桂の木のような
「・・・・・それでも、楓のは桂の木の肌のよう」
宗介は、その後でそういった。楓はずっとそれを繰り返し覚えている。硬いけれどそれだけ滑らかな肌合いをしっている桂の木。
襟足の細かい産毛を見つけてからは、首から肩の大きく開いている服ばかり着ているのは「自分の美しさをよくしっているから」だと、それと同じフォルムのノミの跡を人差し指でなでながら、細くて硬い線ばかりなのにドレープを垂れた柔らかさしか伝わってこないともいった。
どこまでが実のわたしで、どこからがわたしが彫ったものを指して言っているのか。でも、そのふたつの間に結界は入ってないように感じる。楓は女であり、作品であり、妹であり続ける。
「赤い靴と女の子、楓と楓の彫ったものと一緒だよね。あの女の子、お婆さんから最初の赤い靴もらう前から赤い靴、履いていたんだよ。きれいな顔の娘が綺麗な靴を履いてないなんて不釣り合いでだもの。あまりにもいびつなんで、傾いているものを足すように靴屋のお婆さんも大金持ちの老婦人もあの女の子を本当の姿にしてくれたんだ。きっと首切り役人に両足を切られなかったら身体の方はどんどん薄らいで、あの娘、きっと、まだ誰も見たことない赤い靴が昇華した身体に変わったんだ。お話どおりに神様に逢うのが幸せだったのか、それとも神様になるのが幸せだったのか」
この頃の宗介は多弁になっている。同じ目の高さで話すようになった。自分ばかりの鏡に向かって対話することに外連味を覚えなくなった。
「神様って他人を幸せにするばっかりで、あんまり幸せって感じがしないよね。神様は、なるより逢うほうがいいよ」
御簾の奥の占い師に祭り上げられている自分を諧謔して言っているのだろうか。
暗いままの部屋の中でその顔を見たが、楓には分からなかった。わからないが、それが宗介の一番の真ん中にあるような気がした。
「だから、掘り出してる途中で神様と出会っても、救い出すだけにしておくれ。ドレープにしか見えない硬い滑らかな曲線は、一日の半分をノミと金槌を握るために費やす過酷な作業が成したものだけにしておくれ。それを超えていっては神様のいる対岸へといってしまうから」