アヤの圧倒的な力を見せつけて1回戦を突破したのだが……
蛇の女性から絡まれたあと、僕たちは無料貸し出し所で道具を借りていた。
あんなのに絡まれて何も言い返せなかった僕としてはせめて道具くらいは買ってあげようと思ったのだが、アヤにはそれを完全に拒否されてしまった。
「おりっ!」(道具を言い訳になんてしない!)
そう熱い情熱をボディーランゲージで訴えてきただの。
もう背後から本当の炎が見えるくらい……。
まぁ、実際にアヤがハクビに言って背後に熱い炎の演出をさせていただけなんだけど。
結構こういう、ふざけた感じのことを彼らはやってくる。
真剣な中でも心に余裕があって、そういうところが本当に愛くるしい。
就職活動全敗中の僕としては、彼らの爪の垢でも飲ませて欲しくなる。
きっと、みんながいなければ間違いなく心が折れていたに違いない。
僕たちは、無料貸し出し所から道具を借りると、先に始まった他の織鬼の大会を見ることになった。
予想外にすごいと思ったのが、小さい織鬼たちの手元や勝負がわかるように巨大な画面?が設置され広場に映し出させていたことだ。
機械というよりも何か特別な魔物のような感じだった。
メガネザルみたいなものが目から空中に映像を映し出している。
手元はどうやって撮影をしているのだろうか……?
探してみたがどこにカメラがあったのかは最後までわからなかった。
織鬼たちはなんだかんだいいながらも、100名近く参加していた。本当に娯楽が少ないのか見物客はそれよりもかなり多かったけど。
それぞれ、推しと呼ばれる織鬼がいるようで予選だというのに特定の織鬼がでてくると広場が歓喜に包まれる。
予選は10名ずつに分かれ、その中の2名が予選を突破し2回戦へ参加できるようだった。
先ほど絡んできた織鬼はほぼ1番で予選をクリアしていた。どうやら口だけではなかったらしい。だけど……うちの織鬼よりもスピードが格段に遅い。
「これって……わざとみんな遅くやっているのか?」
「いや、違うと思いますよ。うちのアヤちゃんが普段やっている場所って龍脈の流れる場所なので魔力無視でどんどんできるんですけど、ここって異界とは言ってもうちの家とは違うので、基本的に自分の魔力で操作するのでペース配分をしているだけだと思います」
「3回戦まであるから、1回戦は魔力を抑えているってことか。でもそれで勝ち上がれなければ意味がない気もするけどな」
「そうですね。織鬼の場合身体でほぼ順位が決まってしまうので、記念出場も多いのかも知れないですね」
「そうか。まぁアヤも無理に飛ばさなくていいからな。自分の好きなペースでやるといい。大切なのは楽しむことだから」
織鬼は大げさに手を前にだして否定してくる。
「おりっ!」
「スタートから飛ばしていくってことか?」
「おりっ! おりっ!」
織鬼は大きく頷きながら任せろといっている。
「それでは、受付№60番から70番の方会場へおこし下さい」
アヤの受付№67番が呼ばれたので1回戦の会場へと向かう。
「頑張ってな」
「おりっ!」
うちのアヤの対戦相手にも人気の織鬼がいたようで、68番が出場すると会場が歓声でわきあがる。
「それでは予選の方を開始したいと思います。こちらにある画像を見ながら作成してみてください」
画像が発表されるとほぼ同時にあやはその刺繍を完成させる。
「おりっ!」
「おいっ馬鹿な織鬼がいるぞ。あんなスピードでやったら間違いなく一瞬で魔力切れになるに決まっている」
「いやー久しぶりにアホを見たわ! いいぞ! もっと飛ばせ!」
沢山のヤジが飛び交うなかでアヤは気にせずにどんどん作っていく。
少なくとも今回参加した織鬼の中で一番スピードがはやい。
「これは予想外のダークホースがあらわれました。ただ、こんなペースでは2回戦はすぐに終わってしまうでしょう。ただ、私はこういう若い選手の暴走のような勢い嫌いではありません」
アナウンサーのように実況している人がアヤに注目してくれる。
映像がアップで映し出される。アヤは自分がアップになっているのに気が付くと、その中で手をあげて振り返す余裕をみせる。
そしてそのまま1位で1回戦を突破した。
「これは……ただいま計測した数値は過去大会の中でも1位ということでした。これはすごい。ただ2回戦はかなり厳しい戦いになるのではないでしょうか」
結果、アヤは圧倒的な力を見せて1回戦を突破した。
アヤは僕たちのところに嬉しそうに走って戻ってきた。
「お疲れ! すごかったな。過去1番だってよ」
「おりっ!」
僕、どうでしたか? って感じで胸をはりアピールしてきたので、思いっきり頭を撫でてあげた。
「1回戦すごい勢いで勝てたからな。2回戦は相手の服に刺繍をするらしいけど、1回戦のスピードであれば2回戦も余裕そうだね。だけど、同じようにできる? 力使い切ってない?」
「おりっ!」
織鬼は全然疲れていないようだった。
むしろ、1回戦よりもやる気にあふれどんどこいといった感じだ。
2回戦まではまだ少し時間があるので、僕たちは前に行ったケパブサンドのお店へ行く。
「おぉ! お前たちさっきの1回戦ダントツで突破していたやつだろ?」
「おりっ!」
「面白かったぞ! うちのケパブを買いに来てくれたのか?」
「おりっ!」
「じゃあ無料で食ってけ! 他の奴らもいいぞ」
「いいんですか?」
「もちろんだ。面白ければ人も集まってくるしな。そこの椅子に座って食べていってくれ」
おじさんは本当に僕たち全員にケパブを無料で提供してくれた。
僕たちがおじさんのところで食べていると、1回戦で戦ったのが印象強かったのか本当にアヤの周りに人が集まってきて応援の声をかけてくれるようになった。
もちろん、ケパブ屋の前で休んでいたのでケパブにも長蛇の列ができていた。
おじさんの思い通りの僕たちはいい宣伝になれたようだ。
だけど、応援してくれる人たち以上に僕たちが注目を集めることが気に入らない人もいるようだった。
僕たちが休んでいるとさっきの蛇女性とその仲間が絡んできた。
やれやれ、どこにでもめんどくさい人たちはいるようだ。