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隠れていた気持ち

今回もページをめくっていただき、ありがとうございます。

それでは、お楽しみください。

 民間人宿泊用の宿舎を出た勇名は、学徒隊生徒用の寮に戻る。

 同部屋の面々はたまたま出払っていて、静かな中で自分の言動を振り返る。母に対して言い過ぎてしまったかと考える。


 それでも、物心がつくかつかないかで離れ離れになった、ほとんど初対面みたいな親に洗脳されてると決めつけられたことには、まだ生々しい怒りを感じていた。

 ふと、なぜか自分の両親を恨む気持ちに気づき、そんな感情を抱いていたことに、自分のことながら驚く。


 恨むなら、叔父の誠十郎を恨むべきだろう。実際、その感情はずっと持ち続けていた。親は親で、わが子を弟に取られた可哀想な親なのだと思い込んでいた。


 しかし、今抱いているのは親に対する怒りだ。わが子を弟に取られたのに、取り戻しにも来なければ、会いにも来なかった。


「叔父さんのところに捨てられたみたいだ」


 冷静に考えれば、会いに来るなと誠十郎に止められていたのかもしれない。しかし、だからといってわが子を放っておくものだろうか。

 勇名は大きな溜息をつく。


 ――だから、なんだ。そんなことはもう、ほとんど大人になった俺にはどうでもいいことじゃないか。

 自分に言い聞かせてみる。しかし、消えない感情がある。


「だめだ。俺、父さんと母さんのことを恨んでいたんだ」


 自分で自分を(だま)していたのか。

 いつの間にか、涙が流れていた。叫びだしたかった。自分を騙し、騙されていた自分が妙に気の毒に思えて、勇名は流れる涙をそのままにしていた。



◆◇◆◇◆



 葵は、わだつみ艦橋の艦長席に座り、頭を抱えた。野辺地司令代理から、伯母なつめを含むテレビクルー達の処遇を一任されたからだ。


 まさか、勇名が母であるなつめ達の隠し撮りを公にするとは思っていなかった。勇名はなつめと一緒に過ごした頃の記憶がなく、親子として信頼関係ができていたわけではないのを葵は知っていた。


 知っていたからこそ、宿舎で一緒に過ごせるように計らったのだったが、全てが裏目に出た。最悪の形で親子はすれ違ってしまった。

 もちろん、保護したヴェリテリア士官が騒ぐ様子を隠し撮りしたのはいいことではない。切り取り具合では、わだつみ関係者による人権侵害の様子だと主張することもできる場面だ。


 しかし、軍事機密に関わる場所の撮影ではなく、また学徒隊生徒に対する暴力などと誤解される現場でもない。以後注意して見張ることとして、穏便に済ませてもいい場面でもあったはずだ。


「羽佐間艦長代理、マスコミの処分のことか」

「はい、羽佐間副司令代理。当該記録の削除、並びに撮影済映像の再チェックまでは当然として、ペナルティをどうするかまでは判断できかねています」


「コーヴァン北極基地前の八洲艦隊との戦闘、それを撮らせなければいい。例の実験を撮影するななんだと揉めるのも面倒くさい。撮影禁止にすれば話が早い」

「しかし、学生や生徒が命がけで戦わざるを得ない様子は撮影してもらった方が……」

「向こうが好意的な報道をするならな。だが、盗撮をするということは、何もかもこちらの思うようには動くつもりないだろう」

「確かに……」


 葵は心の中で決断を下す。


「副司令代理、ありがとうございました。副長、しばらく離れます。司令執務室に行って来ます」

「了解です」


 葵は立ち上がり、野辺地司令代理の元へ報告に行くことにした。


「葵」

「!?……はい」


 父に急に名前で呼ばれ、葵は驚く。公的な場で名前で呼ばれるのはおそらく初めてだ。


「……羽佐間曹長のコンディションは?」

「どれほど動揺しているかなど、分かりかねます。まだ電話で話したくらいで会えてはいないので、短い時間でも面談してみます」

「ああ。頼む」


 野辺地司令代理に報告し、担当士官を呼び出してテレビクルーへの対応を命令として伝える。担当士官は隠し撮りに気づかなかったことを詫び、再発防止策などについて葵に相談した。

 しばらく対策について話した後に、担当士官をなつめ達の元へ向かわせた。


 葵は、わだつみ艦橋艦長席に座り、腕を組んで考え込む。

 訓練のことだ。今、わだつみは北大還流の内側を航行している。コーヴァン北極基地に向かうには、多くの国がある北大還流を横断しなければならない。


 幸い、多くの国が血の観艦式以降の八洲自衛隊とわだつみの争いに対して中立を守ってくれている。通行許可くらいは、すぐにもらえそうだと楽観している。

 とはいえ、自分の軒先を素通りする許可は与えても、そこで軍事訓練までするとなると、難色を示す国が多いのではないか。


「そうなると……、やはり大還流横断前に訓練を終わらせる必要がある」


 飽和攻撃のみに拘らない、総合的な訓練を一度はやっておきたい。訓練用の的や疑似ミサイルなどを活用することになるだろう。

 葵は副司令用の椅子を眺める。今は、そこに父の姿はない。


「副長、副指令がどこへいったか知らない?」

「はい、アーミス基地を視察すると出られました」

「ありがとう。私もそこへ行きます」

「了解しました」


 葵は、機甲神骸(アーミス)基地で父と早ヶ瀬二尉が揃っていればより具体的な訓練案をできそうだと考えた。


お読みいただき、ありがとうございました。

自分からも隠れて見えなかった気持ちを発見することって、人生で何回かありそうですよね。これからも、勇名を応援してやってください。

よろしければ、下の☆評価にご協力お願いします。

今後とも、「海流のE」をよろしくお願いします!

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