ドッグファイト
いつもありがとうございます。
今回は、水上型機甲神骸同士のドッグファイトの様子です。滑走するロボット同士の戦いをご覧ください。
砲弾が0.8秒に一発のテンポで放たれていく。一発目は大きく外れ、二発目はすれすれで当たらず、三発目からは連続で命中する。
致命傷は五発目の、足に命中したものだった。Enm-12の右足が吹っ飛び、血飛沫が上がる。バランスを崩して倒れた12番のジェットエンジンから火が上がり、首もどう見ても折れたようだった。
機甲神骸の中には神話体と呼ばれる意思のない巨人が入っているため、急所は人間と変わらない。首の折れた12番は、もう動くことが出来ない。
「Enm-12撃破!」
「次にいくぞ、永遠。Enm-10を追うぞ」
「了解」
勇名がレバーやフットペダルを操作することで、10番の後ろに入り込んでいく。六式の操縦系は細かな部分まで手動で行えるため、訓練に時間はかかるが熟練すれば繊細な動きが可能になる。13歳から四年近く乗っている勇名は、もはやベテランといって良い。
10番の後ろに難なく回りこみ、携行型無反動砲で仕留める。その過程で後ろに回り込んできたEnm-7がブレットミサイルを発射する。
ロックオンされたときからけたたましくアラームが鳴り響くが、勇名は落ち着いて機甲神骸用対空機関砲を手動で起動する。
「永遠、イタチが出る前に仕留めろ」
「了解。CCDSA手動照準で発射」
六式の左肩に艤装されたCCDSAが火を噴くと、分裂前のブレットミサイルに命中して爆発する。
勇名はとっさに周囲を肉眼で確認して、六式の姿勢を低くし、左手を舵代わりに180度進路を変える。爆煙の向こうの七番をレーダーで確認しつつ、携行型無反動砲を数発放つ。
手応えを感じた勇名が六式の重心を変えて爆煙をよけると同時に、爆煙の中から水面に叩きつけられながら大破していく七番が見えた。
「3機撃沈、順調だね、お兄ちゃん」
「早ヶ瀬機は?」
「1機撃沈みたい。後続のA-8Sも、もうすぐ到着するよ。……撤退かな……撤退。敵は撤退を開始してる」
「早ヶ瀬機より各機、深追いせず、ブレットの射程範囲に入ったときだけ一発くれてやろう。それで、対機甲神骸戦は終了だ」
「了解」
「管制塔CよりA部隊、わだつみの対艦戦を支援せよ」
「A部隊長機了解」
「早ヶ瀬機より各機、対艦戦を開始する。本機と羽佐間機が先行する。他各機は別命あるまでこの場で待機せよ」
「了解」
「早ヶ瀬機より羽佐間機、最大戦速で現着後、各自で発砲許可。突撃するぞ」
「羽佐間機了解」
今後のわだつみで制式採用される予定のA-14Sがぐんぐん加速していく。操縦補助機能の向上と、エンジンの高出力化を始め、ほとんどの項目でA-8Sを超える機体だ。
六式はより低く、空気抵抗が弱い体勢をとることで、少しでも追いつくように滑走する。
艦載ブレットミサイルの射程範囲に入り、数発打ち上がったのを確認する。敵艦のすぐそばまで近づかない限り、艦載ブレットは大きなリスクになりえる。
しかし、早ヶ瀬機も羽佐間機も動揺することはなく、右肩部62口径5インチ無反動砲でミサイルの到着地点を予想し、次々に発砲する。空にいくつかの光が見え、艦載ブレットミサイルを無効化できたことがわかる。
永遠は各種計器の情報をもとに計算している。
「間もなく敵ミサイル有効射程の内側に到達」
「敵艦の打撃力破壊を優先する。武器だけ狙うぞ、永遠!」
「了解」
携行型無反動砲を構え、八洲護衛艦の砲塔をロックオンする。一発放つと、命中して火が上がる。テンポ良くロックオンと発射を繰り返すと、次には垂直ミサイル発射装置や魚雷発射装置も破壊していく。
「敵艦隊は逃げようとしてる」
「そうだな。何が起こっているかわからないけど、元は味方のはずの艦だからな」
同じことを、早ヶ瀬も思っていたのか、攻撃の手が緩んでいる。
「早ヶ瀬機より管制塔C、八洲護衛艦隊の無力化に成功。次の指示を待つ」
「管制塔CよりA部隊、直ちに状況を確認する。現海域で待機せよ」
「了解」
◆◇◆◇◆
誠十郎が前線視察に出たとき、銃撃戦は激しさを増しているようだった。
左半身が麻痺している誠十郎は銃撃戦に参加できない。普段はスパナやペンチを持っている整備兵達が小銃を持って戦っているのを見て、申し訳ないような気がした。
倒れている敵を見る限り、何かしら特殊な訓練を受けた相手に見える。ただ、こちらについているクバナのエイン=ヘリャルという傭兵が参加してから、常に優勢を保っているという報告を受けた。
相手は、おそらく獲真主義かぶれの特殊部隊兵なのだろうが、確信は持てない。とにかくどの戦線も混乱しており、受け持ち施設に近づく敵らしい人間を近づけさせないことが精一杯とのことだった。
今のところ、観艦式のために集結していた各国艦隊は様子見をきめこんでいるようだ。しかし、多くの国が八洲護衛艦の砲によって自国の要人を殺されたのだから、何かしらの報復を兼ねた横槍が入ってもおかしくない状況だろう。
前線から下がった誠十郎は、整備兵達に銃撃戦への参加を呼びかける。
「手が空いている整備兵は、銃撃戦に参加しろ。今のうちに優勢を確定するぞ」
機甲神骸部隊が全て出払っている今は、できる限りの人員で敵を制圧したかった。
五七式自動小銃を持った整備兵達が、階段を上がっていく。その姿を見て安心した誠十郎が女皇陛下の容態を確認しようと思ったとき、右腕に激痛が走った。
「撃たれた?」
誠十郎が振り向くと、銃撃戦を行っている上層階ではなく、誠十郎がいる下層階のドアがバタンと倒された。
「伏せろっ」
誠十郎は周囲の兵に注意を促す。
激しい銃撃が誠十郎の周囲に襲いかかる。そのあとに、倒れたドアを踏みつけながら特殊部隊風の男達が数人突入してくる。
「しまった! 陛下をお守りしろ」
誠十郎の叫び声が広い空間に響き渡った。
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