雪山マジックで可愛く見える時ってあるよね?もともと可愛いんだけど。
パチパチと木が燃える音がする。
あれから、アヤが作ってくれた寝袋の中に入るとすぐに寝てしまった。
アヤのミサンガのおかげで身体のまわりの温度は自分にとっての適温に調整されている。
これを売り出せば大金持ちになれるに違いない。
問題はベアしか狩れないということだ。それと科学的に証明しろと言われたときにどうしようもない。
出だしからつまずいた。売り出す夢はなかなか遠そうだ。
仕事が決まらないなら自分で商売でもと思ったが、そういう才能はなさそうだ。
僕が寝てからどれだけ時間がたったのだろうか? ベアは焚火を挟んで反対側で寝袋に包まれまだ眠っている。洞窟の外も暗く、もうひと眠りできそうだ。
ふと焚火の番をしながらマシロがぼっーとしているのが見える。
みんなが寝ているこの長い夜をずっと一人でいたのだろう。
同じ家に住んでいる時もマシロはいつも誰よりも遅くまで働いて、誰よりも早く起きていた。
僕は寝袋からでてマシロの近くへ行って、一緒に焚火にあたる。
「おはよう」
「おはようございます。ご主人様まだ早いですからもうひと眠りしていてくださって大丈夫ですよ?」
「あぁ、ありがとう。でも少し寝たら、すっきりしたからな。マシロも少し休んできていいぞ」
「私は大丈夫ですよ。アヤちゃんみたいに寝る機能とかもないので」
アヤも元々は人形みたいなものだが、指令がなければ主人と一緒に寝る機能がついている。夜中勝手に動かれるとあらぬ疑いをかけられてしまうかららしい。
「マシロ、ありがとうな。いろいろ本当に助かった。君がいなかったら僕たちはここまで上手くいかなかったよ」
「いえ、むしろ先ほどは私が上手く熊を止めをさせていなかったせいで怖い思いをさせてしまってごめんなさい」
「なにを言ってるんだよ。マシロがいなければ、足止めもできなかっただろうし、最初の段階で僕なんて死んでいたよ。本当に助かった」
「本当にご主人様って優しいですよね。こんなに優しいご主人様なんていないですよ」
「そんなことないよ? 雪ん子の状況についてはわからないけどこの世界はなんだかんだで優しい人にあふれていると思うよ」
「基本的に私たちは意識を持たない道具なので、道具には道具としての扱われ方しかありません。私は偶然意識をもってしまい、ご主人様に引き取られたおかげで楽しい日々を過ごさせてもらっていますが」
マシロは焚火に折った枯れ木を投げ入れる。
普段は白い魔色の頬が赤く染まっていて、ちょっと不思議な感じがする。
妙に色っぽいそう思ってしまうのは、どうやら疲れが溜まっているようだ。
人はあまりに疲れが溜まってくると、子孫を残したくなるっていう話だ。マシロは人形なのにいったい何を考えているのだろう。
「ご主人様……本当に私のご主人様になってくれてありがとうございます。一つお願いがあるんですけどいいですか?」
「どうした? 僕に叶えられることなら叶えてあげるよ。って言ってもたいしたことはできないと思うけど」
「私はご主人様に出会えて本当に幸せです。だけど、物である私の寿命とご主人様の寿命を考えた時に、きっとご主人様の方が先に死んでしまうと思います。だから、その日が来るまで一生側にいさせてくれませんか?」
マシロは出会ったときと同じような優しい笑顔で僕にそう伝えてきた。
子供と大人の時間の流れが違うように、この子たちと人間の時間の流れはまた別なものなのかもしれない。もしかしたら人間の寿命なんてあっという間なのだろう。
その短い時間の中で僕には何をしてあげることができるのだろうか?
答えは見つからない。
だけど、僕がいなくなってもきっとゆかもベアも他のみんなは生き続ける。その最後の日まで、できるだけ仲良く、楽しく過ごしたいものだ。
「ご主人様ダメですか?」
「いや、ごめん。改めて僕の方が先に死ぬんだなって……。いいよ。むしろ僕の方からお願いします。僕は……たまたまこうなっただけで、なんの才能もなければ、強いわけでも、運も何もないけどみんなと一緒にいたい。だから、マシロもずっと一緒にいて欲しい。ただ、危ない時、無理だけはしないで欲しい。僕にとってマシロの変えはいないんだからね」
「わかりました。この命尽きるまで、ご主人様の側に使えさせて頂きます。あともう一つ。普段はなかなかゆっくりご主人様と一緒になることがないので、ちょっとだけ……膝をかりてもいいですか?」
「えっ? あっいいよ?」
マシロが僕の膝の上に頭を乗せる。睡眠は必要がないとは言ってもマシロにも休憩は必要なのだろう。
「いいよ。他に何かして欲しいことは?」
「髪の毛を……髪の毛を優しくなでてほしいです」
「わかった」
僕はそのままマシロの髪の毛をなでながらいろいろな話をした。今まで話すことができなかった二人の距離を縮めるように。
しばらくすると、焚火の温かさもあってか僕はいつのまにか眠りについていた。
僕の身体には毛布がかけられていた。マシロには途中で眠ってしまって悪いことをしてしまったが、マシロは今日も早起きして準備をしていてくれた。
「ご主人様おはようございます。昨日はありがとうございました」
マシロは怒るどこから、昨日よりも嬉しそうにしている。
「あぁおはよう。先に寝てしまったみたいで悪かったな」
「そんなことありませんよ。まじかでご主人様の寝顔が見れて福眼でした」
「そう言われると少し恥ずかしいけどな」
「ちょうど、ご飯ができましたので今日もしっかり食べてくださいね」
マシロが香草に包まれた肉をだしてきてくれた。
デビルブルーベアの食べきれないものはマシロが氷漬けにしてくれていた。
ここにあと何日いるかわからないが、貴重な食糧であることには間違いない。むしろ、もって帰れるなら持って帰りたいくらいだ。
「おはよう。本当にあなたたちは楽しそうでいいわね」
朝からベアに嫌味を言われてしまったが、洞窟の外は吹雪がやみ快晴だ。帰るための方法を探さなきゃいけない。




