずだ。大体、なんでヘリが墜ちるんだよ、報道ヘリなんて、誰も攻撃しないだろ?」

「お兄ちゃん、落ち着いて」


「俺は冷静だよ、永遠。あそこに母さんがいるはずないんだ。軟禁されてたし、報道ヘリなんて撃たれないだろ? おかしいことばかりなんだ。母さんがあそこにいないのを、確かめたいだけなんだよ」


「お兄ちゃん、お母さんは、あそこにいたんだよ。軟禁状態から逃げ出して。自分でヘリに乗り込んで、流れ弾で墜落したの」

「おかしいだろ? なんで、そんな風になるんだ。せっかく会えたのにおかしいんだよ! 嘘だと言え、嘘だ。永遠……」


 勇名の意識が急激に白濁していく。

 ――嘘だ、嘘だ……。



◆◇◆◇◆



 葵はあまりのショックに、動揺が表に出ないよう、静かな深呼吸を何度も繰り返した。八洲放送の生中継画像を見る限り、報道ヘリは敵の流れ弾を浴びて墜落したのだ。


「状況確認のために、近くの監視カメラや見張り要員を活用して」

「はい。監視カメラ映像、出ます」


 監視カメラで外側から見た映像では、明らかに八洲艦隊からの目標を見失ったミサイルが報道ヘリを誤って捉え、追跡し爆発したように見える。誠十郎も息を呑んでいる。


「被弾後は、ほぼ直線的に海面にぶつかったか。おそらく、生存者はいないな」


 葵は、生存者を探すというより、ひたすらなつめを探す。しかし、アップ映像には、既に事切れていることが明らかなほどに損傷した、なつめの死体が映っている。


「伯母さま……!」


 そのまま言葉を失った葵に代わり、誠十郎がオペレーターに指示をする。


「映像はもう消していい。状況終了後なら、休戦して生存者の捜索を出来るだろう。今はコーヴァン北極基地の領域に入ることがすべてだ」

「アルファツー永遠よりわだつみCIC、羽佐間曹長がパニックを起こしたため、眠らせました。継戦か帰投の許可を求めます」

「継戦しろ」


 誠十郎が冷たく言い放つ。


「アルファツー了解。継戦します」

「葵、お前はどうする?」

「わ、私は……、大丈夫です」


 葵は顔を上げる。今は悲しんでいる場合ではない。早くコーヴァン北極基地の領域までたどり着き、戦闘を収束させる必要がある。

 なつめの遺体回収も、勇名のフォローも、全ては後のことだ。


 最短コースは、既に八洲艦隊にふさがれている。敵の揚陸を阻止しつつ、どうにか基地の領域に入りたい。


「副司令、進路を二時の方向に変えて、砲塔を活用しながら敵艦隊を牽制しようと思います」

「ああ。それでいいな」

「おもーかじ」


 葵の指示に続いて、航海長が復唱する。


「おもーかじ」


 わだつみの方向が変わり始めて、機甲神骸(アーミス)部隊もそれに対応して動いている。


「砲塔の位置と残弾を確認」

「砲塔の位置と残弾を確認」

「VSL51番から100番まで開放」

「VSL51番から100番まで開放」


「目標は敵艦隊を適宜。……(ミサイル)撃てぇ」

「撃ちー方始めー」

「(舵)戻せー」

「戻せー」

「砲塔の位置と残弾を表示します」


 開いたウインドウに、わだつみの第一甲板の形と、62口径5インチ単装砲がどこにあるか、残弾がいくつあるかが映し出される。


「砲塔の目標、適宜敵艦隊。……(砲)撃てぇ」

「撃ちー方始めー」


 葵の指示を担当者が復唱・反応する。わだつみの進路変更に合わせ、八洲艦隊の護衛艦2隻がそのコースを潰そうと移動を始めている。


機甲神骸部隊(チームアルファ)に連絡、コースを塞ごうと動く2隻を攻撃させろ」


「わだつみCICより機甲神骸部隊(チームアルファ)、わだつみの前に移動しつつある護衛艦2隻を攻撃せよ」

機甲神骸部隊(チームアルファ)了解」


 早ヶ瀬機(アルファリーダー)を先頭に、機甲神骸部隊(チームアルファ)が敵護衛艦に向けて移動を始める。


陸戦群上陸阻止隊(チームグランド)に連絡、機甲神骸部隊(チームアルファ)は敵護衛艦に向かうことを知らせ、奮励させよ」


 葵は次々に指示を出しながら、戦況を確認する。護衛艦2隻が捨て身で体当たりをしてくれば、こちらもむこうも大きな被害を免れない。護衛艦2隻の迷いない動きを見て、焦燥感が募る。


「体当たりはさせるな!」


お読みいただき、ありがとうございます。

今回は、悲劇を描くこととなりました。どのような感想を持たれましたか?

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今後とも、「海流のE」をよろしくお願いします!

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