コーヴァンの会長
今回も本作を開いていただき、ありがとうございます!
世界規模のコングロマリットの会長が登場します。
それでは、ぜひお楽しみください。
勇名と早ヶ瀬は、機甲神骸に搭乗し、わだつみから少し距離のある地点で、ヘリコプターの到着を待っていた。大きな円を描きながら、波を切って滑走している。
ヴェリテリアを拠点に世界に展開する巨大コングロマリット、コーヴァングループの会長と合流するためだ。
「お兄ちゃん、レーダーに反応あったよ」
「OK。迎えに行こう」
「待って、これ、指向性通信でSOSだって」
「何?」
勇名はとっさに向きを変え、最大戦速まで加速していく。
「早ヶ瀬隊長、永遠がSOS信号を受診しました」
「了解」
勇名がレーダーで確認すると、早ヶ瀬機が加速しながらついてくる。
「お兄ちゃん、未確認機甲神骸の反応が四つ。気をつけて」
「了解」
最大戦速のまま滑走していると、水平線の向こうからヘリコプターの小さな姿が目に入る。そして、すぐに4機の水上型機甲神骸の姿も見える。
「永遠、最大望遠で国旗の確認を」
モニターに専用ウインドウが現れ、望遠レンズが捉えた姿を映し出す。機体はA-8Sのようだ。しかし、肩に入っているはずの国旗のペイントがない。
「国旗や部隊章を隠してる」
「早ヶ瀬隊長、未確認機甲神骸は国旗や部隊章を隠しています。攻撃許可を」
「了解、各個での攻撃を許可する」
軍用であることが明らかな存在が国旗を揚げずにいたら、攻撃されても仕方ない。もちろん、状況的にほぼ敵であろうと予測できるが。
勇名は六式で直線的に移動しつつ、敵をロックオンしてブレットミサイル四本を発射する。同時に右肩部無反動砲を連射する。
敵は散開してブレットを迎え撃つ態勢になっている。
レーダー上でアンノウンからEnm-1〜4に表示が変わる。
「隊長、俺はEnm-4から狙っていきます」
「了解、こちらはEnm-2から行く」
Enm-4がチャフ*を散らすと、分裂したうち二つのミサイルが爆発する。残り2本はフレアにだまされて爆発する。
「チャフやフレアのタイミングがいいな。やり手か?」
Enm-4に向けて、もう一度ブレットを放つ。右肩部無反動砲を連射して敵のコースを限定しながら、ミサイルの到着を待つ。勇名はそっと、携行型無反動砲を手動で照準する。
またタイミングよくチャフが散らされる。ミサイルは四本とも爆発したが、勇名は携行型無反動砲を放つ。
それがEnm-4に直撃し、地面効果翼が爆発して、本体は海面に叩きつけられる。
「仕留めた。……ヘリコプターが……」
気づけば、Enm-3がヘリコプターの近くにまで迫っている。
「あいつ、素早いのか?」
勇名は携行式無反動砲を構え、Enm-3の足を狙って射撃する。敵が攻撃を嫌がって不規則蛇行を始めたことで、ヘリコプターとの距離が開く。
そこで勇名はまた最大戦速まで加速しながら、ヘリコプターの間近につける。
「撃って来ないのは、身代金目的だからか」
「そうかもだね。こっちとしては守りやすい」
「背面滑走するぞ」
勇名は繊細な操作で、ヘリコプターと併走しながら後ろを向く操作をする。六式の向きが変わると、Enm-3が目の前に見える。
右肩部無反動砲と携行式無反動砲を時間差をつけて連続で放つと、Enm-3の脚部に命中して、勢いよく海面に衝突した。
「お兄ちゃん、Enm-1とEnm-2は撤退するみたいだよ」
「羽佐間、深追いする必要はないぞ。ヘリコプターをわだつみまで送ろう」
「了解」
ヘリコプターは無事にわだつみに着艦し、早ヶ瀬と勇名は任務を終えた。
◆◇◆◇◆
勇名が洗浄を終えた六式を、巨大エレベーターに乗せて滑走路のあるフロアまで戻ったとき、見慣れない老人が早ヶ瀬隊長と話しているのを見かける。
「隊長の知り合いか?」
「違うと思うよ」
永遠が何かを思い出している様子でいう。
「あっ、思い出した。あれがコーヴァンさんだと思う」
「永遠って、ヴァルタザール=コーヴァンの知り合いなの?」
「うん。現行の六式の部品の幾つかは、コーヴァンさんが設計開発してるはずだよ」
「それって、俺が六式に乗り始める前の年にあった近代化大改修のときの話?」
「それだよ、それ」
「そうか、今の六式にはコーヴァンの技術が使われてるのか。俺も挨拶するか」
六式を普段のハンガーに固定させた後、俺はエレベーターで下に行く。早ヶ瀬隊長も搭乗後検査より先に話しているようなので、勇名もパイロットスーツのままコーヴァン氏の元まで歩いていく。
気づけば、六式のすぐ近くまで移動してきていた。
「おお、君がハザマイサナかい? 私はヴァルタザール=コーヴァンだ」
大柄な髭の老人であるヴァルタザールは、大きな手で勇名の右手を包み込んだ。節くれだち、至るところにマメやタコがあるゴツゴツした手のひらは、大企業グループの会長というよりは、町の鍛冶屋といった風情だ。
「初めまして、コーヴァン会長」
「私のことはヴァルタザールと呼んでくれ。君の友達のタツヒコと共に、しばらく六式の整備を担当させてもらうよ」
いつの間にか、達彦がヴァルタザールさんの隣で胸を張っている。
「それにしても、イサナ、君はすごいパイロットだな。背面滑走なんて、何年ぶりに見たか。それも、ただのデモンストレーションではなく、実戦の場で。君は世界で五本の指に入る名パイロットだ」
「とんでもないですよ」
勇名は苦笑し、改めてヴァルタザールさんに向きなおす。
「永遠と六式のこと、よろしくお願いします」
「ああ」
ヴァルタザールの表情をみて、当面は六式の整備に問題は出なさそうだと感じる。
*チャフ……ミサイルから逃げるための囮の役割を果たす。細かい銀紙のような見た目。
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