プロローグ――大戦の終結
本格ロボットアクションの再始動です。
全てが明らかとなり、主人公が世界を救うまで、末永くお読みいただけましたら幸いです。
それでは、どうぞよろしくお願いいたします。
開放歴845年8月15日、八洲大皇国はGOSTO*軍に全面降伏し、第二次全洋大戦の主要な戦闘が収束した。
同月17日、八洲で奇蹟の艦と呼ばれた要塞艦わだつみが武装解除してGOSTO軍に投降する。
同年9月24日、要塞艦わだつみがGOSTO艦隊に護衛されつつ須賀港に寄港した。敗戦にも関わらず、数々の戦果を挙げたわだつみ若年隊の少年少女達は、八洲国民に歓迎された。
須賀港では日の丸の小旗を振る無数の国民達のために、若年隊による行進が行われていた。
その老若男女の喝采と、海軍速歩行進曲*が遠くに聞こえる場所で、羽佐間誠十郎は灰と瓦礫の大地に化した須賀の街を前に、立ち尽くしていた。
同期の仲間と決起会を開いたビヤホールは、崩れた煉瓦の山となっていた。立派だった市庁舎は、半壊して風にさらされている。賑やかだったアーケード商店街は、全てが灰に帰しており、ポツリポツリと力なく座り込んだ人々の姿が遠望される。
誠十郎は、自分達が命がけで守ろうとしていた、守れているつもりだったものの真実の姿に打ちひしがれていた。自分の失われた青春も、仲間の死も、何もかもが無駄だったのだと知ったのだ。
「なぁ、永遠、どう思う、これ」
誠十郎は戦時中、常に自分のそばにいた少女の名を口にする。
◆◇◆◇◆
水上を滑走する六式水上型機甲神骸の機内では、けたたましくアラームが鳴り響いていた。既に何箇所も被弾して、それでも誠十郎は戦いをやめるつもりはなかった。
「永遠、向こうの艦隊に突っ込むぞ」
「ダメだよ、誠ちゃん、死んじゃうよ」
永遠は機甲神骸の制御をサポートする「語り部」と呼ばれる半霊体の少女だった。この少女と出会ってから、誠十郎にとっての戦争が一変した。永遠は誠十郎だけを、六式の搭乗者に選んだのだった。
要塞艦わだつみを追い詰めつつあるヴェリテリア第7艦隊のただ中に、六式が突撃をかける。携行式9.8㎝砲で艦橋を狙いながら放ち、次々に敵艦を行動不能にしていく。
敵の砲には肩部機関砲を放ち、誘爆を狙った。
第7艦隊の弾幕を抜けた六式は、左手部を海面につけて急旋回し、再び敵艦隊を目指す。
「誠ちゃん、もう無理だよ、限界だよ」
「永遠、済まない、頼む、六式だけが希望なんだ」
要塞艦わだつみの無数にあった兵装は、既に敵の航空隊や砲によって無力化されている。直掩航空隊*も、護衛機甲神骸も全滅している今、わだつみを守れるのは六式だけだった。
誠十郎はフルスロットルで敵艦隊を目指す。誠十郎は敵砲塔の僅かな動きをも捉えて、操縦桿を微調整する。約18mの巨人は、誠十郎の操作に合わせて繊細に反応する。そして、無数の敵の砲弾が、すれすれのところをすごい相対速度で通り過ぎていく。
もう少しでこちらの射程に入る、そう思ったとき、六式の足元の海面が大きく膨れ上がった。
――しまった、潜航型の魚雷を見落としたか!
誠十郎がそう思ったときには海面の膨らみは弾け、爆風によって六式は大きくバランスを崩していた。
六式の機体が、海面に叩きつけられる。大きくバウンドし、二回、三回と回数を重ねるごとにパーツが外れ、中の神話体が傷つき、血液が流れ出し、骨格が破壊される。四回目のバウンドのあと、機体が沈み始める。
「永遠、脱出だ」
「うん。誠ちゃん、元気でね」
「お前も行くぞ」
「さよならなんだよ?」
「……どういうことだ」
「だって私は、あくまでこの神話体の語り部なんだから。ね、さよならだよ?」
「ふざけんな! 一緒に行くぞ」
突然、座席の一部が膨らみ始め、自動で開かれた扉から誠十郎を海上に押し出す。それはそのまま救命ボートとなる。
「永遠、永遠、永遠ぁぁぁぁ!」
◆◇◆◇◆
誠十郎も永遠も、自分達さえ必死で戦っていれば、八洲本土は守られるのだと信じていた。しかし実際には、本土はわだつみ以上に痛めつけられ、守りたかったものたちは破壊され尽くしていたのだ。
誠十郎は不自由な左半身を上手に折り曲げ、右手で大きめの瓦礫を持ち上げる。そして、それを思い切り地面に叩きつけた。
「畜生、畜生め、畜生が!」
右足で足元の石ころを蹴っ飛ばすと、力の入らない左半身がぐにゃりと曲がり、誠十郎は地面に転がった。
空には雲ひとつなく、ひたすら青が透き通っている。
「畜生が!」
「いつまで感傷に浸っている」
誠十郎の視界に士官服の男が入り込んでいた。
男は誠十郎の左手を掴むと、力づくで起き上がらせる。誠十郎を睨む男は、わだつみ臨時艦長だった野辺地勝正少佐だ。
「こんなはずじゃなかったと、ふてくされて生きていくつもりか」
「……あんただって、大切な故郷ぐらいあるだろ」
「ああ。ここと同じ、焼け野原らしい」
「知っていたのか?」
「だとしたら?」
「俺はあんたを、一生許さねぇ」
誠十郎はそう言うと、野辺地の襟元を右手で乱暴に掴む。
「そうか、それでいい。だがな、これからの八洲は、軍事力の後ろ盾なくこの焼け野原から復興しなくてはならない。感傷に浸る余裕など欠片もない。そして、国民を立ち上がらせるには、英雄が必要なんだ」
「英雄? まさか俺をか? ふざけるな」
「ふざけているように見えるか?」
軍港からは、未だに海軍速歩行進曲が聞こえてくる。病気持ちの兄の代わりに徴兵され、兵学校で何度も何度も聞かされたメロディだった。
「行くぞ、羽佐間」
誠十郎は野辺地に手を引かれながら、言葉にしきれない怒りを歯を食いしばって耐えていた。
*GOSTO……全洋安全保障条約機構のこと。
*海軍速歩行進曲……旧大日本帝国海軍、海上自衛隊で使用している行進曲。演奏例→https://m.youtube.com/watch?v=GC7nBF8kDPw
*直掩航空隊……ここでは、わだつみを護衛する航空隊のこと。
第1回はいかがでしたか。
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