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逃亡

今回もページをめくっていただき、ありがとうございます。

どうぞ、お楽しみください。

 機甲神骸(アーミス)は、基本的に対空戦を得意としている。敵のミサイルに対しては、左肩に対空防御機関砲を持っている他、敵の下に回り込むと、角度の問題でロックオンされる危険が激減する。


 一方で、小型対空ミサイルは真上の敵にも有効であり、短時間でエンゲージするため、敵航空機は対策をとりづらい。


「敵航空機を一気に潰すぞ」

「了解」


 味方機を巻き込まないように気にしつつ、タイミングを計って対空ミサイルを発射する。真下からのミサイルをうまく避けきれない敵航空機が少しずつ数を減らす。


「いいぞ。このまま、制空権確保まで対空援護だ」


 早ヶ瀬二尉の声が響く。


羽佐間機(アルファツー)より早ヶ瀬機(アルファリーダー)、敵の艦船にダメージを与えるのに、右肩部無反動砲のコントロールを預けてください」

早ヶ瀬機(アルファリーダー)了解。この機とダニエル機(アルファフォー)の砲を使え」


「了解。ありがとうございます。永遠!」

「うん。アクセス……右肩部無反動砲のコントロールを取得」

「敵の揚陸艦と揚陸母艦を狙え」

「了解。ロックオン」

「てぇ」

「撃ちー方始めー」


 わだつみからの飽和攻撃をなんとか凌いでいる敵艦に対して、3機分の砲を撃ち込む。勇名の脳と永遠に負担がかかり、勇名は軽い頭痛を覚える。


「命中してる。もっと行くぞ」


 早ヶ瀬機(アルファリーダー)ダニエル機(アルファフォー)は、対空戦に集中している。当然、右肩部無反動砲の斜角では敵艦を撃てないときがある。そのようなときには、撃つ砲と撃たない砲を具体的にイメージする必要があり、慣れない勇名には負担となる。


「お兄ちゃん、無理してる!」

「これくらい、大丈夫だ」

「まだ最初だから焦らないで」

「それも分かってる。よし、2機から撃てる。てぇ」

「撃ちー方始めー」


 砲弾は敵揚陸母艦の主甲板に消え、わずかな時間の後、大きな爆煙を上げる。


「わだつみの砲も預かれば、もっとやれるぞ」

「お兄ちゃん! 絶対だめ。脳神経が焼き切れるよ」

「分かった。分かってるよ」


 敵の揚陸艦から、突然たくさんのヘリコプターが飛び立つ。よく見ると、海面でも、無数の揚陸艇がわだつみに向けて移動を始めている。


羽佐間機(アルファツー)より、わだつみCIC、無数のヘリコプターと揚陸艇を発見」

「わだつみCIC了解。全機甲神骸(アーミス)は敵揚陸作戦の阻止を優先せよ」

「了解」


 勇名は早くも視界に入ってきたヘリコプターに狙いを定める。ヘリボーン作戦*のため、無数の空挺隊員が降下の準備をしているのが見える。


「くそっ」

「お兄ちゃん、敵の顔が見えるの、嫌なんでしょ」

「関係ない。どうせ俺はもう人殺しだ」

「でも、嫌でしょ。照準も私がやるから」

「おい、永遠」

「私でも出来ることなんだから、わざわざお兄ちゃんが心の負担をおわなくていいよ」

「……」


 永遠がいくつかのヘリコプターをロックオンする。



◆◇◆◇◆



 なつめは、同僚達と薄暗い廊下を走りながら、戸惑いを覚えていた。自分たちの前には、スパイ疑惑がかけられたヴェリテリア人3名が走っている。


 軟禁されていた部屋に唐突に現れた彼らが、一緒に逃げようと提案してきたのだ。戸惑う報道クルー達の中で、大崎だけは二つ返事といっていいほど明らかに彼等の提案に賛成したのだ。


「さあ、また戦場の様子を撮影出来るぞ。そのためにわざわざ八洲からやって来たんだ。大規模なドンパチを撮るためならなんだってやってやるさ」


 たまたま放送機材がわだつみ当局から返却されたばかりだったのも大きい。撮影したはずのシーンのいくつかが消去されていた。コーヴァン北極基地前で待ち構える八洲艦隊との戦闘を撮影するなと言われたのも大きい。クルーの中には、それらに反発心を覚えたものも多かったのだ。


 しかし、なつめは乗り気ではなかった。八洲からも、わだつみからも邪魔にされるような撮影はリスクが大きすぎる上に、心のどこかで勇名を裏切っているような後ろめたさがあるからだ。


「見ろ、第一甲板が見えてきたぞ」


 大崎の声に視線を上げると、まばゆい光が見える。その光の先では、年端もいかない子供達が銃やミサイルで大人達と戦っている。


 ここまで来ても、なつめは撮影をするべきかそうでないのか心が決まらずにいた。



◆◇◆◇◆



「司令、回転翼機が2機、管制塔の許可を得ずに飛行を始めています。1機は対潜哨戒機、1機は報道クルーの乗ってきた回転翼機です」


 オペレーターの声に、葵が真っ先に反応した。


「当該ヘリポートの映像を回して」

「はい。……これで確認できます」

「ヴェリテリア人と、報道クルーだな。構わん、放っておけ」


 誠十郎のどこか冷ややかな声が響く。


「逃がしてしまったものは仕方ない。もう受け入れなければいいだけだ」


「副司令、それはあんまりでは……」


 葵は隣に座る誠十郎を見る。誠十郎が、なつめに複雑な感情を持っていることは知っている。しかし、彼女は勇名の母だ。無碍(むげ)に扱えば、勇名からの信頼を失うことになりかねない。


「盗撮の内容は、こちらが子供を洗脳して戦わせているという偏向報道に使えるものばかりだったそうだ。そんなマスメディアにいられていいことなどない。こちらが安全を保障する価値などない」


「なつめ伯母さまが本当に偏向報道をするとでも? 羽佐間曹長がいるのに、そんなはずはないじゃありませんか」

「子供を取られて、戦争に参加させられているんだ。よく思う母親などいない」


「そんなこと……」

「これは命令だ。ヴェリテリア人もマスコミも、勝手にさせろ。安全確保の必要は無い」

「…………」


 命令だから、葵は逆らうことができない。しかし、どうしても納得がいかなかった。

 ――イックン……。


*ヘリボーン作戦……ヘリコプターを使って空挺隊員を敵地まで輸送する作戦のこと。


お読みいただき、ありがとうございました。楽しんでいただけましたか?

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