ありえない。私が……だって私はこれでもかなり凄腕の魔法使い……
朝からお肉を美味しく頂くとかなり元気がでてきた。
やる気がでたところでどうなるかはわからないけど、落ち込んでいたところで現状を変えることできない。
「それでどうすれば元に戻れるんだ?」
「なんど聞くのよ! 固定されていた魔力は私が解除をしたから、ここを離れることには問題がないんだけど、元いた場所の位置情報がわからないの、だから、元居た場所の近くに時空のひずみがないかを探しにいくわ。それで場所がわかればそれを広げる魔力を練らないと。本当に何もしない人は簡単にいうけど大変なのよ」
「そのひずみが見つかれば元に戻れるってことか?」
「そう、元々ここに連れて来られているのもかなり無理をしているから、時空が割れている可能性があるわ。見つければ予定より半分は短縮できる。それが広がっていれば今日中には帰れる。可能性としてはほとんどないけど」
「時空が割れているって、なんかかなりやばいんじゃないのか?」
「たいしたことじゃないわよ。それが完全に修復してしまってはここの時空から帰ることができなくなるからそっちの方が問題よ」
「ここは幽霊横丁とかと一緒の時空なのか? 同じなら幽霊横丁に戻れれば行くことができるんじゃないのか?」
幽霊横丁からなら鍵を使って僕の家に戻ることができる。
そうすれば、そこからベアの家まで行けるはずだ。
「残念だけど、あなたの家から私の家にいく時空が閉じている可能性があるの」
「どういうことなんだ?」
「私という固定があった時空がずれるっていうことよ」
「うん。わかった。聞いてもわからない種類のことってことだな」
「そういうこと。物分かりが良くて良かったわ」
なぜかベアに褒められたが、独自のルールを理解しろって言う方が難しい。
自分の世界のことだって理解していないのだからわかるわけがない。
「それじゃ、まずはその場所まで行こうか」
「そうね」
僕たちは急いで肉をたいらげると、そのまま洞窟をでる。
青い空があり太陽の光が白い雪に反射して眩しい。
これだけ見ると僕のいた世界と変わらないが、空には大きな惑星が浮かんでいた。月とは違うその惑星が元居た世界とは違うのを表していた。
「どっちからきたの?」
さすがに、僕たちが歩いてきた足跡はすっかり雪で覆われてしまって発見することはできなかった。
「多分……こっちかな?」
「コン」
僕が指をさすと、ハクビがまったく逆方向を指さす。
「ハクビちゃんが言うにはこっちから来たそうです。私もこっちだと思います」
「お前……全然覚えていないんだな」
「そりゃそうだろ。ベアをおんぶして歩いてきたんだからな」
「はい、はい。行くわよ」
俺たちは洞窟をでてゆっくりと歩き出す。
雪は意外と深くかなり歩きにくい。進んでいるはずだが、一歩進むごとに足をとられるのでいっこうに進まない。ハクビとマシロはどうやっているのか雪に沈むこともなく逆にどんどん進んで行く。不公平すぎる。
雪に慣れていないというのもあるが、かなり大変だ。
だが、僕よりも先に音を上げたのはベアだった。
「あぁ! もう無理! こんなのやってられないわ! 真空の刃!」
ベアの前にある雪に大きな溝ができるが……決して歩きやすくなってはいない。
「クソっ! この私を本気にさせたわね。いいわ。この山ごと更地にしてやるわ!」
ベアは本当に怒ったのか怒りを雪にあてようとしているが、そこへマシロが声をかける。
「ベア様、それでしたら私の方で氷にしましょうか? 坂道になっているので足を滑らせたときにどうしようかと思って提案するか悩んでいたんですけど」
「おっそれいいわね! 氷にしましょ! それの方が絶対歩きやすいわ!」
マシロが両手を地面の方に向けると、その場所が凍り付いていく。
「マシロ魔力みたいなものは大丈夫なのか?」
「そうですね……今の状態であれば大丈夫かと。この世界は結構魔力が濃いので。とはいっても歩きながら凍らせられるのは30分くらいが限界かと……」
「それで充分よ。割れ目が見つかればなんとかするから」
マシロが足元を氷にしてからはかなり楽になった。
洞窟を見つけた時はかなり歩いたと思ったが、雪の中を歩いたので実際はそれほど歩いてはいなかったようだ。
僕たちが少し歩くとすぐにその場がわかった。
なんとも不思議なものだが、本当に空間が割れていた。ただ、その大きさはかなり小さくなっている。
「ついてるわ。まだ割れ目が残ってる。ただちょっとまずいかも」
「どうしたんだ?」
「向こうの空間の維持が出来なくなっていて空間がずれてきているわ。ちょっと待ってこれ以上ずれないように固定するから」
ベアはそのまま割れた空間へと手を突っ込み魔法を唱える。
ひずみの中が一瞬光ると、そのまま手を引っこ抜いた。
「これで大丈夫だとは思うけど……このひずみを大きくしなければいけないのよね。もう一人魔法使いがいれば一緒に引っ張って広げられるんだけど。はぁまぁいいわ1カ月かかるのが半月の辛抱になったわけだし」
「一人だと厳しいのか?」
「例えばだけど、この空間が閉じないように左右に引っ張りながら、縦にも広げるイメージかなー。手が2本では足りないような感じだ」
「うん。今のはなんとなくわかった。それで結局どうすればいいんだ?」
「少しずつ広げて行くしかないわね。とりあえずいったん戻りましょ」
「コン、コン」
ハクビがそのひずみを見ながら何かを訴えている。
いったいどうしたというのだろう。
「マシロ、ハクビは何を言っているんだ?」
「広げればいいのかって?」
「何を言っているんだ? 私だって開けることができないひずみをあけることなんてできるわけ……なんなんだお前の仲間は?」
ハクビの9本ある尻尾のうち4本が伸びて行きひずみを無理矢理拡大させる。
「ありえない……絶対にありえない」
「これで帰れるのか?」
「あぁ……帰れる。帰れるが……なんなんだ! 私は結構っていうかかなりの使い手の魔法使いだぞ」
「まぁ、まぁ落ち着いて。ハクビの魔法じゃ倒せなかった魔物をベアは倒しているんだから、得意不得意はみんなあるだろ?」
「あぁー助かるのになんでこんなに心がー!」
ベアはそうとう悔しかったらしい。でも早く帰れるならそれにこしたことはない。
「ハクビありがとうな。怪我はもう大丈夫なのか」
「コン」
ハクビは大きく頷き、氷の上で一回転する。
確かにどこにも怪我はなくなっていた。
かなり回復がはやいみたいだ。
「帰るなら、熊さんのお肉と毛皮もってこないといけないですね。ご主人様ここでちょっとお待ちくださいね。今持ってきますので」
そういうとマシロは氷の上を高速滑って洞窟の方へ向かっていく。
どうやら僕たちが足を引っ張っていたらしい。
「何はともあれ帰れるようで良かったな」
「ありえない。私が……だって、私はこれでもかなり凄腕の魔法使い……」
ベアは目の前の現実を受け入れられないようだったが、そっとしておいてあげることにした。
何はともあれこれでやっとゆかのところへ戻れる。
かなり時間が経っているからな。ゆかたちが心配だ。




