洞窟の奥に行くとそこには危険な……
洞窟の中がほんのり暖かくなり、身体の震えがおさまってくるとだいぶ気持ちが楽になってきた。
ベアはまだ眠ったまま起きる気配はないがみんなのおかげで少し落ち着いてきた。
ここはいったいどこだろうか。
焚火の木がはじけるぱちぱちとした音だけが洞窟内に響く。
「おりっ!」
アヤは今もこの洞窟を住みやすくするために色々なものを作ってくれていた。
アヤと魔法の生糸がなかったらかなり大変だったに違いない。
一通りここの空間で必要なものや僕への防寒具を作り終わると、次に作っていたのは、白いモコモコの女の子ようの服だった。
大きさ的にベアのようだ。
アヤはセンスもあるし優しくていい子だ。
アヤの頭を優しくなでる。
「おりっ」
嬉しそうに頭を僕の手にこすりつけてくる。
「ここからどうにか出ないとな……」
マシロに開けてもらった小さな穴から外を眺めてみるが外は暗く先ほどよりも吹雪が強くなっている。今はとりあえず待つべきか。
アヤは生糸を作り出すことはできても食料になるようなものを作り出すことはできない。
今はまだいいが……水分も食料もなければいずれ僕は死ぬ。
ベアや魔物の彼らならなんとかなるかもしれないが。
できるだけ早く、この状況をなんとかするしかない。
考えていても結果はかわらない。今動けるうちに動かなければ。
僕は両手をグーパーにして動作を確認する。
うん。大丈夫だ。しっかりと動く。薄着でほんの数分とは言え氷点下の世界に放り込まれたせいで僕の心まで凍りつきそうになったがまだ、心は折れていない。
身体もだいぶ温まってきた。
「ちょっと洞窟の奥を見てくる。みんなはここで待ってていいよ」
ハクビと、マシロが立ち上がり首を横に振る。
「一緒に行くのか?」
「コーン」
マシロも大きく頷く。僕を一人で行かせる選択肢はないようだ。
「わかったよ。アヤは悪いけどベアを見ててやってくれ、何かあったら大声で叫ぶんだぞ」
「おりっ!」
「それじゃあ行くか」
ハクビとマシロが僕よりも先を歩くようにして歩き出した。
洞窟の奥には暗闇が広がる。高さとしては2mくらいだろうか、横幅は車2台分ぐらいの広さがあり結構広い。
最初は平地だったが、ところどころに段差もあり高低差があるようなところもあった。
不安定な大きな岩などもあり、落とさないように注意しながら進む。
奥は光が届かないくらい広い。僕たちはスマホのライトとハクビの狐火を頼りに奥へと進んで行く。
足元にはゴツゴツとした岩が続きかなり歩きにくいのだが、ハクビとマシロにはまるで関係ないように進んで行く。
これは……前にライガが危なかった時にマシロに置いていかれた記憶がよみがえる。
あの時はミストドックに囲まれて大変だった。
だけど今回は、ハクビが僕の手を優しく引いてくれる。めちゃくちゃ紳士だ。
少し進んでいくと、洞窟の中に川なのに結構な勢いで水の流れる音が聞こえてくる。
「川か?」
「コン!」
ハクビが鼻をひくひくとさせて何かを感じ取っている。
アヤが手を僕の前にだして僕たちを止めるようなしぐさをした。
川以上に何かあるのか? ハクビが僕をかばうように前にでてきた。
僕がスマホのライトを奥に向けると、そこには水色の大きな熊がいた。川の音で気が付いていなかったのは俺だけだったらしい。
熊は寝起きで空腹なのか、大きな手を上にあげるとマシロに襲い掛かる。
マシロはまったく反応できていない。
「マシロ! 逃げろ!!」
目の前で砕け散る氷……こおり?
僕がマシロだと思っていたのは氷の像だった。
なんだこれ?
分身の術のように、沢山の氷の像が次々と出来上がっていく。
もしかしたら雪山のおかげでマシロの能力があがっているのかもしれない。
さまざまの形をした沢山の像が熊のまわりに出現する。
「マシロすごいな」
「コン」
ハクビは僕の前で明るい狐火をだして様子を見ているが慌てている様子はない。
水色熊は怒り狂ったかのようにマシロを破壊していくが、破壊したところにまたまた新しいマシロができあがる。
無限に増殖するかのように増える人形に水色熊も困惑しているようだ。
壊しては増えて、壊しては増えてを繰り返す人形に水色熊の方が恐怖を覚えたのか、1歩、また1歩と後ずさりしはじめる。
だが、水色熊は撤退することすらできなかった。
すでに後ろにもたくさんの人形が並べられていたのだ。
「なんか熊の動きが遅くなっていっていないか?」
「コンコン」
ハクビが指差したところを見てみると、水色熊の毛皮が氷ついていていた。
水色熊が暴れれば暴れるほど、氷が熊の身体に氷が付着し、そこから身体を固めていく。
そして……水色熊は動くのを自分からやめ氷像へと姿を変えてしまった。
水色熊が凍るとマシロは元の1体に戻っていた。
「マシロすごいな」
マシロはとても嬉しそうに抱き着いてきた。
頭を撫でるとにんまりとした笑顔で微笑んでくる。
「まだ、奥に危険な魔物とかいるのか?」
「コンコン」
ハクビは首を横に振り、また手を引いてくれる。
僕たちは水色熊の氷像をそのままにして、さらに置くままで進むと、そこには僕の予想通り川があった。水量は思っていたほどおおくはないが川岸は結構離れている。
その川はゆったりと流れてはいるが非常に冷めたく渡ってまでその先を確認することはできなさそうだ。見える範囲ではその川がどこへ通じているのかまではわからなかった。
これ以上先には進めそうもない。
ただ、川に魚はいるようなので、なんとかすれば食料には困らなさそうだ。
アヤの力を使えば釣り糸くらい作れるかもしれない。
「ここまでで終わりみたいだな。アヤにだけベアを任せておくのも不安だし、いったん戻るか」
僕たちが戻りだすと急にハクビが声をあげた。
「コーン!」
「ん? なんだ?」
僕が反応するとほぼ同時に水色熊の氷が割れ僕とハクビを睨みつけてきた。
水色熊はまだ死んではいなかったのだ。




