クーデター
いつも本作を開いていただき、ありがとうございます。
本日は、誠十郎が大切な役割を果たします。
どうぞお楽しみください!
葵はCICへ、鈴と螢は女皇陛下のいる病院へ、勇名は機甲神骸基地へ、それぞれに自分の行くべき場所に向かって走り始める。
勇名はふと、独房にいるはずの自分はどうすればよいのか迷う。しかし、自分は六式のパイロットであり、戦闘中にいるべき場所は六式の中だと思い直し、全速力で基地に向かった。
機甲神骸基地に到着した勇名は、パイロットスーツに着替え、六式の元に走る。
「勇名、待ってたぞ」
達彦が手を振って迎えてくれる。
「整備はバッチリだ。今日も頼んだぞ!」
「ああ。任せてくれ」
エレベーターで足場に上り、コックピットに飛び込む。
「お兄ちゃん、待ってたよ」
「ああ。今日もよろしくな、永遠。……小銃、よし……」
◆◇◆◇◆
「早ヶ瀬機より管制塔C、出撃命令はまだか」
敵はもう目の前まで迫って来ている。
早ヶ瀬三尉のA-14Sは、カタパルトを目の前にして待機している。
「クソッ、あいつら、また飛んでくる火の粉を払わせないつもりか」
ホットラインを通して、早ヶ瀬三尉が苛立ちを露わにする。
「早ヶ瀬三尉、俺が無断出撃します。俺はどうせあいつらに睨まれているんだし」
「馬鹿野郎、そんなことしたら今度こそ射殺されかねん。そんなこと、させられるか」
「でも、このままじゃ、また味方がやられます」
「分かってる。でも、お前にばかりはもう無茶はさせられん」
早ヶ瀬三尉の苛立ちまじりのため息が聞こえてきたとき、艦内にサイドパイプが鳴り響いた。ホヒーホーという音が耳に入ってくる。
「八洲女皇陛下より緊急防衛出動依頼がきた。これより、学園要塞艦わだつみは、女皇陛下をお守りするため、防衛行動を始める。航空隊並びに水上型機甲神骸隊は出撃せよ」
「管制塔CよりA部隊、早ヶ瀬機を除き全機出撃せよ」
「早ヶ瀬機了解。A部隊は出撃準備。羽佐間機は待機せよ」
次々に了解の返事が早ヶ瀬三尉に伝えられる。
――俺は出撃なしかよ。
勇名は不満に思いつつ、昨日起こしてしまった事件のことを考えて、歯を食いしばって耐える。
「皆、無事で帰ってきてください……」
◆◇◆◇◆
緊急防衛出動依頼を周知した後、CICのドアが何度も叩かれた。隣の統合幕僚監部から、参謀達が廊下に出て騒いでいるのだ。
緊急防衛出動依頼はそもそも、強大な危機にさらされたGOSTO加盟国元首の依頼に基づき、近くにいる学園要塞艦が援軍に駆けつけるという制度のことだ。
想定されているのが迅速性を重視する事態であるため、学将補以上の幕僚が単独で受領し、出動命令ができる。つまり、女皇陛下と野辺地学将補がいれば成立する制度だ。
事態終息の後に、出撃の判断が正しかったかどうか、学園要塞艦統合幕僚会議で事後検証が行われるが、とにかく、国家元首の依頼があれば出撃ができる。
「野辺地さん、あなたのやったことは脱法行為だ」
「これは明白に制度の悪用だ。こんなこと許されないぞ」
扉越しに参謀達の怒号が響く中、誠十郎は腕時計を確認する。緊急防衛出動依頼の公表から5分、そろそろ援軍が到着するはずだった。
「なんだ、貴様等は?」
「上官に向かって銃を向けるとは……反乱分子め」
誠十郎は拳銃を抜き、右手で構えてCICの扉を開く。
「緊急防衛出動依頼に基づく作戦行動中だ。貴官等のやっていることは、作戦妨害だ。警務隊は彼等を逮捕しろ」
「何? 逮捕だと?」
そう言いながらホルスターに手をかけた参謀を、誠十郎が顔を打ち抜いて射殺する。
「な!?」
「作戦行動中だと言ったはずだ。死にたくなければ黙って両手を挙げておけ」
参謀達は、誠十郎が殺した男の悲惨な姿をチラチラ見ながら、両手を挙げて、警務隊に手錠をかけられていく。
廊下にいた参謀をほぼ捕らえ終えたところで、統合幕僚監部の扉が開く。
「なんだ、これは? 何がどうなっている」
顔を腫らしたボードリエ艦隊副司令が唖然としている。
「副司令、現在作戦遂行中です。安全なところまでご案内したいのですが、ついてきていただけますか」
誠十郎の目が輝く。
ボードリエ副司令は、顔を打ち抜かれた死体を見て、真っ青になる。
「こ、これは!? 分かった。抵抗はしないから、撃たないでくれ」
「賢明なご判断です。副司令を例の部屋まで案内人して差し上げろ」
警務隊のひとりが、ボードリエ副司令に小銃の銃口を向けながら付き添って歩いていく。
「さて、後ろで見ていた将校の皆さん、事情はそれなりにわかりましたか。抵抗はせず、警務隊が案内する部屋に移っていただきます。よろしいですね」
誠十郎の拳銃を見ながら、将校達は警務隊に連れていかれる。
誠十郎は、全ての将校が出ていった統合幕僚監部の扉を閉める。
CICに戻った誠十郎は、野辺地わだつみ艦長と目を合わせる。野辺地艦長は黙って頷いた。
「葵、戦況を教えてくれ」
「航空隊は優勢です。連携した対空攻撃も有効に機能しています。機甲神骸隊は苦戦しています。既に1機やられたようです」
「六式のステータスは?」
「起動も済んでおり、いつでも出撃できます」
「よし、六式を出せ」
「了解」
誠十郎はまだ16歳の甥をどこかで頼っている、計算に入れていることに悔しさを感じて、下唇を噛んだ。
お読みいただき、ありがとうございました。
今回の展開は意外でしたか、それとも予想通りでしたか。
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