幽霊なんているわけない。そうきっと見間違いだ。でも可愛い……
その家は駅から少し離れている畑の中にある一軒家だった。
まわりは畑だが、交通量はそこそこあるらしく自販機が家から見えるすぐ側にあった。
街中から少し離れているとは言っても自転車かなにかをゲットできれば、それほど苦にはならない距離だ。
「それじゃあ、特に内覧とかはしないで大丈夫なんだね?」
「もちろんです。ここがダメって言ったらむしろ路頭に迷いますので本当にありがとうございます」
「これ新しい家の鍵ね。それじゃあ僕は戻るけど、最上君気を付けてね。あっあと中の家財道具とかカーテンとかいろいろ残ってはいるけど、それは全部処分してもらっても使ってもらっても構わないから」
「わかりました。本当にいろいろありがとうございました」
僕は深々とオーナーに頭を下げる。
オーナーはここまで送ってくれる中でも何度も心配してくれたが、次に別の仕事があるらしく、すぐに帰っていった。
やっぱり僕にも運が回ってきた。
家から追い出されてしまったけど、前の家よりも広くて家賃も安い。
幽霊の同居人を除けば全然いいだろう。
もちろん、怖い幽霊だったら嫌だけど。
朝あれほど晴れていた天気は黒い雲に覆われ、今にも雨が降ってきそうになっていた。雨の中不動産屋を回ることを考えればやっぱりついていた。
「失礼しまーす」
僕は鍵を開けてゆっくりとドアを開ける。
室内は暗くかび臭い。
とりあえず、部屋のカーテンと窓を開けて空気の入れ替えからだな。
やることは沢山ある。水道に、電気、ガスも連絡しないといけない。
インフラが整うと少し安心するものだ。
そう思ってスマホをみると電池が切れていた。
充電のことを完全に頭の中から失念していた。
「はぁ、まずはスマホの充電器からか。あとで100均に行って買い出しだな。それよりもまずは家の中の見回りからだ」
僕は恐る恐る1階を見回ってみたが1階に特に幽霊はいなかった。
お風呂場らしく場所に入ろうとしたところで、何か2階から音が聞こえてくる。
『トン……トン』
気のせい……ではなさそうだ。
ふふふっ、こういうのはだいたい風の音とかそういうのに決まっている。
きっと前の人たちは何か勘違いをしているに違いない。幽霊なんて絶対いない。
僕はその怖さを先に断ち切るために2階への階段をあがっていく。
この時代に幽霊なんて非科学的なものを信じる方がどうかしている。
いや、僕がこの物件を借りるためにきっと幽霊さんはみんなを追い出してくれていたに違いない。僕なら幽霊さんと同居してもいい。
カーテンが閉められているせいか2階の廊下は暗く、薄暗い。
僕はそのまま一番近い部屋から2階の窓も開けていく。
窓を開けると近くで雨の降っている雨の匂いがする。長くは開けられないかもしれないが、それでも十分だ。だいぶ部屋のかび臭さも減った気もする。
近場の部屋から開けていったが、特に幽霊も変な音もしない。
そしていよいよ最後の部屋のドアを勢いよく開ける。
こんな昼間からお化けなんているわけは……だが、僕は見てしまった。部屋の角に白いワンピースをきた半透明な女性が体育座りをしていた。
どうやら、僕は心労が溜まって疲れているようだ。幽霊なんて見えるはずないのに可愛い女の子が見える。目薬……あっ家ごと燃えたんだった。なんて考えながら現実を受け入れられないでいた。幽霊なんて本当にいるのかよ!