織鬼たちの本当の能力
「この勝負はやり直しとさせて頂きます。その前に一度検査を受けてもらい、それで異常がないか確認をします」
審判からは再度の勝負を言い渡された。
「勝負をする前に、ちょっと聞きたいんだけどなんで決着がついているのにもう一度やる必要があるんだ?」
「悪いな……ボウズ」
そこに現れたのはアヤを売ってくれた店主だった。
「その織鬼は通常とはあまりに違いすぎるんだ。俺もそんな織鬼を見たことはない。俺としては活躍してくれるのは嬉しいんだけどな。でもあまりに異常なんだ。ただ、不正じゃいとわかければ今までの織鬼たちの常識が壊れる。身体の小さい織鬼たちの希望になれるんだ」
「なるほど。技術の向上は織鬼たちの悲願ってことか」
「そうだ。だから不正をしていないとわかれば他の織鬼たちも心からお前たちを応援することができる」
「いいだろう。その変わりもし3回戦まで進んだら、一番最後の試合にして休ませてくれ。もう一度試合をするんだからそれくらいは融通してくれるだろ?」
「あぁ、それくらいならいいだろう」
「わかった。アヤちょっと身体を見せてくれるか?」
「おりっ……」
アヤは少し恥ずかしがっているようなそぶりを見せモジモジしだしているが、今そんなのは求められていない。絶対ゆかか誰かが教えたに違いない。
僕がゆかの方を見るとアヤにグッと親指を立てていた。
どんなシチュエーションを想定していたのだろう。
「いいから、はやく行ってこい」
アヤが店主の元へ行くと、店主は頭に優しく手を置く。
「熱くはないからな心配しなくていいぞ」
アヤの身体が青い炎に包まれる。
「熱くはないと言っても大丈夫なのか?」
「おりっ!」
織鬼には僕に心配ないと親指をたてる。青い炎は確かに織鬼を燃やしてはいないようだ。
最初、青かった炎が少しずつ黄金の炎に変わると観客から歓声があがる!
「うぉーーーーー!」
「すごすぎる!」
「奇跡だ!」
僕たちにはいったいなんのことなのかさっぱりわからないが黄金の炎というのがすごいらしい。そういえばライガを救う時に黄金の水を飲んだことがあったが、あれが関係しているのだろうか?
「どういうことなんだ?」
「すごいぞ! これはもうここ数百年起こっていなかった奇跡だ。お前これがなんなのか知らないのか? そりゃそうか! でもこれはすごいんだよ!」
「だから、落ち着け! いったいなんなのかわかるように説明してくれ」
「あぁ悪かった。織鬼には伝説の織鬼っていうのがいるんだ。織鬼を作った初代織鬼作りがある予言をしたんだ。最高の織鬼と最高の使い手がそろったときに青い炎は黄金へと変わり、織鬼たちのレベルは数段アップするって。だけどそんな織鬼はまったく現れなかった」
「その織鬼がうちのってことなのか?」
「そうだ! あの子だけじゃない持ち主のお前もすごいってことだ。もう一度再勝負をみせてもらおう」
先ほどまでの疑いの目とは違いあっという間に羨望のまなざしに変わる。
「まさか生きている間に出会えるとはな……」
店主はいきなり泣き出してしまった。
アヤはかなり特別な織鬼だったようだ。
「申し訳けありません、それでは、再度勝負をよろしくお願いします」
審判がもう一度勝負をさせようとすると、相手側の蛙紳士がいきなり腰を90度におり謝罪をしてきた。
「大変申し訳なかった。今までの失礼をどうか許して欲しい。私たちは完全に誤解をしていた。本当にすまない」
「いや、別に俺たちも無理に敵対するつもりはない」
「おりっ」
「こんなことをお願いできる立場ではないのは百も承知ですが、もう一度胸を貸して頂きたい」
アヤは任せろと胸を叩く。
そこからは……もう独壇場だった。やり直しになった二回戦はもちろんアヤが圧勝した。
会場を包む歓声はもう絶叫と言ってもおかしくはなかった。
他の2回戦の挑戦者たちは、恐れをなしたり、アヤの技を盗むのに集中したいという理由で本来10人残るはずだったが1人しか残らなかった。
その残ったのは蛇女の織鬼だった。
「わっ私はうちのニードルちゃんが負けるとは思っていませんわ。あなたがどれだけすごかろうと、他の織鬼たちのように勝負もせずに負けを認めるなんてことはできませんわ」
「僕たちだってそうですよ。不戦勝で優勝なんてそんなの望んでないですから。それで3回戦はなんの勝負ですか?」
「3回戦は……今回は事実上の決勝戦になりますが、こちらの勝負は相手の主人用に最高傑作の刺繍を作ることです」
「相手の主人に?」
「おりぃぃ」
それを聞いてなぜか異様にアヤはがっかりしだした。それはもう戦意を喪失したといっても過言ではないくらいに。
まぁ確かにあれだけ文句を言われていればやる気はでないだろう。
だけど、勝負といいつつもお互いが成長をするためのイベントだからな
「制限時間は30分です。それでは準備にかかってください」
「アヤどうする? 辞退するか?」
「おりっ」
決してやる気が100パーセントとは言えないがそれでも辞退はしないらしい。
道具の準備を始めるアヤは少しだけやる気をだしたのか、真剣な顔をしだした。
「それでは準備よろしいですか? 勝負開始!」
織鬼たちはそれぞれが相手の主人の所へ行き、なにか探るように見て行く。
なにか不思議な視線のようなものを感じる。きっと織鬼の能力で何かを見ているのだろう。
アヤは僕たちの服を一瞬で作った時もいつのまにか採寸をしていた。その能力なのだろう。前にゆかが織鬼が作った服で人格まで変わってしまうといのを思い出す。
相手の織鬼はあっという間に自分の場所へ戻り、刺繍を始める。
その技術は本当に優勝を狙うだけのすごさがあった。
うちの子ほどではないが、それでもスピードと安定感がある。
身体の大きさが大きければ技術があると言われている織鬼は、本当に見掛け倒しではなかった。
うちのアヤはいつまでも彼女の観察から戻ってこない。
何をしているのか、わからないがずっと相手の目を見て何かを探っている。
向こうも目を避けないため意地の張り合いでもしているのだろうか?
二人とも動かずに……5分がたち……10分がたち……20分がたった。
相手の織鬼はもう完成まじかになっている。
どうする? 声をかけるのが正解なのだろうか?
いや、ここで声をかけたところできっとできあがるのは中途半端になってしまう。
うちの子を信じて待つしかない。
「どうしたことでしょうか。一回戦、二回戦を圧勝で勝ち上がってきたとは思えないほど時間をかけています」
アナウンサーも痺れを切らしたのか声をかけるが、それでも一歩も動かない。
そしてラスト5分……ついにアヤが動き出した。
アヤは高速で刺繍を仕上げていく。だけど、今回のは非常に大きい作品だ。時間が間に合うのか……!?
あと、10秒です……9、8、7……まだアヤは動き続ける。
3,2,1、0! それでは縫うのをやめてください。
アヤは0とほぼ同時に動くのをやめた。
向こうの織鬼はだいぶ前に完成させており、勝ち誇ったように見ている。
「それでは結果を見てみましょう。まずはニードルさんの作品からです」
僕は相手の織鬼の作品に息をのんだ。
なんで……そこには可愛いゆかが笑顔で描かれていた。