邂逅
今回も本作を開いていただき、ありがとうございます。
今回は、勇名と周りの人との関係性が見えやすいかもしれません。
どうぞ、お楽しみください。
コーヴァングループ会長のヴァルタザールが到着してから、機甲神骸整備班がにわかに忙しくなった。コーヴァン氏は小型の部品やソフトウェアなどを自ら持ってきていた。
いずれも、機甲神骸の性能をより引き出せるものばかりで、六式もA-14S、A-8Sのどの機種も改善されていった。
その作業の中で、コーヴァン氏は常に陣頭指揮をとっている。特に弟子にしてくれと鼻息を荒くする仲村達彦はじめ、整備士達もその情熱に応えて作業は急ピッチで進められた。
「まぁ、ワシなんか幾つになっても一技術屋だからな。グループの難しいことは優秀な子や孫がなんとかしてくれるから、肩書きだけの会長は君達の元に直接やってきたのよ」
ガハハと良く笑うコーヴァン氏に対して、永遠も少し恥ずかしそうであるが、心を開いているようだった。
「六式にはこのチップセットとOSアップデートがあるからな。わだつみCICとソナー情報が共有できるのと、永遠くんの負担が軽減される効果があるぞ」
「でも、六式は永遠自体がOSなんですよね。どうやってアップデートするんですか」
勇名が疑問を口にすると、永遠の顔が急に真っ赤になる。
「な、なんてことを聞いてるの? お兄ちゃんのスケベ!」
そう叫んだ永遠は、ヴァルタザールの手からアップデート用の光学ディスクをひったくるように取り上げると、全力でその場から逃げていった。
「え? なんで!?」
「ガハハ。女の子にはいろいろあるんだよ」
「はぁ……」
「じゃあ、ワシは達彦とチップセットを取り付けに行ってくるよ」
「よろしくお願いします」
六式のことをヴァルタザールに任せて、勇名はシミュレータ訓練のために移動する。シミュレータのそばでは、長身スレンダー体型で奇麗な金髪碧眼のセラ三尉と、大きくて筋肉質なダニエル三尉が話し込んでいた。
「やぁ、イサナ。シミュレータ訓練かい」
ダニエル三尉が英語で話しかけてくる。アルビオン同君連合出身のダニエル三尉は、普段から母語である英語で話す。アルビオン同君連合はイギリスとアメリカという超古代文明の大国の文化を引き継いでいる。フランス文化を引き継いだヴェリテリア帝国と双璧をなす大国だ。
「はい。六式の新しい性能を早くもシミュレートしてくれてるようなので」
「あなたはまだ子供なのに、とても勤勉ね。でも、戦争の訓練なんかより、友達と思い出を作ったり、軍事に偏らない勉強をして視野を広げて欲しいって思っちゃう」
セラ三尉は流暢な日本語で話しかけてくる。
「お気遣いありがとうございます。でも、俺は六式のパイロットという俺だけにしかできない任務があるので。そのために小さな頃からいろいろ努力してきたんです」
「それが哀れに思えちゃうんだよねぇ、お姉さんは」
「そうそう、イサナ。君はパイロットとしての実績を買われて、士官候補生になったんだろ。叔父さんに期待されてるんだな」
「さあ。パイロットとしての責任をとらせるためだと思うんですが。一人だけ制服が別になっちゃうので、学校には行きづらいですね。クラスメイトに曹長曹長ってからかわれるし」
「それでもさ。一等学兵から曹長に飛躍だろ。それも、16歳で。素晴らしいエリートコースじゃないか」
「いや、でもこれは、俺がほら、あの人を殴っちゃったことに対する、叔父なりの嫌味だと思いますね。曹長になればあんな無茶もできないだろうって」
「ハハハ。君と羽佐間一佐は変わった叔父と甥の関係なんだな」
「まぁ、変わってるといえば、その通りかと」
「おっ、噂をすれば教官殿の登場だ」
ダニエル三尉の視線の先を追うと、早ヶ瀬二尉がこちらに向かって歩いてきた。機甲神骸部隊の実質的責任者としての任務をやりやすいよう、一年半ほど前倒しで二尉に昇進したということだった。
「教官? ああ、羽佐間のOJTのことか。士官になるには書類仕事とか面倒くさいことも覚えなければな。まぁ、おいおい教えていくから安心しろ」
「はい。ありがとうございます」
「あれ、イサナは学校でも早ヶ瀬隊長が担任のクラスなんだろ。こりゃ、本当に弟子みたいなもんだな。隊長、イサナに変な店とか教えちゃダメですよ」
「な、何のことを言っているやら」
早ヶ瀬二尉は冷や汗を流しはじめている。これは、ダニエル三尉といかがわしい店に行ったのだろう。
「ところで、早ヶ瀬先生、リリィはいつまでわだつみにいるんでしょうか」
勇名は思いつく限りで一番ダニエル三尉が食いつきそうな別の話題を出した。
「ああ、フロイデさんは、今回の獲真主義者によるテロに責任を感じているそうだ。状況が落ち着くまではいてくれるらしい」
「ヒュー、いいよねえ、彼女」
勇名の予想通り、ダニエル三尉が食いついてきた。
「そういう話題、セクハラになりやすいんだよ」
セラ三尉は小さく眉を寄せる。
「悪い、悪い。でもさ、いてくれたからって、戦況がどうにかなる訳じゃないと思うけどな」
「俺もそう思います」
「ちょうどそのことを話そうと思っていたんだ。羽佐間、ついてこい」
「あ、はい……」
機甲神骸滑走路を出た早ヶ瀬は、黙々と歩いて下のフロアへと降りていく。何度かフロアを降りたところで、勇名に声をかける。
「俺もついこないだまで知らなかったんだが、わだつみにも潜航型の基地があるんだ。そして、機体とパイロットが一組いて、先日の戦闘を人知れず支援してくれていたそうだ」
早ヶ瀬はIDカードを通し、勇名にも同じように通させる。開いた扉の先には、勇名でさえニュースで見たことのある特別な機体が整備されている。
「早ヶ瀬先生、これは……!?」
「ああ。お前も知ってるのか。世界最強の傭兵、エイン=ヘリャルの乗機、ブリュンヒルデだ」
ヴリュンヒルデの黒づくめの機体をみて、勇名は思わず息を飲んだ。
お読みいただきまして、ありがとうございました。
宿命の出会いと言っていいでしょう、勇名はブリュンヒルデと出会いました。
今後の展開を楽しみにお待ちいただけたら幸いです。
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それでは、次回の更新をお待ちください!




