取材クルー
いつもお読みいただき、ありがとうございます。
今回はマスコミと葵のやりとりが中心となります。
どうぞ、お楽しみください!
「なつめ伯母様、歓迎します」
ヘリコプターのわだつみ着艦の瞬間が生放送された後、わだつみの要請に従って中継は一時停止することとなった。
わだつみの現在の幹部が現れると聞いていたなつめは、颯爽と現れた親族の少女の姿に一瞬、声を失った。
「……あなた、葵ちゃん? 葵ちゃんなの!?」
「はい。なつめ伯母様。お久しぶりです」
「大きくなって……」
葵はなつめに笑顔を見せた後、変わらずにこやかに大崎ディレクターに挨拶を続ける。
「わだつみ臨時艦長、羽佐間葵三等学尉です。はじめまして。伯母がいつもお世話になっております」
「ど、どうも。ディレクターの大崎です。わだつみの臨時艦長さんですか……。ずいぶんお若いんですね」
「はい。若輩者ですが、操艦指揮訓練の成果を買われて、艦長代理に任命されました」
「へぇ、そりゃすごいや。しかも、羽佐間ちゃん、息子さんだけじゃなくて姪っ子さんまでわだつみに乗ってるなんて、聞いてないよ」
「申し訳ありません。GOSTO軍の士官学校に入ったことは知っていたんですが、まさかわだつみにいるなんて……」
なつめの言葉を受けた葵は、大崎に対して温和な表情のまま話を始める。
「伯母様のせいではありません。親戚とはいえ、誰がどこに配属されているかは秘匿すべき情報なんです。配偶者と一親等の家族だけには配置を開示できますが、それ以上は禁止なんです」
「へぇ、そうなんですね。まぁ、悪いことじゃないからいいんだけど。葵さん、でしたっけ。素敵な女性艦長さんだ。視聴者のうけも良さそうだな」
「あら、ありがとうございます。先程も申しました通り、わだつみは撮影クルーの皆様を歓迎します。危険を冒してまで、よくいらしてくださいました。非力ですが、私が艦内の案内をさせていただきます。よろしくお願いします」
「いやぁ、それは願ってもない。こちらこそ、よろしくお願いします。それで、葵さんは、獲真主義者なんですか。艦内でクーデター起こして、その功績で艦長代理さんになられたとか……」
葵はわざとらしく驚いた表情を作る。
「あら、それは誤解です。ディレクターさん。八洲のしらかみによる、わだつみの艦橋砲撃がすべての始まりというのは、マスコミの皆さんご存知ですよね」
「ええ。艦に残っていたマスメディアもそう報じていましたね。そして、連動して艦内の各地で獲真主義者達が暴れはじめたとか。でも、そのあとはマスコミを全て帰らせて、だんまりを決め込んでいたでしょう? どうしてあのタイミングでマスコミを拒絶したんですか? 何か都合の悪いことがあったんじゃないですか?」
なつめが顔を青くして大崎をたしなめる。
「大崎ディレクター、少し言葉が過ぎるんでは?」
「いいんですよ、伯母様。やましいことなどありませんでしたよ。あのとき、強いジャミングでマスメディアさんの通信がうまく出来なくなって、仕方なく帰っていただきました。毎朝テレビさんの撮影クルーさんもその辺りはご存知のはずですが、引き継ぎなどは受けていないんでしょうか」
「ああ、あいつらなら、局に戻るなり左遷されましたね。原因はテロリストの脅しに屈して事実をねじ曲げたことと、おとなしく退艦してしまったことですね」
「テロリストというのは、私達のことですよね。私達がマスコミの方を脅したと、クルーの方がおっしゃっていたんですか?」
「いや、そうではないんですが……」
葵は改めて、にっこりと笑う。
「ジャーナリストとして、やるべきことをやっていただければ結構なのですが……、むしろ脅すのはテレビ局の上層部の方で、脅しに屈して事実をねじ曲げているのは、左遷されなかったマスコミの方だと思うのですが……」
「葵ちゃん、あなたが不審に思う気持ちは分かるけど、私達は今日、上層部の静止を振り切って出発したの。八洲の自衛隊に見つかった後も、威嚇射撃に負けずようやくここに着いたのよ」
「分かっています、伯母様。今日は事実を伝えるつもりでお迎えしています。よろしくお願いします」
「こちらこそ、よろしくね、葵ちゃん」
伯母と姪のやりとりを見ていた大崎は、もう障害はないとばかりにあっけらかんと言い放つ。
「では、早速中継でインタビューいいですか? ちょっと、番組本体の方と調整しますね……」
なつめは、改めて久々に会えた姪の近くまでいって、その手をとった。
「もう、私よりも大きいのね。あなたもまだ幼かったのに、勇名の世話をしてくれたそうね。あの子、わがまま言わなかった? 好き嫌いで困らせなかった?」
「イックンなら、いつでもいい子でしたよ。いい子過ぎるのも心配ですが、小さい頃は、淋しいとすぐに甘えてくれました。伯母様に心配をかけてしまったのは申し訳なかったですが、私は弟が出来たみたいで嬉しくて」
「そう。そういってくれると気が楽になるわ」
なつめは潤んだ目をハンカチで拭く。
「はぁ? そんないきなり中止だなんて! おかしいですよ、わだつみの艦長代理にインタビュー出来るんですよ。これがトクダネじゃなくて、何がトクダネなんですか?」
大崎は大きな声で電話口の相手とやりとりをしている。どうやら、わだつみに関わる生中継は中止命令が出たのだろう。
なつめは大崎の肩に右手を伸ばす。
「大崎さん、生中継の中止命令なんて想定内のことじゃありませんか。私達は真実を伝えに来たんですから。局の都合に振り回されず、出来ることをしましょう」
「はい、はい、はい。分かりました」
電話を終えた様子の大崎は、なつめに笑顔を向けた。
「さて、パターンツーのドキュメント作成でいきますか」
「はい」
「えーと、艦長代理さん、少しお話があるんですがね……」
葵は大崎の言葉ひとつひとつに大きな相槌を打ちつつ、一生懸命に話を聞いている。しばらくすると、笑顔で大崎の手をとってうなづいていた。
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