ベアの魔法と熊のお肉とサバイバル能力
「ベア大丈夫なのか?」
「大丈夫よ。その身体の奴に心配されるとは思っていなかったけどね。この子が作ってくれた服のおかげで凍死するところだったのに寒さもしのげているわ」
「おりっ」
アヤがベアの服のポケットから顔をだすと、目に涙を浮かべながら飛び出してくる。
アヤは泣けたのかなんて思ってしまったが、そんなことを考えている俺の頭をひたすら頭をぽかぽかと叩いてくる。
「ごめんよ。心配かけたみたいだね」
アヤはぷいっとそっぽを向いて涙を拭く。
「よしよし……あれっ?」
なんとか終わった安心感からか僕はそのままへたり込むように座りこんでしまった。足に力が入らない。
ハクビと、マシロが僕の方へ早歩きで寄ってくる。ハクビのダメージは相当あるようで走れないようだった。
「二人とも、ダメだよ。もっと自分の命を大切にしないと」
「コーン!」
ハクビはそれは僕もだと言わんばかりに抗議の声をあげる。
マシロは僕の首に手を回し思いっきり抱き着いてくる。
僕は優しく背中を撫でてあげる。どうやら本当に心配をかけたらしい。
「あなたたちすごいわね。こいつ相手にまさか死人をださないなんてね」
「ベアはこの水色熊がなんなのか知っているのか?」
「水色熊ねぇ。こいつの正式名称はデビルブルーベアよ。一般人が山の中で出会ったら普通は逃げ出すように言われている魔物よ。私のように優秀な魔法使いじゃなければ魔法の攻撃も通らないわ。ほとんどの選択肢は二つだけよ?」
「二つ?」
「そう、食われるか、無残に殺されるか」
「両方死んでるじゃん」
「そっ、だからかなり質が悪い。転移された先で偶然出会うなんてことはないから、よっぽどここで私を殺したかったらしいわね」
ベアが急によろけそうになる。よく見るとベアの身体が小刻みに震えている。
「大丈夫か?」
「大丈夫だ。私にかまうな」
「まだ本調子じゃないじゃないのか?」
「うるさい。それよりもここから脱出することを考えないと」
「ベアの魔法でここから戻れないのか?」
ベアは悔しそうにうつむき、そして静かに続けた。
「誰かが私のゲートの魔法をここへくくりつけたんだ」
「それはつまり?」
「ゲートの魔法には入口とゴールをあらかじめ決めておくことができるんだ。そのゴールを勝手にここの雪山に設定されたみたいなんだ」
「そんなことできるのか?」
「あぁ力を持っている奴ならな。それでもやった奴は限られるけどな」
「それを逆にはできないのか?」
「できなくはないが、少し魔力を使いすぎた」
「そうか。なら休んでからだな。それにしても黒紫の魔女といい。いろんな魔女がいるんだな」
「おいっ! お前がなぜその名前を知っている!?」
ベアが急に顔をあげ、驚きの表情で俺を詰問するように質問をしてくる。
「なんでって? こないだ織鬼の大会の時の最後に言っていたんだよ。東の方で黒紫の魔女がでたから気を付けてくださいって」
「それはありえない……ありえてはいけない……」
「いったいどうしたんだ? ゆかもその名前を聞いた時に動揺していたようだけど」
「あっ……別にお前には関係ない。知りたいならゆかに直接聞け」
ベアはもうこれ以上は語らないといった感じで身体ごと視線をそらす。
そんなに聞いたらまずいことなのだろうか。
「ここにいても解決しないなら、まずは少し休憩しよう。そこの熊って食えるのか?」
「あぁ食えるぞ」
ベアは少し何かを考えているように素っ気なく答える。
黒紫の魔女っていうのはいったいなんなのだろうか。
僕たちが話をしている横でアヤが紐をだし、ハクビとマシロが足に糸をかけ吊るしあげると血抜きをはじめている。
彼らは今必要なこがわかっている。俺にわからないことを考えても仕方がない。ベアも言いたくないようだし。熊でも食べながら今後の話をしよう。
意外とたくましくなっている自分に僕は少しだけ驚いていた。




