幽霊から友達を紹介されると言われた。不安しかないんだけど。
さてひったくり犯を捕まえた翌日、今日もゆかが料理をしてくれていた。
僕が料理をすると言ったが、ガスコンロも電気もない状態で料理ができるんですか? と聞かれて反論できなかった結果だった。
彼女はテキパキと念動力で準備をしていってくれる。彼女曰くポルターガイストらしいが、呼びにくいので念動力ってことにしている。
朝食は長ネギの味噌汁に白米、それに鯖缶だった。
ご飯は今まで自分が炊いて食べたものよりも、数段美味しかった。思わず、「めちゃくちゃ上手い」と声をだしてしまった。かまどで炊いたご飯は美味しいとは聞いていたが、こんなにも違うものなのかと改めてビックリする。
ご飯は美味しいのは嬉しいが、いい加減インフラを整備しなければいけないと思う。
彼女に任せっきりっていうのもなんか変な感じがするし。
僕がボッーとそんなことを考えながら彼女を見ていると、彼女から話しかけられる。
「今日は何をされるんですか?」
「そろそろ、スマホの充電、それにガス、電気、水道の契約かな。だけど……貯金が少ないからどうにかできないか考えてる」
「なるほど。それならいい考えがありますよ。ちょっと友達のところに寄ってからインフラを手に入れにいきましょう」
「えっ? インフラを手に入れるって? 脅したりするってことなに?」
思わず、聞いてしまった。だってインフラを手に入れるっていう発想がなんか不吉な感じがする。インフラの担当の人を操るとかなのだろうか?
昨日ゆかが頭に手を置いてひったくり犯にお仕置きをしていたのを思い出す。
絶対にダメだ。
「ちょっとどういうことですか! 私はまともなことしかしませんよ!」
人助けはいいことだが、あの男性2人の怖がり方は尋常じゃなかった。
あんな風になったら……思い出すだけでも身体が硬直しそうになる。
うん。歯向かうっていう選択肢はなさそうだ。
「ソウダネ……ホントウニサスガ……」
少し声がうわずってしまった気がするが彼女は嬉しそうな笑みを浮かべている。
昨日見た凍えるような笑みとはまるで違っていた。
「それじゃあご飯を食べたら買い物行きましょ! 途中で私の友達紹介しますね!」
……幽霊の友達……骸骨剣士だろうか。
なんだろう。すごく嫌な予感しかしない。
現に背中には変な汗をかいている。
どうやって断ったらいいんだろうか。
そんな僕の意思とは関係なく、彼女は鼻歌を歌いながら食べ終わった食器を片付けてくれていく。
楽しそうに食器を洗っている姿を見ていると優しいイメージなんだけどな。昨日の怒った時の冷たい笑みは……きっと僕の考えすぎだろう。
僕は何度も痛い目にあったが、見たくないものは見ないようにするのだ。
彼女が食器を洗い終わると僕の方へ振り向き素敵な笑顔で言ってきた。
「まさか、友達を紹介できるようになるなんて嬉しくて仕方がないです。ちょっと気難しいんですけど、本当はとっても照れ屋なだけで優しいとてもいい子なんで誤解だけはしないであげてくださいね」
一瞬もしかして、食われるんじゃないかと思ったのは彼女には言えない秘密だ。
幽霊に紹介される友達が気難しいっていうだけで、かなりハードルが高い。
「ハッハハ……僕も楽しみだよ」
果たしてうまく笑えていただろうか。
鏡に映った自分の顔がまるで他人にように見えた。
さっさと準備をして買い物へいくことにする。彼女のペースに巻き込まれたままじゃダメだ。僕はここからやり直すんだから。
まぁ考えてみて欲しい。この現代だ。たとえ幽霊と会うとしても、もしかしたら人ごみの中だったり、それなりに逃げ出せる環境のはずだ。それに、僕はなぜかはわからないが、ゆかのことを認識することができている。
つまり、その紹介してくれるお友達の幽霊?もきっと認識できるはずだ。怒らせずに上手くやり過ごせばいいだけだ。
僕はこの辺りの地理を思い浮かべてみる……うん。特に危険な場所はなかったはずだ。
凶悪な事件や、悲惨な事故が起こったなんて話は聞いたことがない。
「それじゃあ行きましょ!」
彼女は彼女は触れられない僕の手を握るようにしてリビングから飛び出していった。
彼女は本当に友達を紹介できるのが嬉しいようだ。彼女の笑顔はまるで太陽のように明るい。
玄関に向かうのかと思ったら、向かったのは1階の和室だった。
「ゆか? どっからその友達のところへ行くの? もしかして……友達って?」
この家にすでにとりついているってことだろうか。僕が見えていないだけなのか?
ゆかが押入れの扉をあけると、そこは空間が歪んでみえる。
あきらかに身体中で警報を発令していた。
入っちゃダメだと!!
「ゆか、それなに?」
「ここから行くのが一番近いので。どうぞ遠慮せずに」
僕の足は、僕の意思とは関係なくかってに進んで行く。
「ゆか、おかしいよ。ねぇ勝手に足が進むんだけど! ねぇ! ゆか!」
ゆかはいつもの優しい笑みを浮かべているだけだった。これは食われるやつだ。間違いない。確実に家に食われる。今までここに住んだお客さんも、もしかしたら魂だけを食われて死んでしまって廃人みたいになってしまったのかもしれない。
そして、僕の抵抗むなしく僕はその扉をくぐった。
「眩しい……」
一瞬明るい光が射すとそこには、大きな塀に囲まれた洋館があった。庭にはピンクや赤、黄色などカラフルな色の花が植えられている。
「ゆかここは?」
「ここはベアちゃんが住んでいる狭間の世界です」
あっこれあれだ。説明を受けたとしても僕の理解を超えているやつだ。
身体をおおう恐怖心と、目の前の明るい花畑が何かわからない恐怖心をさらに大きくする。
「それじゃ行きましょうか」
目のまえにあった大きな門が自動で開いていく。僕の足は完全に僕の意識から切り離されて勝手に進んで行く。僕の想像で彼女をはかろうと思っていたのが間違いだった。
次回からはもう少し聞いてから行動しよう。もちろん、次があればだけど。
そして僕は怪しい門をくぐり、家の中へと入っていった。