君の生きる世界が僕の生きる世界
「ゆか、なんで姿がだんだんと消えかかっているんだよ。ベア! どういうことなんだよ! このままじゃゆかが消えちゃう!」
「あぁ、よしがみが使っていた力がなくなったからな。よしがみはゆかをこの世界にとどめておくために無理矢理龍脈の流れをかえたんだ。それも、もうすぐ元の流れに戻る。本来ここに龍脈なんて力は存在しないんだ。よしがみの力があったからバランスを保っていただけなんだ」
「じゃあどうしろっていうんだよ。どうすればゆかと一緒にいられるんだよ」
ベアはうつむきながら、何か言うのを躊躇しているようだった。
「ベア頼む! 知っていることを教えてくれ」
「そもそも、ただの浮遊霊だったゆかがこんなに長く地上にいれたのも、ポルターガイストを使えるのもおかしいことなんだ。これで自然の流れに戻るんだ」
僕は出会った頃、ゆかが捕まえた男たちのことを思い出していた。
ゆかがポルターガイストて石を当てた時、ゆかはすぐに家に戻ってしまっていた。
ゆかは……龍脈からパワーをもらって……ずっと生活していたのだ。
龍脈の流れが元に戻るということはゆかと一緒に過ごすことはできない。
それは僕にとって死刑宣告とも変わらないことだった。
「僕がここで死ねばいいってことなんだね。大丈夫だよ。ゆかがいるなら僕は怖くないから」
雪山の洞窟でも僕は一度死を覚悟していた。
それなら今死んでも変わらない。
「違うよ、もっくん。自分で死んでしまっても私と同じようにはなれないわ。悲しまないで。私たちはまた必ず会えるわ」
ゆかの目から涙がこぼれる。
「ベアなにか方法はないのか?」
「人でないものなら手段がないことはないが今のもっくんには無理だよ。よしがみが作った龍脈はあいつがいなくなった以上、維持することはできない。ただ、それは元の流れを戻るだけだから、必ずどこかにはその影響下にある場所があるはずだ。だから龍脈を探せばまたこちら側とつながることができる。だけど……」
「だけど? もうもったいぶらないで言ってくれ」
「通常の流れに戻った龍脈は人が触れることなんてかなわない。よしがみは数百年をかけて自分を神格化した神の一種だったから無理ができたが……もうすぐ、私たちの世界の境界線はなくなる」
「それはつまり……」
「君の仲間とも、私とももう会うことはできなくなる」
「じゃあ僕はなんのために……なんのために……よしがみと戦ったんだ……」
「違うよ。もっくん。それは違う。もっくんが戦ってくれたから私は解放されることができたの」
「ゆか……」
僕はもう一度ゆかの顔を見る。ゆかは満面の笑みを浮かべ、
「もっくん大好きだよ。この別れは永遠の別れじゃない。もっくんとまた出会うために別れだから。待ってて。必ず会いに行く。絶対に会いに行く。もっくんを今度は私が見つけるから」
「ゆか、僕も何度でも見つける。必ず見つけ出す。ベア龍脈は俺の世界にもあるんだよね?」
「あるよ。龍脈だけではなくパワースポットと呼ばれるところにはこちらと繋がりやすい力がある。まさか……探すつもりか?」
「こう見えても俺はついてる男だからな。やってできないことなんてない。何年かかっても必ず見つける。ゆかに絶対に会いに行く。だから、転生なんてしないで待っていてくれ」
それはすごく残酷なお願いだというのはわかっている。
ゴールのわからないランニングが辛いように、僕たちが探すものはどこにあるのかさえわからないものなのだから。
でも、ゆかからの解答は以外なものだった。
「もっくん……それはどうかな? 彼女には浮気され、会社首になって家まで焼かれる男だからなー。もっくんには無理だと思うよ。だから私も探す! 絶対もっくんに会える方法を探す! 待ってるだけの女なんて嫌なの。ベアちゃんだってまだ転生してないってことは転生しなくていい方法があるんでしょ? 私ももっくんに会うまで何年でも何十年でももっくんに会う方法を探す」
「はぁ……私には勝てないはずだよ。この世界のどこかにはよしがみのように自分で故意的にやった場所以外にもあると言われている。魔力が高い場所は自然と異界との距離が近くなる。だけどそういう場所は空間が不安定になっていたりするから封印されていたりすることも多い。だからお前がいくらついていても見つけられる可能性はかなり少ないんだぞ」
「あるにはあるってことだろ? じゃあ大丈夫だ。ゆか待っててくれ。必ず会いにいく」
「わかった。ただ一つ約束してくれ。自分で命を投げ出すことはするな。自分で命を投げ出した時点で行き先が変わってしまう。それは一番悲惨なことになってしまうから、何があっても生き延びろ。どんなに辛い状況だとしてもだ」
「わかった。約束する。どんなに辛い時でも前を向いて困難に立ちむかうよ」
「さて、そろそろ時間がきたようだ。またな
ベアたちの姿も段々と透明になっていく。」
「ゆか……大好きだよ。必ず迎えに行くから。それまで……あいつらのことも頼む」
僕のまわりに仲間たちが集まってきて優しく抱きしめてくれる。
「アヤ、マシロ、ハクビ、ライガ、テンマ……ゆかを頼むな」
「おりっ」
「ぺがっ」
「ぞうっ」
「コン」
「ご主人様私も必ず会いにいきます」
「もっくん。待ってて」
「僕も会いに行く。君の生きる世界が僕の生きる世界だから。世界の境界線なんてあっという間に超えていく」
そして……静かに空間が歪み変わっていく。どこかの学校の校庭は見慣れた部屋へと姿を変えていった。
僕は綺麗に掃除された自分の家に帰ってきたのだ。
僕は急いで1階の和室へ行って押入れの扉を開けた。
もう一度ベアの家に繋がって欲しい。そう願いを込めて。
だけど、そこにはガランとした押入れが広がっているだけだった。
部屋の中にはアヤが作った品のある絨毯が敷かれ、古ぼけていた水回りはテンマによってきれいにされている。
夢ではなかったという証拠が部屋のいたるところにある。
だけど……。
「本当に一人になってしまったんだな……」
ふいに目から涙が止まらなくなり、今までの思い出がフラッシュバックしてくる。
初めてゆかに会った時のこと。仲間たちとの出会い。そして数々の冒険。
どれも、きっと誰に言っても信じてはもらえないような素敵な出来事ばかりだった。
「さてと、ゆかを探しにいくか」
僕は立ち上がり、誰もいない部屋へと一人声をかける。
もちろん誰も返事をしてくれない。僕は勇気をだして一歩進みだす。
僕の冒険はまだまだ終わらない。
~第一部完~
2階のクローゼットの扉がガタガタと音がしてゆっくりと開いていく。
「ねぇゆか行きなさいよ」
「ベアちゃんちょっと待って。だってほらあんな感動的な別れをしたのに一瞬で戻って来れてるって」
幽霊横丁に繋いだクローゼットとの道はベアの鍵の魔力を使って繋いでいたものだった。そして、この家には龍脈とはまた別のエネルギーの塊が沢山あった。
「まさか龍脈の力がアヤちゃんの作った織物にエネルギーが溜まっているとはね。家中幽霊横丁の布や生地であふれていれば、こっちの世界では魔力過剰なものになるわよ」
「ゆかさん、ベアさんほら早く行かないとご主人様行ってしまわれますよ」
マシロは二人の背中を押すがなかなか動こうとはしなかった。。
「ちょっと待ってください。心の準備が」
「今行くから焦らなくても大丈夫よ」
痺れを切らしたハクビが階段を一気に飛び降りていく。
そこには驚きと満面の笑みを浮かべるもっくんの姿があった。
『あなたのいる世界が私の生きる世界』




