せっかく熊を倒したのBBQを始めてみた。
僕とベアとハクビは焚火に当たりながら、マシロとアヤが血抜きをしているのをみていた。
怪我の酷かったハクビはあの後、僕に注意されて、今は大人しく横に座って木の枝を折りながら焚火に入れるというお仕事をしてもらっている。
ハクビの怪我はなんとか致命傷にはなっていないようだ。
本当に無事でよかった。
マシロは、デビルブルーベア血抜きが終わると僕たちのところへやってきて身振り手振りで何かを訴えてくる。
「この子だけ話せないのか?」
「あぁ、マシロは本来、自我を持たないらしいんだ」
「もしかして雪ん子か?」
「あぁそうだ。ベアもやっぱり知っているんだな」
「もちろんだ。それなら……ちょっとこっちに来てみろ」
ベアがマシロを呼ぶとマシロは首をかしげながらベアの側による。
「ちょっと頭を貸してみろ」
マシロの頭にベアが手を置きなにやら魔法を唱える。
マシロが急にのどを抑えて膝から崩れ落ちる。
「アッ……ガッ……タル……グェ……」
「おいベア、マシロに何をしたんだ?」
「ちょっと待っていろ。大事なところで焦る男はモテないぞ。どうだマシロ?」
マシロがゆっくりと立ち上がる
「あっ……ありがとうござるます。まだ……言葉……上手くないてず」
マシロが片言の言葉で挨拶をしてきた。
「ベア! マシロが話しているんだけど!」
「あぁ、私が魔法で話せるようにしたからな。意識があればなんとかなるものだな」
「知らずにやったのかよ」
実験的にそんなのをやられたら困ってしまうが、それでも話せるようになるのは素直に嬉しい。
「ベア様……ありがとうございます……ご主人……様……あらためて……よろしくお願いします」
「マシロ良かったな。言葉が話せるようになって。それで、何かを借りようとしにきたんじゃないのか?」
「ベア様がもしナイフをお持ちでしたらお借りしようかと……思いまして」
「あぁ、いいぞ」
ベアが持っていた傘から剣を引き抜く。仕込み傘になっていたようだ。
マシロはそれを受け取ると嬉しそうに熊の方へ戻り、解体作業へと戻っていった。
「ところで、ベア元の世界にはどうやったら戻れるんだ?」
「私も挑戦はしてみたんだけどな……どうも私のパスまでこの場所に結ばれてしまったようで戻るのには少し時間がかかりそうだ。また開通させて、それを広げて、私のパスの変更をして1カ月もあれば大丈夫だろうが、少し魔力を貯めないといけない」
「パス……?」
ベアは心から疲れたように説明をしてくれた。どうやら僕たちは簡単には戻れないようだ。
普段、ベアは人間の住んでいる空間と異世界の間の空間に自分自身を固定しているらしい。
その方法などは僕が聞いてもよくわからなかったが、それはとても特別な魔法でほぼ時間を停止している中に住んでいるとのことだった。
空間の間に固定されていたはずのベアが、今回固定場所をこの雪山に変えられてしまっていたらしい。
そのため、時空魔法を使ったときにベアがここに流れるようになっていたようだ。
ベアの空間に入ってこれる奴は限られているらしいく、犯人は絞られるということだったが……。
ただ、本来はベアを単体でここに送り込むつもりだったようだ。
今回犯人にとって僕たちが巻き込まれているのはきっと予想外のことらしかった。
僕たちがいなければ、普通にあのまま雪山で死亡するか、ここまで逃げてきても寒さで動けなくなったところを氷雪熊に殺されていただろうということだった。
「デビルブルーベアが冬眠から目を覚ましてすぐに会った人間が生き残るなんてまずいないからな。誇っていいぞ」
なんて褒められたが、俺が頑張ったわけじゃない。
ベアは最後に小さな声で言っていた。
「いよいよ……引き裂くつもりか……」
「どうかしたのか?」
「いや、なんでもない。それよりも戻る方法を考えないとな」
何か聞かれたくないようなことだったので僕もそれ以上は聞くのを辞めた。
まずはみんなで元気にゆかの元へ戻ることが先決だ。
それにしても1カ月は長い。吹雪がやんだら食料を探してみよう。
しばらくするとマシロが串に肉を刺したものを持ってきてくれた。
「とりあえず、みんなで腹ごしらえしないとね」
「コーン」
ハクビはそのまま肉を地面に差すと手際よく肉を焼いていってくれる。
「さて、それでは第一回デビルブルーベアを丸ごと食べちゃうバーベキュー大会イン雪山を開催したいと思います」
「お前は……大馬鹿なのか? どうしてそんなに緊張感がないんだ?」
ベアは僕の顔を見て心底呆れたような顔をしている。
だけど、そんなことを言われても仕方がない。
さっきまで命の危険にさらされていた僕としては、こうして生きているのが奇跡みたいなもので今のこの時間を喜ぶしかない。
僕たちの目の前には石で作られたバーベキュー用のかまどが出来上がり、その上には大きな平べったい石が置かれていた。
さすがに鉄板は準備ができなかったが、ちょうどいい石を見つけたので、それを乗せて鉄板代わりにした。
ベアだけはバーベキューがあまり好きではないようだったが、お腹が減ってはいい考えも思い浮かばない。
ハクビが途中でいつ見つけたのかわからないがピンク色の石を削って肉にふりかけはじめた。
「それってもしかして岩塩か?」
「コン」
ハクビは焼けるとすぐに僕たちに分けてくれる。
「ベア様頂きましょう」
「私は別にごはんなんて食べなくても……」
「私も必要はありませんが、食事を囲むことで仲良く幸せになれるって聞きましたから。さっどうぞ」
マシロはめちゃくちゃ話せるようになっていた。ベアに話せるようにしてもらったおかげかベアのことをずっと気にかけている。
ここのメンバーで本来食事が必要なのは僕とハクビだけだった。
マシロやアヤも食事はするが、どうやら必須ではないらしい。空気中の魔力でも十分まかなうことができる。もちろん、その食べたものを身体の中で魔力に還元しているらしいので、食事することができているらしい。
ベアも紅茶を飲んだりしてはいたが、食事は必要ないらしいがせっかくなので強制参加だ。
ハクビは俺の言いつけを守ってほぼ動かずに、泥から器を作り、それを高温で熱して器を作っていた。それからアヤに拾ってもらった枝を使って全員分の箸も作ってくれたが、ベアはどうやら箸が苦手なようだった。
「なによ! こんな使いにくい棒で!」
「はい、ベア様どうぞ。あーん」
「やめい! 私はそんな子供じゃないぞ!」
そんなことを言いながらも、途中からベアはマシロ食べさせてもらっていた。
マシロは面倒見のいいお姉さんタイプなのだろう。
楽しい食事会が始まった。




