羽佐間なつめ
今日もページを開いてくださり、ありがとうございます。
今日はとうとう、勇名の母であり、誠十郎の初恋の人でもある羽佐間なつめが登場します。
どうぞ、お楽しみください!
汐汲坂フライデーナイツのライブを見に行った次の日、高校の昼休みが終わったばかりの授業中、サイドパイプの音がわだつみ全体に響いた。
「合戦準備、繰り返す、合戦準備」
勇名達機甲神骸部隊や、陸戦群など、遠くに行かなければいけない学生から順番に教室を飛び出していく。最後に、学徒隊に所属しない学生が地下のシェルターへの避難をすることになっている。
二キロ近く走りきると、機甲神骸基地に入る。勇名は素早くシャワーを浴び、パイロットスーツに着替え、六式の外観をチェックした後で、六式のコックピットに入る。
一足先に着いた達彦が、整備士視点での整備状況の確認と出撃準備を既に始めている。勇名は出撃前点検を進める。
「管制塔Cより羽佐間機、八洲自衛隊のA-8Sが4機、急速接近中。民間の回転翼機を追跡・攻撃している模様。回転翼機からはSOS信号発信中のため救助せよ」
「羽佐間機、了解」
授業中だったためか、高校教師でもある早ヶ瀬隊長、大学院生で研究棟が遠いセラ三尉、ダニエル三尉はまだ姿を見せていない。勇名が単独で民間のヘリを守るしかないようだ。
準備を終えた六式がカタパルトの上に立つ。
「羽佐間機、滑空準備よろし」
「管制塔Cより羽佐間機、滑空を許可する」
「|羽佐間機、行きます」
カタパルトが走り、加速した六式が滑走路を飛び出す。更に加速し、わずかに減速しながら丁寧に着水する。
「羽佐間機、着水成功」
「ご武運を」
◆◇◆◇◆
八洲毎朝テレビのリポーター、羽佐間なつめは、局のヘリコプターの中で、自分を襲う状況を冷静にリポートしている。
「現在、八洲海上自衛隊の水上型アーミス、A-8Sが4機、執拗にこのヘリコプターを追って威嚇攻撃をしています。私達が八洲のマスコミであることを伝えても、八洲のアーミスが国民である我々に大砲を向けたまま追跡してきています」
なつめは、中継が途切れたのを見て、小声でカメラマンに指示を出す。そろそろ、わだつみからSOS要請に応えたアーミスが出撃すると睨んだからだ。
「政府がテロリストだと発表したわだつみからは、私達のSOSに応えて、アーミスが出撃すると思われます。あ、今アーミスが出撃しました。これは……」
なつめは、一瞬、声を詰まらせそうになったのを、必死に抑えつける。出撃したのは、おそらく六式だ。息子の勇名が搭乗している可能性がある。一度だけ深呼吸をして、マイクを口に近づける。
「失礼しました、これは、六式水上型機甲神骸と思われます。世界に二つしかないE型神話体を使用した、大変珍しい機体です。今、着水した模様です」
着水した六式は、迷いなくこちらに向かって来ているようだ。
「テレビの前の皆さん、政府がテロリストだと発表したわだつみの六式水上型機甲神骸が、私達のSOS要請に応じて、こちらに向かって来ています」
わだつみから次のアーミスの出撃がない。
――1機だけじゃない。勇名……無理はしないで。
「今、六式の右肩の大砲が火を放ちました。八洲海上自衛隊のアーミスに警告をしているのでしょうか」
なつめは、固定されたタブレット端末に視聴者の書き込みが流れているのをチラリと確認する。
――テロリストが助けに来た! ――こっちがテロリスト? ――4対1じゃ、負けちゃうんじゃ? ――六式かっけぇ ――頑張れ六式!!!
「A-8S、4機が、大きく旋回し始めました。撤退でしょうか。私達を追跡していた八洲海上自衛隊のアーミスが、撤退するためか、大きく旋回機動を描いています」
なつめが実況する横で、ヘリコプターのパイロットと何かを確認していたディレクターがカンペと呼ばれる紙に何か書いて、なつめに示した。
「えー、ただ今、パイロットによると、六式水上型機甲神骸から光モールス信号があり、センドウスルとの連絡を受け取ったそうです。わだつみに案内してくれるのでしょうか。ヘリコプターパイロットが、六式水上型機甲神骸からセンドウスルとの通信を受けたようです。私達は当初の目的を果たすため、わだつみに着艦できるかもしれません」
なつめは横目でチラリと視聴者からの投稿をチェックする。
――わだつみに取材できるの?毎朝やるじゃん ――映像みると悪者は自衛隊じゃね? ――テロリストの巣窟へ突撃取材キターーーーー! ――リポーターさんマジ無理はしないで、命あっての物種だからね。
六式の後について、ヘリコプターはわだつみに向かっていく。わだつみが近くなると、航空管制の通信が入るようになる。わだつみ船首近くの第一ヘリポートへの着艦が許可されたようだ。
現在、放送内容はスタジオが受け持っている。おそらく、わだつみに着艦する瞬間はこちらの映像が使われるだろうと、なつめは言わなければならないことを頭の中で整理し始める。速度を上げているわだつみの大きさに、改めてなつめは息をのむ。
お読みいただき、ありがとうございます。
勇名の母や、同行のディレクター達はいかがでしたか。お楽しみいただけたなら幸いです。
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今後とも本作をよろしくお願いします。




