攻撃中止
今日もページを開いていただき、ありがとうございます。なかなか悩ましいシーンがつづきますが、ご容赦ください。きっと数話後にはスッキリするはず。
勇名と早ヶ瀬三尉は、帰投命令でわだつみに戻った後、すぐに次の出撃に備えていた。早ヶ瀬機はカタパルトの一歩手前で、羽佐間機は待機位置で、レーダーを観察している。
スクランブル発進で展開していた戦闘機も空港に戻ったようで、レーダー上の味方航空機の印が次々と空港に消えていった。
「こんなに無防備にして、本当に大丈夫なんでしょうか」
不安で仕方ない勇名は、通信を早ヶ瀬とのホットラインに繋ぐ。
「いや、リスクが大きいだろう。たとえ和平交渉の見込みがあったとしても、相手が拳を振り上げているなら、こちらもそれなりの構えを見せておくべきだと思うが」
時間が何分たったか、敵航空機と敵機甲神骸がこちらに距離を詰めてきた。
「動き始めた……」
頼む、何も起こらないでくれ。勇名はそうつぶやき、祈りを始める。
しかし、祈りは虚しく爆音が響いた。それは立て続けに響き、音が大きいものはわだつみの船体を揺らす。勇名は唐突に、旧文明が悩まされていた地震という災害のことを思い出した。
◆◇◆◇◆
わだつみ戦闘指揮所に集まっていた面々は、統合幕僚監部からの突然の横槍に困惑していた。
これまで、命令を求めてもろくに指示を出してきたこともないのに、なぜ、今になって、それも凶器を向けてくる相手に背中を見せるような指示を出してきたのか。
「当面、命令は命令だ。従っておけ」
CICのスタッフ達にそう指示したことを、誠十郎は悔やむことになった。こちらの航空機と機甲神骸が撤収した途端に、敵からの攻撃が始まったのだ。
「敵航空機及び機甲神骸から高速飛翔体多数発生。本艦に向かってきます」
「クソッ、SeaRAMとCIWSで対抗しろ」
そう命令しつつ、敵が接近し過ぎていて、それしか対抗手段がないことに誠十郎は怒りを覚える。幕僚監部の命令ミスと、それを見過ごした自分の判断ミスのせいだ。
すぐに、何発か着弾したと思われる爆音と震動がCICにまで伝わってくる。
「被害状況を確認しろ。水上型機甲神骸部隊を急ぎ展開させろ」
本当なら航空機も展開したいが、SeaRAMとCIWSの邪魔になる可能性があり、賢明ではない。
「航空機が少しでもミサイル有効射程内に入れば逃さず喰らわせろ」
現在、敵航空機は全て近接しており、距離が短すぎて対空ミサイルの射程外となっている。反撃をするには、敵航空機が体勢を立て直すための旋回時にミサイルが有効になる距離まで離れてくれる必要がある。
「野辺地さん……」
誠十郎は、わだつみ艦長・野辺地将補に視線をやる。野辺地はちらりと誠十郎に視線をやる。黙って頷き、すぐに視線をレーダーに戻した。
◆◇◆◇◆
立て続けに二回目の出撃となった早ヶ瀬機と羽佐間機は、6機の敵機甲神骸の後ろへ回り込む機動を取りつつ、普段より多く装備している対空ミサイルを発射する。
低い位置で高速移動しながら発射される水上型機甲神骸からの対空ミサイルは、航空機からすると防ぎにくいらしい。そのため、一般的に水上型機甲神骸は航空機との相性が良いとされる。
ミサイルが敵航空機を立て続けに破壊し、墜落させていく。
それによって、敵航空機は搭載しているミサイルを撃ちきっていないにも関わらず、撤退していく様子だ。
「次は敵機甲神骸の掃討だ。ブレットの数が少ないから、味方がそろうまでは無理をせず追いかけるだけにするぞ」
「了解!」
最初の出撃時に留守番をしていたA-8Sはブレットミサイルが多い通常の構成のままなので、彼らにブレットを撃ってもらえば有利に戦えるという判断だろう。
敵には既に番号が割り振られており、現在はEnm-13〜Enm-18までの機甲神骸6機になっている。
「俺はEnm-14を追う。羽佐間はEnm-16から行け」
「了解。永遠、ねじ込むぞ」
「オーケー」
俺は早ヶ瀬三尉の指示に従い、Enm-16を追う。右肩部無反動砲と携行型無反動砲を交互に発射して威嚇しつつ、完全に背後に入り込んでいく。
そこで敵の動きに明らかな変化があり、撤退を始めたように見える。
「追撃するぞ」
六式のコックピットに、早ヶ瀬三尉からの命令が響く。虎の子のブレットを放とうと思ったところで、管制塔からの指示が入る。
「管制塔CよりA部隊、ただちに攻撃を中止せよ。繰り返す、ただちに攻撃を中止せよ」
「はあ? 一体なんだっていうんですか!?」
勇名は感情を爆発させる。先ほどの撤退命令といい、下された命令がおかしすぎると思ったからだ。
「羽佐間勇名一等学兵、これは統幕からの正式な命令です。思うところがあるのは私も同じですが、命令に絶対服従することは軍隊の基本です。冷静な対応を求めます」
勇名は、管制官が強い語調で話す内容を元から理解していたつもりだった。しかし、それでも納得いかなかったのだ。
しかし、その不満を管制官にぶつけるのは筋違いだと気づく。
「……大変失礼しました。命令了解です」
戦域から遠ざかっていく敵機甲神骸の背中を眺めつつ、勇名は機甲神骸着艦レーンに向かう。
着艦レーンは水面と同じ程度の高さから、艦内に上がっていけるようになっている。途中からは真水で機体を洗浄するゾーンがあり、それが済むとエレベーターで機体を乾かしながら滑走路のあるフロアに上がれるようになっている。
エレベーターで上がり、六式専用の整備スペースに到着すると、友人の中村達彦一等学兵が手を振りながら笑顔で迎えてくれる。
フィジカルコネクタが抜け、注射後のように簡単な消毒をし、絆創膏を自分で貼る。
「お兄ちゃん、よく我慢できたね。偉い」
「管制官が悪い訳じゃないからな……」
コックピットが開くと、達彦がこちらに手を差し伸べる。
「俺、希望が通って六式専任になったんだ」
「そうか、夢が叶ったんだな」
達彦の手を取り、彼の力を借りて立ち上がる。
「永遠ちゃんも改めてよろしく」
「はい、よろしくお願いします」
「達彦、お前のお陰で落ち着いてきた」
「それは何より」
達彦は照れ臭そうに笑った。
本作をお読みいただき、ありがとうございます。
もどかしさのあるシーンですが、楽しんでいただけましたでしょうか。
この作品をより多くの方に読んでいただきたく、ブックマーク登録と☆評価へのご協力をお願いいたします。もちろん、私が大喜びします。
また、「小説家になろう勝手にランキング」様にも参加しています。勝手にランキングと書いてあるリンクを踏んでいただけたら幸せです。
これからも、「海流のE」をお願いいたします!