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三雲螢

今回も開いていただき、ありがとうございます。

今回は一番地味だけど最強のヒロインが活躍します。

どうぞ、お楽しみください!

 男達は脇目もふらずに女皇(じょこう)陛下のいる診療室に向かっていく。それに対して小銃で応戦しようとした整備兵が悲鳴を上げて倒れた。


 誠十郎も近くにあった鉄製のロッカーの影に急ぎ、そこから拳銃で応戦したが、軽機関銃で牽制されて隠れているのがやっとという状況だ。


 診療室を見ると、ドクターが陛下の前に立ちふさがるも、小銃で撃たれて倒れた。男達は早々に診療室内に入り込み、近くにあったストレッチャーに陛下を乗せ、移動を始めた。


 男達の一人が頭から血を噴き出して倒れる。三雲螢による銃弾だった。彼女はすぐに身を隠す。男達の反撃で診療室内は惨憺たる状況となる。

 男達は入ってきた出入り口から外に出る。三雲螢がそれを見て、追い始める。


「三雲、陛下を頼む。整備兵は小銃を持って援護しろ」

「了解」


 三雲を先頭に、数名の整備兵が小銃を構えて男達を追い始めた。

 誠十郎が不便な身体で走り寄り、出入り口からのぞくと、整備兵達の背中だけが見えた。こんなときに何もできない自分に腹を立て、誠十郎は舌打ちをする。



◆◇◆◇◆



管制塔CコントロールチャーリーよりA部隊(チームアルファ)、つい先ほど女皇陛下が敵に拉致された。わだつみ甲板の全体に注意し、航空機での逃亡を阻止せよ」

早ヶ瀬機(アルファリーダー)了解、わだつみ甲板の航空機に留意する」


早ヶ瀬機(アルファリーダー)より各機、わだつみ周囲を旋回しつつ、航空機の動静に注意しろ。異変あれば即報告すること」

「了解」


 勇名は指示通り、わだつみ第一甲板上のレーダー反応を確認しつつ、わだつみの周囲を旋回する。

 しかし、もし航空機を使われる気配を察知しても、陛下が乗っている航空機を攻撃するわけにもいかない。乗る前にしても、陛下が近くにいるのに攻撃するのはリスクが高すぎる。


「永遠、もし陛下を拉致した奴らが航空機を使ったとして、そこからどう陛下をお助けすればいいんだろう?」

「お兄ちゃんが航空機に乗り込めるよう、投げてあげるよ」

「マジかよ。でも、それしかないのか」

「んー、多分ね」


 随分(ずいぶん)と荒っぽい話だ。しかし、確かにそれしか方法はなさそうだった。


クレール機(アルファフォー)より各機、第一ヘリポートにてHAS-210Eの主翼回転開始を確認」


 HAS-210Eは回転翼*対潜哨戒機で、わだつみ艦隊では、常に数機が対潜哨戒に出ている。スタンバイしている機を奪われれば、すぐに飛ぶことができる。


「第一ヘリポートが制圧されていたのか……」


 空港二つがまだ交戦中だと甘く見ていたが、ヘリポートの制圧は意外だった。


「永遠、気配を探れるか?」

「うん。ヘリポートに向かう数人の気配と、一人の気配……これは多分、(けい)ちゃん。少し遅れて数人の気配かな。螢ちゃんの足でも、追いつくのは難しそうだよ」


「そうか。じゃあ、俺がやるしかないな」

「三雲より羽佐間勇名殿、第一甲板船首(ひだり)舷寄りから飛び降りるので拾ってください」


 螢が皇室関係者警備のために持っている小型通信機からの連絡だった。


「羽佐間機より三雲螢、航空機への乗り移りは俺がやる。危険なことをするな」

「羽佐間殿、もし私や陛下が落とされることになったとき、それを受け止められるのは六式と早ヶ瀬機くらいしかいません。羽佐間殿は六式にいてください」


「でも、螢……」

「行きます、受け止めてください」


 勇名がわだつみ船首側を回り込んでようやく螢を視認できたタイミングで、螢が飛び降りる。

 螢は右肩に小銃を担い、御旗学園の制服のスカートをはためかせる。


「螢、少しタイミングが早いよ!」


 細かな操作でわずかに六式の速度を上げる。危うく取り落としそうになったが、なんとか螢を受け止めることに成功した。


「羽佐間殿、信じていました。次は、上昇中の210Eに向けて私を投げてください」

「無茶言うな。女の子にそんな危ないことやらせられるか」


 モニターに映る螢の顔が、俯き加減になる。


「羽佐間殿、陛下は重体なんです。今できる最も確率が高い方法でお助けするべきです」


 そう言った螢は、制服の内ポケットからテグスのようなものを取り出した。

 上昇を終え、HAS-210Eは動き始めている。六式はうまく舵を利用してそれを追う体勢になる。


「螢……絶対に死ぬなよ」

「羽佐間殿が受け止めてくだされば、負けません」

「わかった……行くぞ、螢!」


 勇名は瞬時に210Eと三雲螢の相対速度がゼロになる投げ方を計算する。六式の右手の上にいる螢を、210Eに向けて投げる。



◆◇◆◇◆



 螢は強い風を感じながら、右手のテグスにつけている重りをつかんだ。相対速度がゼロに近くなったタイミングで重りを投げ、車輪に絡ませる。

 テグスを引いて少しずつ210Eに迫っていく。


 210Eに乗った男が、開け放たれた搭乗口から、小銃を構えて発砲する。螢はわざと風に流されつつそれをかわし、小銃を構えて数発撃つ。搭乗口近くの男は血を飛び散らせながら落ち、螢は反動をつけて一気に搭乗口に飛び乗るコースをとる。


 機内の女皇陛下の居場所を視認すると、それに当たらないよう小銃を何発か撃ち込む。そこで小銃を投げ捨て、太股に装着したホルダーから拳銃を取り出す。


 牽制の意味で拳銃を撃ちながら、搭乗口に突入、一番搭乗口近くにいた敵に蹴りを食らわせながら、機内に侵入する。直後に左腕を撃ち抜かれるが、狭い機内で拳銃と体術を使い陛下の周囲の男達を無力化し、パイロットをやっている男を牽制しつつ、女皇陛下にパラシュートを背負わせる。


「陛下、何卒ご無事で」


 螢は女皇陛下をヘリコプターから降ろす。落下していく陛下を、パラシュートが開くまで見守った。

 続いて自分のためのパラシュートを探す途中、失神していた男に蹴られ、頭を打つ。それでも意識を失うことはなく、拳銃で男にとどめを刺す。


 パイロットをやっていた男が自動操縦に切り替えたのか、パイロットシートを離れて拳銃を乱射する。螢は二箇所ほど被弾したことを自覚しつつ、拳銃でパイロットの顔面を狙い、命中させる。


 急な横風に210Eが大きく揺れる。パラシュートに伸ばしかけていた手は空を掴み、螢は搭乗口から落下する。

 自動操縦の210Eがどんどん遠のいていき、視線の隅にある海が近づいてくる。


 遠のいていく意識の中で、「女の子が危ないことするなよ」と言って、困ったような笑顔を見せる勇名の姿が思い起こされる。


「約束、守れませんでした……」

 


*回転翼……ヘリコプターのこと。対義語は固定翼。


今回もお読みいただき、ありがとうございます。

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これからも、この作品をよろしくお願いいたします!

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