表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

29/52

新しい目標

いつもお読みいただき、ありがとうございます。

行き当たりばったりで迷走していたわだつみに、行くべき場所が出来ます。

よろしければ、ごゆっくりお楽しみください。

 テレビクルー達によるドキュメンタリー撮影や、コーヴァン氏による機甲神骸(アーミス)改修が順調に進む一方で、ヴェリテリア人遭難者三名の返還交渉は遅々として進まなかった。


 始めは近くにいた、わだつみとヴェリテリア本国だったが、数週間のうちに数日を要する距離まで離れていた。


 それらの他、わだつみを巡る様々な状況を全て改善できる提案が、ヴァルタザール=コーヴァン氏からなされた。唯一大陸(ザ・コンチネント)周縁にあるコーヴァン北極基地への寄港である。


 世界規模の大コングロマリットであるコーヴァングループがヴェリテリアから全権を与えられた不動島*で、テレビクルーと遭難者の離艦、ジャミングされない放送環境、各種装備品の補充や水・食料の補給まで、一挙に解決できるのだ。


 唯一のデメリットは、ほぼ確実に八洲(やしま)の待ち伏せにあうだろうことだけだった。

 誠十郎を始めとする、わだつみ上層部はこの提案を了承した。直ちに舵を切り、八洲の待ち伏せへの対策もすぐにスタートした。


「作戦って……、ただの総力戦じゃないか」


 早ヶ瀬隊長から伝えられた八洲対策は、単に惜しまず物量戦を仕掛けて切り抜けるという、作戦と呼ぶにもお粗末な内容だった。


「確かに通常の艦隊と学園要塞艦の物量差は明確だけど……、多くの犠牲者が……」

「羽佐間、意見は挙手をして言え」

「はい……」


 挙手をして指名された勇名は、自信なさげに立ち上がる。


「……このやり方は、味方にも大きな被害が出ると思われます……」

「ああ、それで?」


 早ヶ瀬は挑むような目で勇名をにらみつける。


「それでって……、俺はもうこの部隊から死者が出るようなのは……」

「出るようなのは、なんだ?」

「……耐えられません」

「そうか。羽佐間は後で私のところへ来い」

「……」


 勇名は悔しそうに唇を噛む。


「返事は」

「はい!」


 勇名が座った後、促されても誰も発言しなかった。しかし、中村達彦は勇名を心配そうに見ているし、クレール=セラ三尉、ダニエル三尉も作戦案を苦い目で見ている。

 結局、勇名は何一つ納得できないまま、ミーティングが終わった。


「羽佐間、来い」

「ワシもご一緒するわい」


 早ヶ瀬隊長だけでなく、ヴァルタザールも一緒にくるというので、勇名は不思議に感じる。

 三人で、誰も居ない会議室に入る。早ヶ瀬隊長の操作で、窓が曇りガラスに変わり、防音材の板が下りてくる。


「さて、勇名君、ワシから君に伝えたいことがある。大切なことだ」


 勇名はそのとき初めて、「ネプテューヌ・システーマ・マーク・オリジヌ」というものを耳にした。



◆◇◆◇◆



 コーヴァン北極基地に針路が向けられ、対八洲戦への備えが始まった。学園要塞艦ならではの飽和攻撃を一定期間時間以上続けられるよう、砲弾やミサイルの配置が工夫され、装填の時間もこれまで以上の速さが求められた。


 一方で、当面の目標がはっきり示されたことへの安堵(あんど)からか、学徒隊の面々に笑顔が増えたように勇名は感じていた。


 なつめ達報道クルーは、撮影のため忙しくあちこちを行ったり来たりしている。なつめが今日は深夜まで仕事の予定だというので、勇名は今夜、誠十郎の家で寝ることにした。


葵姉(あおねえ)、あれは?」


「あれ? イックンはワンピースが好きなんだね。いいよ。イックン好みのコーディネートで」


 勇名は顔を真っ赤にする。非番が重なったから買い物に付き合ってくれと葵に言われて来たものの、ファッションのことなど勇名にわかろうはずもなく、戸惑っているのだ。


「似合う?」

「う、うん。似合ってる」

「どんな風に?」


「どんなふうって、その、か、可愛いと思うけど……」

「へへ、イックンに可愛いって言ってもらった」


 上機嫌な葵の脇で、勇名は頬が上気して変な汗をたくさんかいている。


「イックン、暑いの?」


 そういって、葵はハンカチを出して額の汗を拭いてくれる。しかし、葵に世話をされることで余計に顔が熱くなり、すぐに汗だくになってしまう。


 葵にとっては勇名は手のかかる弟のような存在でしかないかもしれないが、勇名にとっては葵こそが理想の女性なのだ。無邪気な子供の頃は、大人になったら葵ちゃんと結婚すると公言していた。


 葵は、試着室でワンピースのサイズを合わせてから出てくる。


「ねえ、イックン。このワンピースに合わせて、小さめのバッグがあるといいと思うんだけど、どんなのがいいかな」


 バッグ売り場には様々なバッグが並べられており、色も形も多すぎて、勇名は目を回してしまいそうだと思った。


「これじゃ、幼すぎるかな?」

「うん。可愛いけど、葵姉にはもう少し大人っぽいのがいいかも」

「そうだよね……、じゃあ、これは?」


 葵が持ったバッグは、若草色で革の風合いもあるショルダーバッグだった。


「それ、さ、爽やかで、き、奇麗な感じ、葵姉に似合ってると思う」

「やった! これで決まりだね」


 勇名はチラリと値札を見る。セールでかなり安くなっているのを確認する。


「そ、そのバッグは俺がプレゼントしてもいい?」

「えっ!」

「い、いつも、本当にたくさんお世話になってるからさ」


 葵は驚きながらも、チラリと値札を確認して、嬉しそうに微笑んだ。


「じゃあ、お言葉に甘えちゃうね。男の人にバッグもらうのなんて初めて。ありがとう、イックン」

「う、うん」


 勇名はまた汗が噴き出すのを感じながら、葵が素直に喜んでくれてるのが嬉しくて表情が緩んでしまうのだった。

 会計をしながら、葵は今着替えると店員に告げた。しばらく試着室に入った葵は、勇名と選んだ服やバッグを身につけて、少し不安そうにカーテンを開けた。


「どう? イックン。似合ってるかな?」

「ににに、似合ってるよ。とても、き、綺麗だ」


 葵は少し頬を染めて、嬉しそうにする。


「やっぱり、私のことを一番分かってくれるのはイックンなんだって思うよ」


 葵が突然、勇名の腕をとる。勇名は二の腕が触れている葵の胸の柔らかさにドギマギしながら店を出た。


「イックン、改めてデート楽しもうね。またカフェに行こうか?」

「うん。いいね、それ」

*不動島……この星のほとんどの島が海流に流される浮島であるのに対し、大陸周縁にある動かない島をそう呼び習わしている。


お読みいただき、ありがとうございました。

次回は勇名と葵のデート第二弾です。

☆やブックマーク喉から手が出るほど欲しいです。ご協力いただけたら最高です!

また、「小説家になろう勝手にランキング」様やアルファポリス様にも参加しているので、リンクやバナーを踏んでくださると嬉しいです。

今後とも、「海流のE」をよろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ