死への恐怖の先
水色熊は少し疲弊をしてきているのか、上り坂を登ってくるのに、最初ほどの勢いはなく少しふらついているようにも見える。頭部からは今も少しずつ出血しているようだ。
ただ知能が高そうなので最後まで油断はできない。
手に握った棒はやけに頼りないが、何もないよりはマシだった。
できれば自分も生き残りたいが……でも、仲間が何もせずに死ぬことなんていうのは耐えられない。
それに幽霊になってもゆかがいると思うと、心が少しだけ楽になった。もちろん、痛い死に方は嫌だけど。
水色熊は僕のことをかなり警戒しながら距離をつめてくる。
僕としてもこのまま黙ってやられるわけにはいかない。狙うは相手の目か大きく開けた時の口の中だ。
できれば目からそのまま脳まで衝撃を与えられればと思っているが、頭がい骨がきっと邪魔をするに違いない。だからせめて片目だけでも僕の力で潰しておきたい。
僕はすぐに射せるようにと、水色熊の目の高さに棒を構える。タイミングが合えばいつでもいける。
一番まずいのはこの棒を折られてしまって何もできずに終わることだ。
距離が少しずつ近づいてくる。水色熊の大きな手が天井の高さまで持ち上げられる。
手を振り落してくる!
とっさに僕はバックステップで距離をとり、その手を振り降ろしたタイミングで目を目掛けて棒を突き出す!
タイミングはいい。だが、水色熊がとっさに身体をひねったことで棒は顔からそれ、そしてそのまま棒を払われ激しい音を立てながら折れる。
あとは……もう打つ手がない。だけど、思考を止めちゃダメだ。目を瞑らずに現状を最後まで見るんだ。
どうせ死ぬのなら、絶対にあがなってやると気持ちで思ってはいたが、現実は甘くはなかた。水色熊の爪に着ていた服が引っ掛かり、そのまま壁に背中から打ち付けられる。
その衝撃は一瞬僕の呼吸を止め、思考もままならなくなる。
ここまでか……少しはみんなが逃げる時間を稼げたに違いない。
だけど……まだ身体が反応した。無理にでも身体を起こし、近くにあった木の棒をかまえる。
マシロとかは氷で川の流れを止めるなり橋を作ってしまえば逃げることができるはずだ。
ベアの方にはアヤがいる。外にでたとしてもアヤの裁縫スキルがあればベアを吹雪からきっと守ってくれるに違いない。
僕は呼吸が苦しく、背中の痛みがある中でも水色熊の目を狙うことを諦めてはいなかった。食べられる最後の瞬間でも僕は絶対に仲間が助かるための道を探す。
不思議と怖さはなくなっていった。ゆか……そっちへ行くから。
水色熊は今までのことがあり、最後の最後までかなり警戒をしている。
僕にとっては好都合だ。少しでも時間が稼げればみんなの逃げる時間を稼げる。
僕は短い棒を前に持って最大限の虚勢を張る。
「ほら、来いよ」
「ガウァッ!!」
水色熊は二足で立ち上がり自分の身体を大きく見せる。もう後ろにも下がれない。
水色熊の手が……。
振り降ろされると思った瞬間、水色熊の背中に火球と氷の塊を撃ち込まれ体勢が崩れる。
「お前ら、なんで逃げないんだよ!」
ハクビにあってはもう身体がほとんど動かなくなっているのをマシロが無理に歩かせているようにも見える。
マシロとハクビは僕の方に微笑みかける。
「絶対ダメだ! 逃げるんだよ!」
ハクビとマシロは二人でもう一度同じように魔法を放つ。さすがのこれには水色熊も我慢ができなかったらしい。僕に背を向けるとまた二人を狙うように振り返る。
二人の攻撃はダメージは与えているようだが倒すまでにはいかない。致命傷を与えるのには圧倒的な差があるのだ。
このままでは二人が……僕が思いっきり木の棒で殴りかかろうとしたところで声をかけられる。
「よく我慢をしたじゃないゆかをたぶらかしたあなたをただの腰抜けだと思っていたけど、訂正をしてあげる。多少いい奴じゃないか。そこのでくの坊、切れなさい。踊りなさい。そして死になさい」
目の前で水色熊の両手が切断され、足が切断される。まるでクルクルと踊るように一回転するとそのまま仰向けに倒れてしまった。
ベアは俺たちの前に華麗に降り立った。




