ボーイミーツガール
プロローグが終わり、本編第一作です。
本作メインヒロインの一人が登場します。従来のヒロイン像と比べてどう思われるか、不安と期待に押しつぶされそうです。
どうぞ、今回もよろしくお願いいたします。
羽佐間勇名は唇を噛みつつ、海軍速歩行進曲の演奏に合わせて行進訓練を行っていた。来る8月15日に行われる、終戦20周年記念国際観艦式の訓練だった。
国際観艦式は、自国の艦艇に加え、周辺国や大国、同盟国等の艦艇が招待されて行われる平和の祭典である。
この星の国々は、全てが南北いずれかの大還流と呼ばれる海流に乗って移動する浮島からなっている。そのため、どの国もなべて海軍の整備に力を入れており、陸上兵器の軍事パレードより観艦式の方が重視される。
観艦式当日には、わだつみ運航に必要な最小限の人数だけ除き、学徒隊全体での行進が予定されている。
行進の後はグラウンドで、八洲大皇国女皇陛下を始め、八洲やGOSTOの要人達が挨拶をし、そのあと各国の艦隊が艦隊運動や兵装のデモンストレーションを行う予定だ。
学徒隊員は要人挨拶後に解散して、普段の業務同様、わだつみ内の自分の職場に赴きデモンストレーションに参加することになっている。
現在、わだつみは亜熱帯海域を航行しており、湿度も気温も高い。吹き出す汗を拭うこともせず、隊員達は行進を続ける。
グラウンドを1周したあと、部隊毎に異なる待機場所に入っていく。演台にはわだつみ艦長、野辺地勝正学将補が立っており、学徒隊員達の敬礼に答礼をしつつその練度を確かめていた。
◆◇◆◇◆
開放歴845年、第二次全洋大戦終結後、過去何度となく争いの元となった八つの要塞艦について、GOSTOは学園化計画を持ち出した。
要塞艦はそのものが超巨大な動く島であり、陸海空統合基地として利用できる他、超古代文明の遺産が多く残されている巨大な遺跡としての価値がある。
その要塞艦の保有や管理を変えないと、戦争は絶対に避けられないとまでいわれている。
皇命でGOSTOに出向していた野辺地勝正は、平和を希求する各国のGOSTO職員達と同じく、学園要塞艦という新しい概念を具体的なものとするために尽力した一人だった。
「要塞艦は特定の国や地域のために利用するのではなく、人類共有の財産としてGOSTO監督下の学園組織に運営を委ねるということだ」
「国の支配を逃れ、GOSTO軍の指揮下に入るのでもなく、学問の自由、成果物の平等な分配という理念のもと、それぞれの学園組織が運用する、ということですね」
「そういうことだ。そして、その自由を担保するために、教職員、学生の一部が学徒隊を編成して他国の干渉を防げるだけの防衛力を持たせる」
「そのために我々が集められた、ということですか」
羽佐間誠十郎は、野辺地に対してまっすぐな視線を遠慮無くぶつけながら、小さく頷いた。誠十郎の後ろには、彼と共に八洲自衛隊で冷や飯を食わされていた仲間達が整列している。
「君達は優秀だ。そして、高い理想を持っている。君達こそが、子供達に理想を説き、同時に理想のために戦う手段を教授するに相応しい人材だと、私は思っている」
「野辺地さんの考えは概ね分かりました。俺は野辺地さんについていきます」
誠十郎がそう言うと、他の将兵もそれに続いた。
数日後、世界最強と謳われるヴェリテリア第7艦隊の元司令であり、わだつみ艦隊臨時司令であるユベール=オーモン中将が迎える中、八洲からわだつみに合流するメンバーが整列していた。
「野辺地中佐以下三十七名、八洲自衛隊の命により、わだつみ学徒隊先遣隊員として、貴官の指揮下に入ります」
野辺地の不器用な英語も、実直さがにじみ出るようで悪くないと、誠十郎は思った。
「よろしく頼む。そういえば、この中に青い死神もいるんだって?」
オーモン中将は流暢な英語で野辺地に質問した。
「はい。羽佐間!」
誠十郎が一歩前に出る。
「私が羽佐間誠十郎三等海尉です」
「君が青い死神か。いや、とても苦労させられたよ。まさかこんなに若いとは……私の息子と変わらないじゃないか」
「恐れ入ります」
「君の左半身の障害のことも聞いている。まだ若いのにこれから大変だと思うが、君の貴重な経験がわだつみを強くするだろう。身体に無理のない範囲で頑張ってくれ」
「はっ、全力を尽くします」
オーモン中将は、おもむろに右手を前に出す。誠十郎は緊張しつつ、その手を取る。
オーモン中将が笑顔を見せて元の場所に戻るのを見て、誠十郎も一歩後ろに下がった。
「諸君、改めて学徒隊の役割は、学園要塞艦を守ること。つまりは学問の自由と成果物の平等な分配を守ることだ。そして、世界に先駆けてこのわだつみが学園要塞艦計画の嚆矢*となる。誇れる仕事だ。胸を張って職務に邁進してもらいたい」
その場にいた全ての隊員が力の入った返事をする。世界最強のヴェリテリア第7艦隊を統べていた男は、早くも将兵の心をつかんだようだった。
◆◇◆◇◆
野辺地学将補のオーケーが出て、少し休憩をしてから通常業務に戻るよう指示が出された。勇名は木陰で、同じ班の仲間達と休憩していた。
機甲神骸科の仲間達のうち、同期は皆が整備担当になっている。その中には、勇名が一番仲良くしている幼馴染みの中村達彦がいて、勇名に熱心に話しかけている。
「ホントだって。俺は見間違えたりしないから。本当に、革命の女神がいたんだって」
「まさか。観艦式当日ならまだしも、こんなに早く来てるわけがないだろ」
勇名は達彦がいうことに懐疑的だった。クバナという小さな浮島ひとつの国は、獲真主義革命を成功させ、民主政による革命クバナ政府を実現した。その革命の物語は、若者達の注目の的となっていた。
その革命クバナ政府の最も有名な幹部がリリアン=フロイデという少女である。革命の最前線で戦い続けた彼女は、革命の女神と呼ばれている。
「めちゃめちゃ綺麗な淡い色の金髪に、透き通るような碧眼、真っ白な肌。スレンダーな体型。絶対に気のせいじゃない。あれはクバナのアイドル、リリアン=フロイデだった」
「クバナ革命政府を放って、こんな早い時期からわだつみにいるなんて、あり得ないって」
「いや、それがいたんだってば。信じてくれよ」
「分かった、分かったよ。根負けだ。リリアンがいるんだな。分かった」
「なんだよ、なんか投げやりだなぁ。まあいいや、次に見かけたときは絶対に声をかけるから」
「了解、相棒。頼んだぞ」
そう言った勇名は、おもむろに歩き始める。
「おい、どこ行くんだよ」
「トイレに行ってから向かうよ。先に行っててくれ」
「了〜解!」
グラウンド脇のトイレには行列が出来ているため、勇名は御旗学園大学付属高校の校舎内に入る。現在同校二年の勇名にとって、勝手知ったる校舎だった。
一番手近なトイレで用を済ませて、手洗いをしていると、ふと視線を感じてそちらを見る。身を乗り出してこちらを見ているのは、色の薄い金髪の少女だった。
「え!?」
「Sorry!」
少女は慌てて身を引っ込める。
勇名はハンカチで手を拭くと、トイレを出て少女と向かい合う。白いワンピースに身を包んだ全体的に細身の少女は、確かにテレビで見たことのあるリリアン=フロイデに他ならなかった。
「なんでトイレをのぞいてたんだ?」
勇名の英語での質問に、リリアンは流暢な日本語で答える。
「この建物の中で、案内役とはぐれてしまって。誰かいないか探していたの。なかなか見つからなかったから、あなたを見つけて慌ててしまって」
「……日本語、上手なんですね」
「ええ。幼い頃から面倒をみてくれたメイドが八洲人だから。彼女と内緒の話をしたくて子供の頃から学んだの」
八洲大皇国は、超古代文明日本国の後継国家のため、公用語は日本語である。そして、元八洲軍の所属だったわだつみでも、日本語は公用語のひとつだ。
「子供の頃から! だから、そんなに上手なんですね。なら、俺が一緒に案内役の人を探します」
「それは別にいいの。それより、あなたが学校を案内してくれない? 私、日本の高校に憧れがあって」
「アニメの影響か何かで?」
「正にそれ! 学園ラブコメとか大好きで」
そう言ったリリアンは、勇名の右腕をとって引っ張る。勇名は戸惑うが、国際観艦式を控えて来賓の案内は学生の義務となっている。リリアンの気が済むまで付き合ってもいいかと腹をくくる。
*嚆矢……戦いの始まりを告げる矢から転じて、物事の始まりのこと。
本編第一作はいかがでしたか。
ヒロインと主人公の出会いをどう思われたでしょうか。
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