永遠
いつもページを開いてくださり、ありがとうございます。
今回は主人公と永遠が久々に長くお話しをします。
どうぞ、お楽しみください!
ふわっと、目の前に黒いワンピース姿の少女が現れる。
「君は……前に学校の屋上で……」
勇名は永遠とよく似た気配がする少女のことを思い出した。リリィと御旗高校の屋上で話した際、同じ気配を感じたことがある。
「ふふ。改めまして、名はヴァル=キューレ。ヴリュンヒルデの語り部よ」
「先生、これは……どういう……」
「ああ。俺も詳細までは知らされていないが、旧統幕はこのことを隠していたらしい。リリアンさんとエインさんは、わだつみに何かあったときのために、ブリュンヒルデを船底に隠していたらしい。血の観艦式以降、統幕に何度も出撃を提案したが許可が下りなかったそうだ」
「それが、叔父のクーデターで出撃依頼をするように……」
「だろうな。コーヴァン氏の護衛任務で初めて、潜航出撃してくれたらしい」
「それが、六式とA-14Sにソナーの情報が映るようになるから、俺達にも知らせたってことですね」
ブリュンヒルデは水上・潜航両用の機体として知られている。そうなるとそもそも、水上型機甲神骸のパイロットが潜航型の情報を知らされることは通常ない。潜航型の存在や現在地、作戦行動等は全て最重要機密だからだ。
「ソナーの情報で俺達がフレンドリーファイアをしないように知らせた、そういうことですね」
「ああ。きっとな」
そこまで沈黙していたヴァルが口を開く。
「リリィちゃんは、獲真主義過激派がどうのって難しいことを言っているけど、私はあなたと姉さんに会いたくて来たの」
ヴァルは語り部として完成しているとされる17歳程度の見た目だ。まだ14歳ほどにしか見えない永遠を、姉さんと呼ぶことに違和感がある。
「以前の戦闘で潜航型にやられた味方がいたそうね。痛ましいことだわ。でも、安心して。私とエインで潜航型の対処はするから、もう大丈夫よ」
「でも、その、なんだ。なんでそこまでしてくれるんだ?」
「なんででしょうね。それは、リリィちゃんに聞いてちょうだい」
勇名と早ヶ瀬は、ヴァルとの会話を聞いて現れた潜水隊司令の案内で施設見学をし、機甲神骸基地に戻った。
勇名は久々に永遠とゆっくり話をしたくなり、六式の足元に行った。
「永遠、さっきはごめんな。久々に世間話でもしないか」
勇名の声かけに永遠はすぐに姿を現す。
「もうエッチなこと聞かない?」
「ああ、済まない。OSのアップデートがそんなにエッチなことなんて知ら……」
永遠はまた顔を真っ赤にする。
「ああぁ……ストップ! ストップ! もうその話はいいよ。あは、あはは」
「ああ、分かった。すまん」
「いいの、いいの。そうだよね、知らなかったら気をつけようもないよね。じゃ、じゃあ、コックピットででも話す?」
「ああ。いいな。コックピット」
少ししたら哨戒任務につく勇名は、シャワーと着替えを済ませてからコックピットに乗り込む。
「永遠、お待たせ。そうそう、さっきさ、ヴァル=キューレに会ってきたよ」
「え?」
「姉さんによろしくって言ってたけど」
「お兄ちゃんはもう、あの子に近づかない方がいいよ」
「え? ひょっとして姉妹で喧嘩してる?」
「そんなんじゃないよ。私、あの子のこと苦手なの。本当に。姉さんなんて呼ばれたくない」
「姉妹じゃないんだ……昔、何かあったのか」
「あの子の話はやめよ。あの子は、ただ……、死神だから」
「俺達を敵が青い死神って呼ぶのと関係あるのか」
「それは、関係ないよ」
「じゃあ……ああ、ワルキューレだからか。戦死者のための女神だから、死神みたいなものか。あれ? じゃあ、エインさんも、エインヘリャルなのか。実名じゃないんだな。死せる戦士……なんか凄絶だな」
「もうやめよ、その話」
「分かった」
永遠がヴァルの話を嫌がっていることを感じとって、勇名は話題を変える。
「早ヶ瀬先生が、A-14SのエイミーⅡは硬くてやりづらいって言ってたんだけど、エイミーⅠと比べてそんなに違うものなのかな」
「うーん。どちらも天然の語り部じゃなくて、いわゆるAIだからね。何年も実戦をへたエイミーⅠシリーズよりも経験が足りないから」
「ふーん、AI……」
「人工知能のことだよ。まっさらな半霊体に刺激を与えて教育が出来るんだけど、座学と実戦では得られる知識量が山ほど違うと思うよ」
エイミーⅠもエイミーⅡも、元になっているのは発掘された量産型の半霊体であることに変わりはない。それを、永遠のいうAIにしていくのだと思われる。
永遠やヴァルのように、天然の語り部を持つE型神話体は現時点でふたつしかない。つまり、天然の語り部は永遠とヴァルしかいないのだ。その他のA〜D型までの神話体には、半霊体を加工して語り部を人為的に作っている。
「実戦経験を積めば、エイミーⅡも変わってくるってことか」
「そういうことだと思う」
「なるほどなぁ」
通信機がつながる音がして、通信中のランプが点灯する。
「管制塔Cより羽佐間機、わだつみから2時の方向20マイルにSOSシグナルあり。出撃準備いかがか」
「出撃準備途中、コネクトから。」
「了解。急ぎ準備して救助用回転翼機の安全確保にあたれ」
「了解」
わだつみには救助用回転翼機があり、出撃できる。しかし、すぐにそうしないのは海域の安全性に問題があるのだろう。
「お兄ちゃん、八洲艦隊の哨戒範囲内みたい。気を引き締めていこ」
「そういうことか。了解した」
勇名はフィジカルコネクタが刺さるときの微かな痛みに耐えながら、よしっ、と自分で自分を励ました。
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